メディアグランプリ

言えない疾患

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:清水 あゆみ(ライティング・ゼミ集中コース)
注:お食事中の方は後でお読みください。
 
 
突然ですが、皆さんは「下半身」と聞いて何を思い浮かべますか?
 
ちょっと卑猥なことが思い浮かんだ人、「冷え性」とか「大腿部骨折だけは避けたい」など健康と老後の生活のかなめのようなイメージが浮かんだ人、様々だと思います。
 
では「上半身」と聞いて何を思い浮かべますか?
 
それは心臓、とか事実が思い浮かぶ人は多いと思いますが、そこから派生される壮大なイメージは沸かない人が多いのではないでしょうか。
 
やはり「下半身」って単に「体」という概念に収まりきらない「命のストーリー」「神秘性」みたいなものが刻み込まれているのだと思うのです。
 
しかし、そこが病に侵されたら?
痛い、とかかゆい、とか事実はもとより、やはりそれ以上の「命のストーリー」や「尊厳」みたいなものまで脅かされることになると思うのです。
 
ただの「患部」ではないのです。
 
わたしは最近まで下半身にとある疾患を抱えておりまして、それはそれは「尊厳」との闘いであったのです。
 
患部がかゆくて、一時間おきに目が覚めてしまいます。
数日で治ると思ったのに一週間以上長引きます。
寝不足が続き、目の下には黒いクマができはじめています。
仕事は集中できず、しょっちゅうトイレに行きます。
 
芸能人の自殺が相次いでいたこともあり、職場のこころある人たちはすごく心配してくれます。
「大丈夫?」「辛いことがあったら言ってね」「うちには療養休暇という制度があるよ」
なんてやさしい人たちなのか、いいとこに就職したな、と涙が出そうです。
でも、この一言が言えません。
 
「私、痔なんです」
 
痔だって立派な疾患です。
結構辛いんです。
 
なのになんでしょう。
この「プッ」とわらっちゃう響き!
 
「なーんだ、痔か。プププ」
 
「いつもばっちりお化粧していても痔かあ」
とかそんなことを言われるのではないかと恐れていたのです。
 
理由を考えてみました。
ひとつ思い当たるのは「命にはかかわらない病気だから」ということ。
 
しかし、「生理痛」はどうでしょう。命に関わらず下半身の痛みです。
でも「私生理痛がひどくて」と言って「プッ」と笑われることはありません。
「辛いね」と深刻さを共有してもらえることがほとんどだと想像できます。
 
もうひとつの理由を考えてみました。
「おしり」と「う〇こ」というのは幼少期に「タブー言語」「おもしろ言語」としての立ち位置を確立しており、そのイメージがいまもなお、根強く残っているのではないでしょうか。
 
クレヨンしんちゃんの「おしりぺろーん」の世界です。
「う〇こ、う〇こ!」と叫べば、大好きな女の子やお母さんが追いかけてきてくれる魔法の言葉です。
 
そのイメージは「大腸という身体の大切な臓器」「排泄という命の営み」という後からの学習で覆せることもなく、大人になってもなお生き続けている。
 
それが「痔」への「クスッ」というイメージなのだと思います。
 
この「おしり」という「神秘性」と「おもしろ性」のはざまで苦しんでいたのだと悟ります。
ついに辛さは限界を超え、
5歳のころから「わたしには恥じらいとプライドがあります!」と叫んで行くことを拒んでいた「肛門科」へ行くことを決心します。
 
ネットで病院探しです。
若くてイケメンのお医者さんがいるところは避けます。
できればおじいちゃんか女性がいいです。
でもなかなかありません。
なんで今どきの医者はイケメンなのでしょう。天は二物を与えてはいけません。
 
結局、なるべく尊厳を傷つけないためにホテルのようにきれいな病院を選びました。
予約のHPでは「予約券番号でお呼びしますが、お名前は呼びません」と書いてあります。
 
「はずかしめ」に対する意識はみな同じのようです。
 
番号で呼ばれました。こんなにドキドキするのは幼児期の注射以来です。
 
やさしそうな女性の看護師さんが出てきてようやくほっとします。
私の前で大きめのタオルをひろげ、
「ここでショーツまで脱いでください。そして壁に向かってここにくの字で寝てください。」と指示されます。
くの字で寝ると絶妙なタイミングでそのタオルをかけてくれてお尻は見せずに済みます。
そうすると、おそらく男性である先生がうしろからやってきます。
お顔は見えません。症状を一通り説明すると、お尻に金属の細い棒のようなものが入れられます。
向かっている壁には大腸と肛門の図が貼ってあり、それを棒で指し示しながら患部の説明を受けます。
出されるお薬の説明を受け、先生は去っていきました。
最初から終わりまで医師の顔を見ることはありませんでした。
 
無事診察が終わり、同じ診察を経た5歳くらいの女児が泣きながら病室から出てきます。「ふえーん」と泣くその姿は「単に注射がこわかった」子どもとはちがい「おんなの子としての恥ずかしさ」のようなものを感じました。
 
身体って、単なる臓器の集合体ではなく、その場所によりさまざまなストーリーや想いがあって葛藤があって、ひとことに「患部」では済まされないのだなあ。ということが今回のことでわかりました。
 
今の医療機関は単に治すだけでなく「恥ずかしさ」や「恐怖」にも配慮してくれるものだということにも感動しました。
 
みなさんも「言いにくい疾患」であっても迷わず病院に行くことをお勧めします。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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