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個性の時代と燻銀

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大西智子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
先月末で、十数年勤務した会社を退社した。
 
最前線の現場で仕事を続けている方には大変申し訳ないけれど、今年に入って数ヶ月でほぼ全社員が自宅勤務となり、世の中は正体不明の状況に戦々恐々としている時期に、私は体調がすこぶる改善したのを実感した。通勤時間がなくなっただけでなく、仕事に集中できる環境で、多少なりとも業務量が減ったことと、対人関係のストレスが大幅に減ったというのが理由かと思う。これは気のせいではなく、夏の人間ドックでこれまで見たことがない、検査結果がほぼ全てAという結果が証明していた。
 
体調の劇的改善とは反対に、いつも仕事の『楽しさ』を探究していた仕事人間が、いつの頃からか、仕事にワクワクするということがなくなってしまっていた。自分自身を、まるでゴムが伸びた状態だなと、どこか外から傍観している様な状況が続いていた。それでいて、どこかで手を抜くような器用さは持ち合わせていなかったので、淡々と目の前の仕事をこなす作業はだけは続けていた。
 
それでも、コロナ禍で否応なしに、世の中も会社の状況も変化していく。
 
ニュースは毎日、感染者数のカウントをしているし、友達の一人は、転職した会社を両親の介護で辞めることになったと連絡してきて以来、音信不通になっていた。その他、何人かの知人が不眠症を訴えている。愚痴を聞いたり、心療内科の受診を勧めたり、できるか事ははないかと考えても、本当に助けになれる事は限定されていて、気持ちがすっきりしない状況が続いていた。会社の方は、相変わらず、作業の様な、修行の様な毎日が続いていた。
 
ところが、ある月曜日の朝、いつもの様にコーヒーを入れたカップをPC横においた瞬間、ずっとモヤモヤしていたものが、コトリと終点に落ち着いた。退社という選択に辿り着いたのだった。まるで、迷路の中を巡るボールがようやく終点の穴に辿り着いて、コトリと落ちたような瞬間だった。この辺りが良いタイミングかもしれないと、PCが起動する間、すっきりした気持ちでコーヒーをすすった。『ここから先、何をする?』という問いかけが自然と起こって、久しぶりにワクワクした気持ちの芽を見出した。
 
窓の外を見ると、今はもう時期外れで花も咲いていない不格好な桜の木の葉に、朝日差し込んで活力を与えているように、その葉の緑を美しく見せていた。
 
数年前から退社しようかと、転職サイトを覗いていたりしていたけれど、まだ少しはヤリガイと希望を持ち、体調不良が続いていた状況で、転職活動は進んでいなかった。何故この時、急に落ち着いたのかは未だ不明だけれど、この選択は間違っていないという確信が全く不安を寄せ付けず、気持ちはすっきりしていた。
 
昨今流りになっているアーリーリタイアメントや、FIREと言うような格好の良いものではないけれど、少し自由な時間を堪能しよう。サバティカルという長期休暇を取得することもできたかもしれないけれど、気持ちが戻ってこないこの状況では、全てを一旦リセットしてしまった方が良い結果が出てきそうな気がして、海外にいる元上司に一番に連絡した。
 
今は、友人という立場の彼女は、『どうして』と驚きながら優しく理由を尋ね、『寂しくなるね』と言いながら、『あの頑固な上司への説得はこちらでもサポートするよ』と言ってくれた。『次に何をするの』と問われて、『まだ決めてないけど、少しゆっくりするつもり』とだけ答えた。
 
心配性の家族に退社するという話をすると、反対されるかと思いきや、『良いタイミングなんじゃない』とすんなり受け入れられた。拍子抜けした。
仕事の状況を考えても、このタイミングで退社するのは引き継ぎも効率的にできそうだ。
 
そうだ、仕事を辞めたら、留学時代の友達を巡る世界旅行をしようと思っていたんだ。そんなことをすっかり忘れていた。正に、今まで忙しすぎて、心を殺して働いていたのかも。体調が良くない状況が続いていても、忙しいから気のせいだと思い込ませ、漠然と仕事の『楽しさ』を探求しているつもりになっていた。
 
もちろん状況は、海外に行くなんて全く適していない時期だけれど、自由な時間があると思っただけで、ワクワクした。
 
より自分らしく生きる事。それは個性に輝きを与えて美しく見せる。これからはより多くの人がそういう時を迎えるという確信が、これまでの会社時間とのギャップからか、より鮮やかな時間を与えてくれた。オンライン上ではあったものの、介護に明け暮れて音信不通になっていた友達と久しぶりにコンタクトが取れ、海外で活躍する友人と笑い合って、久しぶりに心から楽しめた時間を持つことができた。
 
数十年ぶりに見る友達の顔にはシワが入ったり、体ごと丸く大きくなったりしていたけれど、中身はみんなあの時のまま。どの顔も往年の燻銀に味のある磨きがかかり、個性が光って美しい。
世界旅行はまだもう少し先になりそうだけど、友よ、それまでお元気で!
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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