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「本当の自分の声」ってなんだろう


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山室彩(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
最近、声が出づらい……。
 
寝ても覚めても喉の奥が苦しくて、まるで誰かに首を締められているようだった。
実際はちゃんと出ているけれど、すっきりしない状態が続いていた。
不思議なもので、声が出ないと、元気も出ない。やる気も出ない。
 
重苦しい身体をなんとかしたくて、友人の紹介で病院に行ってみたけれど異常なし。
なんとかならないものか。以前のように気持ちよく声が出る日は来るのだろうか。
 
元々、声の大きさには自信があった。どんなに盛り上がった飲み会の翌日でも、声が枯れるなんてことはほとんどなかったし、「いつも元気だね」て良く言われていたし。
大学の頃に所属していたテニスサークルの練習での「声出し」では声が枯れないから、一生懸命やってない人みたいで、合宿の最終日にまるで勲章のように誇らしそうに「ガラガラ声」で話している人が少し羨ましくもあった。
 
ただ、「うるさい」「その声のボリュームとキンキン声、なんとかならないの?」とあからさまに嫌な顔をされることも、かなり、あった。
 
そんなある日、新聞の折込チラシと共に、無料の地域情報誌が入っていた。
表紙の写真が美しかったので、手に取ってみた。
中にはあるボイストレーニングスタジオの紹介があった。
 
そこでは「本当の自分の声」を見つけるレッスンをしているらしい。
 
「本当の自分の声」ってなんだろう。
もし、今の声が「本当の自分の声」じゃないのなら、「本当の自分の声」に出会ってみたい。
「本当の自分の声」は、私を苦しめることも、人を嫌な思いにさせることも、無いんじゃないだろうか。
 
気がつけば、体験レッスンの予約をしていた。まるで、見えない誰かが、私の身体を操っているようだった。
 
予約の日、指示された通り、運動ができる服と500ミリリットルの水のペットボトルを持ち、表参道にあるスタジオに向かった。
 
スタジオにはすでに何人かの人が集まっていた。中には同業者の人もいて、ちょっとほっとした。更衣室では「靴下って履くのかしら?」「裸足でいいんじゃないですか?」なんて、今思えば些細なことを真剣に初対面の仲間と相談した。
 
ボイストレーニングと聞くと、ピアノに合わせて「あ・あ・あ・あ・あ〜」と発声練習をするようなイメージを持っていた。けれど、それはボイストレーニングではなくて、ボーカルトレーニング。歌うためのトレーニングらしい。
 
今日習うのは、ボイストレーニング。まさに、声のトレーニング。
声を使う人、誰もがトレーニングの対象となる。
 
もちろん、歌手や俳優という「声」を生業としている人もいるだろうが、
たわいのないことをお喋りしたり、子どもに絵本を読んだり、夫と喧嘩をしたり、
部下を褒めたり、お店で店員さんを呼んだりする、つまり、私たちのためのトレーニングだ。
 
意外なことに、2時間のレッスンの内、半分以上がストレッチや簡単なマッサージなどの身体のメンテナンスに割かれた。なるほど、運動着が必要な訳だ。
 
そして、事あるごとに、「ドリンクを取りましょう」と水分摂取を促される。
これは、喉を潤す以外に、筋肉の状態を良くする為にも必要らしい。
 
「声は出すものではなくて、響かせるものです」先生は言った。
 
だから、いわば楽器である私たちの身体をまずは響きやすい状態に調整することから始まる。
響きやすい身体の状態、とは余計な緊張がなく緩んだ状態。
身体だけでなく、顔の力も抜くらしい。
 
「バカになった人から声が響くようになります」
 
確かに顔とベロの力を抜くと、ちょっと恥ずかしい感じの顔になる。
恥ずかしいけれど「本当の自分の声」を見つけに来たんだ。
恥ずかしがっている場合じゃない。
自分に言い聞かせて取り組んでいたら、先生に「バカ」を褒められた。
 
いよいよ声を出す。
 
「あなたの口は、今日からここではなく、『ここ』にあります」
 
と言って先生が指を指したのは「胸」だった。私の口は今日から胸に引越した。
 
「ウルトラマンのカラータイマーの位置」に手のひらを置き、ここを響かせるように声を出そう、と先生は言った。
 
指示に従い、「ア゛ー」と低めの声を出す。
最初は何だか恥ずかしいし、できているのかもわからないし、周りが気になった。
そんな気持ちを振り払うかのように、ひたすら自分の「胸の口」に低い振動を送り続けた。
 
徐々に頭と心の中から日頃の煩わしいことが、ひとつひとつ、消えていく。
気づけば無心に胸を響かせている。
自分の響きの振動で、身体の緊張が緩んでいくのを感じる。
自分の響きで細胞一つひとつの振動数が上がって、体温が上がる。
身体の奥底から元気が満ちてくる。
 
レッスンが終わった。
たっぷりのストレッチとたっぷりの発声。
身体が軽かった。やけに視界が広かった。履いてきたジーンズが、ゆるゆるになった。
初対面の仲間もみんな、お風呂上がりのような顔をしていた。
いつになく、お腹がすいた。(その後、焼肉を食べに行った。)
 
私は、私の心の声に従って、レッスンを始めることにした。
 
毎週土曜日の朝、レッスンに通い始めた。
朝が苦手な私は、原宿駅からスタジオまで毎回ダッシュで向かった。
良いウォーミングアップだ、と言い聞かせて、まだ人があまりいない表参道を転がるように走り抜けた。
 
レッスンに通い始めてしばらくすると、私は私の身体が苦しかったことを忘れていた。
代わりに自分の響きで、心と身体が穏やかになる、ということを実感していた。
さらに、その響きは相手のことも落ち着かせる力を持っているようだった。(仕事でのクレーム対応でその威力は発揮された)
何より、声を響かせると元気になった。心と身体がぴったりと合うような感覚だ。
 
そして、いつしかこのメソッドを伝える側に立場が変わった。
 
人生にはその後を左右するような選択が時折訪れる。
「声」を使う全ての人にとって「ボイストレーニング」はその大きな分かれ道になり得る。
 
「本当の自分の声」に少しでも近づこうと歩むことは、「本来の自分の姿」に近づいていくことに、他ならないのだから。
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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