彼岸花と稲穂と開けてはいけない箱
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記事:松並実洋(ライティング・ゼミ集中コース)
「あぁ、きれいだ」
秋分。
空が澄み切り、金色の稲穂が頭を垂れる。
その頃に突如緋色の花が一斉に咲く。
一般的に花びらがある柔らかな花とは全く雰囲気が違う。
花と言うより華である。
一寸の狂いもなく同じ形の花が秋の彼岸に合わせて咲き出す様子は見事である。
その花はお彼岸の時期に咲く。
だから名前は彼岸花(ヒガンバナ)と言う。
一斉に咲き乱れる彼岸花を見て、疑問に思った事はないだろうか。
「なぜ彼岸花は一斉にお彼岸に咲くのか」と。
実は日本の彼岸花は種を残すことができない。
つまり答えは日本にある彼岸花は全てクローンだからだ。
クローンだから同じ大きさ、同じ高さ、同じ花のつき方、同じ時期に咲くのだ。
種で増えれない代わりに根が別れる分球と言うやり方で増えている。
球根では種子のように風に飛ばされることも、動物に運んでもらうこともできない。
では、どうやって全国に移動したのか?
彼岸花はある決まった場所でよく見かける。
田んぼの畦道、川沿い、そしてお墓。
つまり人間によって運ばれ、増えてきたのである。
では、何のために我々の先祖は彼岸花を増やし、全国に運んだのか。
彼岸花は食べると中毒を起こす。それは花から葉、球根に至るまでリコリンとガラタミンと言う毒を持っているためだ。彼岸花はその毒を地中に流すことで自分と競争関係である近くの他の植物をはえ難くしたり、自分を食べにくる虫や動物から身を守っているのである。
昔の人はそこに目をつけた。彼岸花の毒の効果を利用したのである。
雑草がはえる量を減らす目的で田んぼの畔に植え、当時土葬だったお墓を獣に荒らされないために植えたのである。
時々意外なところに彼岸花が咲いているのを見かける。それは新しく盛り土をしたところだ。どうやって彼岸花は新天地にやってきたのだろう。それはおそらく持ってこられた土に彼岸花の球根が混ざっていたのだ。彼岸花は牽引根という、土の上に丸裸にされても自ら土の中へ引っ張ることができる根っこを持っている。その力は強い。そうやって彼らは新しい地で堂々と暮らしている。
昔の人はその牽引根の力も利用した。川が氾濫して土が削られ丸裸になりそうな川沿いに植え、土留めの代わりとした。また、田んぼの畔にも土を留め固める意味もあって植えていた。
そうやって人は彼岸花を利用してきた。
秋の風物詩の彼岸花の緋色と稲穂の金色のコントラストはこう言った理由で生まれたのである。
たくさん利用価値のある彼岸花の毒。その毒は実は水溶性である。何度も何度も水に晒すことで無毒化できる。食べ物がなかった時代、子供の握り拳大の球根に豊富に蓄えられたデンプンを使わない手はない。幾度の残念な事件はあったであろうが、彼岸花は飢饉の時の救荒作物だった。大正時代までは彼岸花のデンプンは市販されていたほどポピュラーなものであった。
突然だが「この箱を開けてはならない」
そう言い伝えのある箱がある、のは地方に行けばよくある話だ。実際開けてみるとその中身は魑魅魍魎が。ではなく穀物の種が入っていることが多い。人払いをまでして大事にしてきた理由は飢饉への備えであった。次年度のための種すら残せないほどの天災があった際、その年のために播くための穀物の種なのだ。安易に使ってはならない。「開けてはならない箱」は最後の最後の希望であり砦なのである。
「彼岸花はかぶれるから触っちゃダメ」
私の住む地方ではそれは通説である。彼岸花は触っただけでかぶれる植物。そう認知されている。だが、実際は彼岸花はかぶれないのである。なぜ頑なに、幼稚園児までもが彼岸花はかぶれると信じているのだろうか。
答えは「開けてはならない箱」であった。百姓にとって彼岸花は防草剤や獣避け、防災にも使える上に非常食にもなる、頼もしいパートナーであった。そんな代々培ってきた彼岸花を不用意に荒らされてしまったらどうなるだろう。川は氾濫しやすくなり、田んぼの畔が壊れ稲の不作、非常食ですら手に入らなくなってしまう。そうなっては困る。忙しい百姓としては彼岸花の有益性を知らない人々にいちいち説明する時間はない。なので一言「かぶれるから触るな」と言えば彼岸花を利用しない人たちは触らなくなる。
一番「かぶれる」で効果的なのは子供だ。「いたずらするなよ」「触るなよ」と言っても子供のは必ず「するなよ」を破る。だが「かぶれる」ならどうだろう。絶妙な良い方だ。
食べ物が豊かな時代になった現在、彼岸花が生活の最後の砦であったことが忘れてしまった。にも関わらず私の地方では「かぶれる」伝説は脈々と受け継がれている。不思議なものだ。
豊かになったった代わりに、昔の生きる知恵は風化されてしまった。
「かぶれるからダメなんだよ」
そう言われながら私は彼岸花を使った昔ながらの草花遊びを子供たちに教えている。
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