メディアグランプリ

自由へのパスポート


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:sato(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「入院が決まりました。これからお部屋に移動しますね」
 
病院の救急救命室で看護士さんが言った。
私は硬くて狭いストレッチャーの上で時折襲ってくる激しい痛みに絶叫していた。
 
なぜこんな事態になったか分からない。朝起きたら右腰から腿にかけて痛みが出ていたのだ。首を寝違えたの足腰バージョン? と、はじめはあまり気にも留めていなかった。しかし痛みはどんどん強くなる一方。昼間病院へ行って鎮痛剤を出されたものの全く効かず、夜には耐えられない程の激痛で立ち上がることすら出来なくなり、ついに人生初の救急車のお世話になったのだ。
 
入院すればこの痛みを緩和する何かをやってもらえるだろう。原因も分かるはずだ。入院が決まり、私はむしろ安堵していた。
だが事態はそれほど甘くなかった。MRI検査をしようにも痛みのあまり台に乗り移れないのだ。中断してストレッチャーのままガラガラとまた病室に運ばれる。
 
痛みが引かないまま日を改めて再びMRIにチャレンジ。今回は強力な痛み止めの点滴を入れて成功!
これでどこが悪いのか分かるはず。夜になって主治医の先生が部屋に来た。 ドキドキしながら結果を待つ。もう何と言われてもいい、とにかく結果がハッキリして早く必要な治療に取り掛かりたい。もうそれだけだ。
 
「あのね、MRIの画像見たんだけど」
 
「はい」
 
私は息をのんで続きの言葉を待った。
 
「うーん、良く見たんだけどね、どこも悪い所が見当たらないの」
 
「ええっ?」
 
「うん。痛みのある場所からいって椎間板ヘルニアを疑ったんだけど」
 
「そうなんですか。悪い所が見当たらなくて良かったと言えば良かったのでしょうか……。でもこの痛みはどうしたらいいでしょう」
 
「打つ手が無い。悪い所が見当たらないんだから」
 
「えっ……」
 
かなりの衝撃。この痛みと一生付き合うの? このまま立てないの? 歩けないの? 私は焦った。
 
その後のレントゲンやCTでも診断は付かず、とりあえず骨には異常が無いし、今後は少しずつ立つ→車椅子に乗る→補助付きで歩く、をしてみることになった。
 
看護師さんに支えられて上体を起こしてみる。痛い! 歯を食いしばって左脚を床に下ろしてみる。右脚は持ち上がらないので手伝ってもらう。痛い! それでも何とか両脚の着地に成功し、車椅子に乗り移れた!
 
「大丈夫ですか? ちょっと廊下に出てみますか?」
 
「はい、お願いします」
 
初めての光景が広がっていた。こんな病院に入院していたのか。初めて見るナースステーション。これまでストレッチャーでの移動で天井しか見えなかったし、酔いそうになるので大抵は目を閉じていたのだ。
ラウンジの窓辺に連れて行ってくれた。外の風景を眺めるのは何日振りだろう。急ぎ足で行きかう人の流れが見えた。ほんの数日前まで私もあの中の一人だったのだ。速足で、何なら小走りさえして街中を自由自在に移動していたのだ。痛みに耐えながら車椅子に乗っている今の自分とは遠くかけ離れた別世界のようだ。
 
その夜、外を歩く人達の姿を布団の中で思い出してちょっと泣いた。
好きな時に好きな場所へ一人でふらっと出歩けられる日々。何とも思っていなかったが、何と自由で有難いことだったか!
 
そうこうするうちに次第に車椅子の扱いにも慣れ、痛いながらも自分でベッドから乗り移って移動できるようになってきた。寝たきりの時よりは格段に自由度は上がった。でもやっぱり歩きたい!自力歩行は自由へのパスポートなのだ。何としてももう一度手に入れたい!
 
その一心でリハビリを頑張った。
寝たきりでいると筋力が落ちる、と聞きますよね。あれって本当です。脚を上げるのって結構筋力が要るのです。歩こうとしても脚が上がらないのです。
 
平らなところで躓く高齢者、と聞きますよね。あれも本当です。脚を上げているつもりでいるのですが、筋力が無くて上がらないので床に擦ってしまうのです。
 
このリハビリ期間で、私は筋肉の重要性と高齢者の気持ちが身に染みて分かった。
 
ストレッチをしたり、歩行器や杖を使ったりしながら何メートルか歩いてまた戻ってきたり、階段を一段一段登ったり。リハビリに励んでいるうちに少しずつ痛みが軽減し、入院して3週間。杖をついてなら短距離歩ける状態で退院となった。
退院後もリハビリに通い、筋力がついて動けるようになるにつれ、痛みが治まってくるのを感じた。退院1か月後には痛みはまだ多少残っていたものの杖を使わずに歩けるようにまでなった。
その時、一人でふらりと映画に行った時の気分と行ったら! 一人で出かけてこんなに嬉しかったことは無い。
2,3か月経ち経過観察で通院した時は、道を歩きながら病院の窓を見上げ、入院中に窓から見下ろした、急ぎ足で行きかう人々の中の一人に自分がなっていることに気が付き、感慨深かった。
 
最後まで痛みの原因ははっきりしなかったのだが、おそらく日頃の運動不足も原因の一つだったと思う。その上痛みで一時寝たきりになってしまったので筋力が落ちてしまい、歩けなくなってしまったのだ。落ちた筋肉を再びつけるのは、筋肉を維持するより大変だ。
せっかく取り戻した自分の脚で出歩ける自由を手放さないよう、その後も極力よく歩くようにし、スクワット、ランジ、プランクなど筋肉を鍛える運動を続けている。この運動はシンプルだが効率よく行うには注意点がいくつかあるので、ネットで検索して図解説明を見てから行うようにした。
 
運動不足と聞いてドキッとしたあなた、これからも自分の脚で歩きたいですか? 暑くもなく、本格的な寒さはまだの今の季節は、運動を始めるのにピッタリです! まずはいつもよりちょっと多めに歩いてみませんか?
 
***
 
 
 
 
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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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