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「老後」を考えるのをやめた話


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記事:てしがわらひろこ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
30代前半ごろ、やたら老後の心配をして過ごした時期があった。
会社員として順調なキャリアもあり、安定したお給料をもらって過ごしていたにも関わらず、無性に不安になっていろいろなことを調べていた。
「老後資金2,000万」などと話題になるよりもっと前のころ、わけもなく一人で勝手に心配していた。まだまだ先のこと過ぎて見当がつかないだけに、収入がなくなった老後、一体どうやって暮らしていけばいいのかと途方に暮れていた。
 
そして今現在はどうかというと、ウソみたいにまったく心配も不安もない。
現在、私も夫も会社を退職し、それぞれフリーランスという形態で仕事をしている。安定とはほど遠く、守ってくれる会社もなければ、明日だってどうなるかわからない。老後の心配をするならむしろ今でしょ、と思う。
 
なぜ心配も不安もなくなったのか。決して自暴自棄になったわけではない。
理由の1つは、多種多様な生き方をしている人に出会ったことだ。
それまで私のまわりには、安定した会社員などをしている人が多かったけれど、ある時期からだんだんとその構成が変わってきた。
 
主に夫のまわりに面白い生き方をしている人が多く現れるようになった。
バックパッカーとして世界を回り、帰国しては工場で働いて資金を貯め、また旅に出る人。
一流企業を辞めて、無農薬にこだわった農家になるため里山へ移住した人。
「人生なんて遊びだよ」と言っている人もいた。
 
やりたいことを見つけて、好きなことを仕事にし、収入が減っても、あるいは一時的になくなっても、のびのびと生きている。みんな良い表情をしている。そして自分の特性をよく理解し、何事もおおらかに受けとめて暮らしている。
「そういうのいいな」と何となく思って眺めているうちに、私の頭もほぐされていった。
大学を出て安定した会社に就職し、定年まで勤め上げなければまっとうな暮らしはできない。そう思い込んでいたが、そうなると「今」というのは老後のためにあるようなものだなと気づき、そこに違和感を覚えるようになった。
 
もう1つの理由は、父親が51歳のときに急逝したこと。
本当にある朝突然、心臓が止まったのだった。正確には、蘇生に半分成功したためその1年半後に亡くなるのだけれど、あの日あのまま還らぬ人となってもおかしくはなかった。
 
父親が亡くなっていることを話すとき、「聞いてはいけないことを聞いてしまった」感が生じるときがある。けれど、私としてはむしろこの経験にはとても感謝しているので、気兼ねなく聞いてもらえたら嬉しい。
親が子供より先に亡くなるというのは自然なこと。たしかに若かったとは思うけれど、仕方のないことだと今はすっかり受け入れている。
 
父の心臓が急に止まった日の夜、医師からは、そのまま意識が戻らないかもしれないという話があった。
最後に話したことは何だっけ、伝えなきゃいけないことは伝えていたのだろうか、先週会いに行けばよかった、などと悶々としつつ「朝起きたら全部夢だったらいいのに」と本気で思った。そんなセリフはドラマのなかだけのものだと思っていた。
当たり前のように明日が来るということは、全然当たり前ではないということが、本当に本当によくわかった。
 
その後、意識はぼんやりと戻ったものの、脳に障害が残ったため24時間看護が必要な寝たきりの人となった。意思疎通ができることもほとんどないままだった。
交代で看護が必要な上、いつ何があるかわからない状態だったため、毎年恒例だった沖縄旅行にも行けなかった。ちょっと遠出することさえ気が引けて、携帯は常に肌身離さず持っていた。
そういう1年半を終えてたどりついたのは、「行きたいと思ったらすぐ行って、やりたいと思ったことは今やる」ということだった。
 
想像しているような「老後」は、もしかしたら来ないかもしれないのだから。それどころか「来年」「10年後」も、もしかしたら来ないかもしれない。
目の前にある仕事や環境を言い訳にして、「やりたいことは老後に」などと考えていたから、あれほど老後資金の心配をしていたのだと思う。
 
お金はもちろん大切だけど、やりたいことがあるなら挑戦してみるべきであって、失敗したとしてもうまくいくまで続ければいいだけ。
父の看護を通してそういう思考に変えてもらうことができ、良い意味でわがままになれた。
 
そもそも「老後」って変な言葉だ。
定年とか終身雇用とか、社員か非正規とか、そういう考えが変わっていくこの先に、果たして「老後」って存在するのだろうか。
 
「老後」があるとしたら、それは自分で決めるタイミングであって良いと思う。
もちろん、先々安定した生活をするためにお金を貯めることは、決して悪いことではない。でも人生100年時代、60歳で退職してもまだ残り40年が待っているのだ。
その40年をどう生きるかを考えたとき、お金がまあまあある、というだけで良いのだろうか。
何歳になっても続けられるような仕事や生きがいを見つけられるよう、若いうちからいろいろな挑戦を重ねることが、本当の豊かさにつながるのではないかと思う。
 
「明日死ぬかもしれないのだから」と思って生きるのは、ある意味では自分の人生に無責任なのかもしれない。でも、今日一日がいつも通り終わるのは、もしかしたら奇跡なのかもしれない。
そうだとしたら、やりたいことがあるのなら今すぐやる、それが正しい生き方なのではないかと考えている。老後ではなく、「今」を生きる人生でありたい。
 
 
 
 
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2020-11-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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