メディアグランプリ

仏壇として毎日拝んでいる絵


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:門間由佳(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
絵は、社長室のデスク脇に飾っています。普通は、【絵をみる】という感覚なんでしょうけれど、私が絵を見ているのではなく、いつでも絵に見守られている気がします。そして、私は絵に向かって毎日、手を合わせています。描いてもらって10年。毎日絵を拝むのがすっかり習慣になりました。今では、この絵がなかったら変な気がします。もう、ここにあるのが当たり前です。
 
私は東京の下町で育ちました。下町では、人と人のつながりを大切にします。中でも、私の生まれ育った下町では、先祖を敬うことを、特に大事にしています。だから、隣近所は、どこでも仏壇があります。私の家にも、もちろん、仏壇がありますし、私が経営する会社にも、仏壇があります。
 
私の経営する会社は、祖父が戦後の混乱期に立ち上げました。祖父がなくなった後は、父が会社を継ぎました。次は私が継ぐことが決まっていて、そのために、社外で様々な経験を積んで、準備を進めていました。しかし、物事は、予定通りいかないものです。父が若くして事故に遭ってなくなり、父が厚い信頼を寄せていた番頭さんが、私の代わりに会社を継いでくれました。子供の頃から知っている誠実実直な方でした。おかげで、無事、社長としての修行を終えて、会社の拡大を目指して、新しい事業を立ち上げるために、会社に戻ることができました。そして、私は専務として、新規事業の展開をスタートして、支社を作りました。
 
そんな頃、小林さんに経営の勉強会で出会いました。「名刺に画家、と大きく書いても目に入らないみたいで『何をしている人ですか?』と質問されるので、絵をメインの大きな名刺を作りました」と、茶目っ気たっぷりに、まるで絵ハガキのような大きな名刺をいただいたのが印象的でした。
 
その時は、「素敵な絵を描く人だな」と何気なく名刺交換して終わりました。勉強会でお会いしたのは、その一度だけだったので、忙しさの中で、忘れていました。
 
しかし、小林さんとは不思議とご縁がつながっていました。その後、私の取引先の社長が、小林さんの絵を持っていることを、知ったのです。名刺交換をした時の記憶が蘇りました。早速、「本物の小林さんの絵を見てみたい」と、先方にお願いして、ご自宅の絵を見せていただきました。「実物は、もっと素敵だ!」と思いました。そして、「私が描いてもらったら、どんなふうになるんだろう」ふつふつと、好奇心が湧いてきて、その方に小林さんを改めて紹介してもらいました。
 
そして、小林さんと再会しました。嬉しい反面、どんな絵を描いて欲しいか、まだ何にも浮かんでいませんでした。しかも、私は絵心もなく、ど素人。恥ずかしいけど、この自分を正直に伝えるしかない。観念して話すと、小林さんは笑って、「私に依頼する人の8割以上は、何を描いて欲しいか、絵のサイズも、分からないまま依頼にきますよ。それでも、最後には、今、最も必要とする絵をお届けできます。大丈夫です」と言ってくれたので、ほっとしました。
 
何しろ、オーダーのために、何を話したらいいのかさっぱりわかりません。小林さんに促されて、思いつくまま、仕事のこと、祖父や父のこと、子供時代のこと、将来の夢など、話しました。
その中で、「私が主にいるのは支社なのですが、本社のように仏壇がないのが心許ないんです」と言った時、「応接間に仏壇があったら、変だけど、鈴木さんにとっては仏壇で、来客には綺麗に見える絵を、描くことができますよ。隠れ仏壇というコンセプトで絵を考えてみませんか?」
と小林さんに提案されて、ハッとしました。
 
そんなことができるのだ! 欲しい! 心臓がドキドキしてきました。
 
「ぜひ、隠れ仏壇というコンセプトで、お願いします」と依頼しました。
 
支社にどんな絵が来るか、楽しみだ! と仕事に一層力が入りました。絵をオーダーするって、こんな効果があるんだ、とワクワクしました。
 
しかし、そんな私の心を打ち砕く出来事が起こりました。社長が急病であっという間に亡くなってしまったのです。社長の急逝に、頭が混乱してどうしたらいいか分からなくなりました。
 
その中でふと、「小林さんに頼んだのは、仏壇だった。そうだ、社長も入れてもらわなければ」と、思い浮かびました。依頼して、絵の内容が決定した後でしたから、小林さんからしたら迷惑な話ですが、その時はそれしか思い浮かびませんでした。
 
そんな乱れた心のまま、小林さんに電話をかけました。混乱したままに、「社長がさっき亡くなってしまったんです。」と話した。携帯の向こう側で息を飲む小林さんの気配がした。そして、少しの間合いの後に、「3代目の社長も絵に入れましょう。とても大切な方ですから。大丈夫、今の絵の中に、違和感なく入れることができます。3人の社長に見守ってもらえる絵にしましょう」と、落ち着いた声が流れてきた。ああ、社長が仏壇に入ってくれるんだ、と、思ったら、心がだんだん落ち着いてくるのが自分でもわかりました。
 
しかも、それはなんとも絶妙のタイミングで、小林さんは、成田空港のラウンジにいたと後で聞きました。まさに、後数分で、ヨーロッパに飛び立とうとしているところだったそうです。これもまた、不思議な巡り合わせでした。
 
そして、ヨーロッパへの出張から帰国して、筆をとった小林さんから、私を励ますように絵の途中経過が送られてきました。細かく経過を刻んで送られてくるその画像から、「落ち着いて仕事に向かって。大丈夫だから」という声が聞こえてくるようだった。
 
その当時、環境の急変についていくのに精一杯だったのを、小林さんが汲み取ってくれたんだな、と、今しみじみと思います。
 
今は、毎日絵に手を合わせるだけでなく、経営の分かれ目の時に、絵に相談を投げかけたり、「こうしたらうまくいくよね」と聞いたりします。その後に、自分の予想と違うことが起きたら、それは、絵という隠れ仏壇の中にいる社長たちから、「それは違うよ」と言われているのだ、と考えるように決めています。そうすると、不思議と事業が発展するからです。だから、絵から見られている、と思うたびに、なんともいえない安心感に包まれて、「きっとうまくいく」と思えるのです。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事