メディアグランプリ

クレーム対応のスペシャリストから学んだこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡本 サキ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
以前勤めていた職場は、電話でのクレームが多いところだった。
そこには、どんなクレームでも解決に導いてくれる、スペシャリストがいた。
 
私のいた部署は、インターネット通販部門だったため、通常はメールでのやりとりをメインとしていた。
しかし、クレームに関しては、感情が昂っているせいか、電話をかけてくる人が多かった。
 
その内容は、購入した商品の不具合や納期の遅延など、お客様からご意見されるのは当然のものが大半であったが、なかには、まったくお門違いに感情をぶつけてくるケースもあった。
それは、もはや通り魔のようなものだ。
 
「お電話ありがとうございます。○○ストアでございます」
 
「あぁ、もしもしぃ」
 
この時点で、すでに不穏な空気。そして、続いていく。
 
「あー、おたくのね、商品買ったんやけど」
 
この「おたく」も、こちらにいい印象がない表れ。
ほぼ確定。クレームの電話だ……。
 
「はい、ありがとうございます。いかがいたしましたでしょうか?」
 
「なんかなぁ、届いたケータイケース開けてみたら、iPhone用じゃなくて、iPhone plus用だったんよ。これじゃ、デカすぎて使えんわ」
 
そう、商品ページに「これはiPhone plus用です」と目立つように書いても、よく確認せずに注文ボタンをクリックしてしまう人が、本当に多いのだ。
当時ショップの規約で、たとえ未使用品であっても、一度開封してしまったものは返品を受け付けられないことになっていた。
 
「はぁ? なんで使ってないのに返品できへんの?」
 
「大変申し訳ございませんが、商品ページにも『iPhone plus用』と記載しておりますし、当店の規約で、開封後の商品につきましては、未使用でも返品ができかねます。
ご希望に添えず、誠に申し訳ございません」
 
これで諦めてくれるお客様がほとんどだが、ここからトップギアに入ってしまうお客様もいる。
そうなったら、あとは、ひたすらお客様のお話を「はい」と「ええ」で聞く時間。
商品ページが見づらい、開けたら返品ダメなんて聞いたことない、詐欺と一緒だ、など気の済むまでしゃべって、「もう、ええわ」でガチャンと切られる。漫才か……。
 
あるとき、あまりにも理不尽なクレームをしてきたお客様がいたので、その要望にお応えできない理由を細かく説明していたところ、こちらも説明に熱が入ってしまい、ついお客様の言葉にかぶせて話してしまった。
 
……しまった、と思った。
案の定、相手は気分を害してしまったようで、数秒の沈黙。この沈黙ほど怖いものはない。
その後、こう言った。
 
「あなた、よくそんな態度で電話対応してるわね。もう別の人に代わってください」
 
そう言われ、私はその電話を、クレーム対応の神である(と、私が勝手に思っている)男性の先輩に、頭を下げてお願いした。
その先輩は、普段から穏やかな話し方で、声のカンジも柔らかく、相手の戦意を喪失させることとなったら右に出るものはいない、まさに神だった。
 
電話が終わると、すぐに先輩のところに行き、クレーム対応を押し付けてしまったお詫びと、最後は丸く収めてくれたことへのお礼を言った。
先輩は、「大丈夫だよ。クレームは、人が変わると解決することが多いからね」と言ってくれた。
 
自分の行いを反省し、それからは、そのクレーム対応のスペシャリストの電話の様子を、よく観察するようにした。
そうすると、いくつか発見があった。
 
ずいぶんとゆっくり話す。
「ええ、そうなんですね」と同意する相づちをする。
お客様のお名前を「○○様」と、ところどころで呼ぶ。
 
なるほど。
ゆっくり話してみると、自分がお客様のペースに持っていかれず、冷静に対応できることに気づいた。
「ええ、そうなんですね」と同意すると、お客様の敵意が和らぐのを感じた。
「○○様」とお名前を呼んでから話し始めると、お客様が話を聞いてくれることも分かった。
 
それらのことから私が思ったのは、クレーム対応のスペシャリストは、幼稚園の先生のようであるということだ。
 
私には4歳になる姪がいるが、ときどき姉と一緒に幼稚園に迎えに行くことがある。
そこでいつも見るのは、幼稚園の先生たちの穏やかで丁寧な対応だ。
園児に分かりやすいようゆっくりと話し、園児の言葉に笑顔で相づちをし、「○○くん」「○○ちゃん」とたくさん名前を呼んであげている。
 
クレーム対応は、相手と同じトーンで話を進めてはいけないのだ。
怒りや不快感でいっぱいになっている人を、まずは冷静に話ができるところまで落ち着かせることが先決。
そのためには、幼稚園の先生のような広い心で、相手の話を聞いて寄り添うことが必要だ。
冷静になって、ある程度の敵意が落ち着いたところから、交渉スタートとなる。
 
話ができるようになれば、こちらの言い分も多少考慮してくれるようになる。
そして、折り合いをつけられるように話を進めていくのだ。
 
当時、これが分かってからは、クレーム対応がそこまでこじれなくなった。
たしかに、落ち込むことやイヤな気分になることはたくさんあったが、相手に人格を指摘されて、さらに別の人に対応を代わってもらうという、ダブルパンチは受けなくなった。
 
その仕事に長けている人には、それだけの理由がある。
私たちは、日々いろいろな方向にアンテナを向け、それをキャッチして、自分自身に取り入れていくことが大切である。
自分が何かに行き詰まったときは、誰かの行動を参考にしてみると道が開けてくるかもしれない。
初めはマネをして、それを自分流にバージョンアップしていけばいいのだ。
 
自分の周囲には、常に学びがあふれていることを忘れてはならない。
 
 
 
 
***

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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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