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黒が怖い


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:ときた(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は黒が怖いらしい。
 
そのことに気づいたのは議事録を書いていたときだった。
と言ってもお堅いものではない。学科の会報誌を刊行するにあたってnoteで発信した、学生の「緩い会議レポ」が正解である。
その回の担当になった私はそこに
 
「授業で使うリモート会議アプリは背景色が白だから安心する。zoomは黒で何となく怖い。」
 
と書いた。
その日の会議はいつもと違うアプリを使って行ったので、会議レポの導入として何の気なくこの文章を差し込んだのだ。
けれどふと思った。
なぜ私は黒が怖いのだろう。
 

 
大学三年の初夏。
お店に置かれた消毒液が感染の心配を大いに煽る存在だった頃、私は都内で一人自粛生活を送っていた。全面オンラインの授業に買い出しは極力週に一回と、それはもう徹底した自粛の日々だったと思う。
先の見えない状況下でも、周囲は手探りで就職活動を開始していた。
気軽に情報共有ができない環境をこれほど不安に思ったことない。
そしてこのときほど授業の合間や帰り道、食堂での会話は意味あるものだと痛感したことはなかった。
 
SNSでは
 
「就活用の写真撮った〜」
 
とか
 
「就活のために髪染めた!」
 
とか、着々と皆が進んで行く様子が窺える。
置いていかれるという思いと同時に、見えない何かに捕まるような感覚が途轍もなく怖かった。徹底した自粛が疎外感と不安に拍車を掛けた。
 
そうして私はそれを払うかのように、あるインターンへ応募したのだった。
幸い参加が決定して、オフィスでの開催が知らされた。
興味のある分野の企業だったので楽しみさえ生まれてきたとき、それは起こる。
 
開催の二日前になっても服装に関する記載がない。
 
前年度のサイトには大きく「服装自由」と書かれていたからきっと今年もそうだろう、何日か前になれば詳細が分かるだろう、と高を括っていたのだが一向にその気配がなかった。
慌てた私はすかさずネットに聞く。
 
「服装に関する記載がなければスーツで参加すること」
 
その記事を見てどっと汗が出たのを覚えている。
私はそのとき初めて、自分にとってスーツが嫌なものであったと知った。
 
その次の日は酷かった。
一日中部屋干しの竿に掛けたスーツの視線を感じた。
一日中よくわからない恐怖が自分を取り巻いて動けず、すっかり参ってしまった。
 
そうして開催前夜、「服装自由」の文字が追加されているのを見て、纏わりついていたものが全て吹き飛び、自分まで浮かんでいくような心地さえしたのである。
 

 
「黒が怖い」
 
と書かれた議事録を見て思った。
私は黒ではなくスーツが、延いては就活が怖いのではないか。
自分一人置いていかれるのが怖いのではないか。
そして上手くいかない未来を思うのが怖いのではないか。
 
けれどそこにはあのときほどの息ができなくなる感覚はない。
じっと見つめられ、品定めされているような感覚がなかった。
 
SNSで見かけた二つの投稿。
そのどちらにも写真が付いて、似た姿が写っていた。
そこに写る色は黒だった。
 
スーツと黒髪の、似た姿の二人。
私を掻き乱したのはそこだった。
就活はもちろん不安だが、それよりも皆が同じものに変わっていくことが怖かった。
 
スーツを着ると皆と等しくなる感覚を覚える。
個性が消えて、皆同じ背になるような。
ひとりひとりに番号が振られるような感覚である。
もしかしたら、企業からの「中身を見る」というメッセージなのかもしれない。
そして私の「黒が怖い」というのは根性のない、甘えた発言かもしれない。
それでも私にとってスーツは模範の就活生を作る鋳型のように思われる。
良い数字にならない個性は必要ないと言われているように感じてしまうのだ。
決して自分に優れた個性があるとは思わない。
けれどもし自分がその鋳型に入れられたら型以外のものは残らないように思う。
自分が大切にしてきた感覚や学んできたこと、たとえば芸術なんて多くの場合弾かれてしまうだろう。自分のことばで誰か救えたらなんて願いは現実味がないと言われるだろう。
価値あると信じてきたものを否定され、働くに必要とされているものがないと突き付けられることが怖い。皆と同じ方向を見たとき自分が消えていくことが怖い。
 
黒には等しくなければならないという圧力があると思う。
私はそれが無くなってほしいと願ってしまう。
 
きっと数ヶ月後にはその圧に負けて、皆と同じ顔をして歩くのだろう。
未だ出すのを憚るジャケットに袖を通して、入学時に買ったパンプスを履いて、
ひとりはみ出ることを恐れながら街を闊歩するのだろう。
ここに書いたことは社会人ではない自分の甘ったれた考えなのかもしれない。
それでも今は、どうか黒への恐怖がなくならないかと考えてしまう。
そして数字のような扱いではなく色を見てほしいと願ってしまうのだ。
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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