みんなに「生まれて良かった」と思える人生を【最終章】
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:布井健登(ライティング・ゼミ 秋の集中コース受講生)
「あなたは何のために生まれてきたのですか?」
幼稚園児だったある少年は、こんな幼少から不思議なことを考えていました。彼がこんな疑問を持つようになったのは、あるきっかけがあったからです。
それは「フランダースの犬」 です。昔、毎週日曜の夜にアニメで放映されていました。
なぜこのアニメで、大人でも答えられないような難問が思い浮かんだのか? あの衝撃なラストシーンを見たときです。このときに、本当にごく自然に心に思い浮かんだのです。
ネロと飼い犬パトラッシュが、疲れ果ててとある教会にたどり着きます。その教会が、彼らにとっての最期の場所でした。「もう疲れたね、パトラッシュ」力なく呟いたネロに、パトラッシュがそっと寄り添います。
すると、天から「いく筋もの光」 が、彼らを照らし始めます。その光の源から、何人もの天使が下りてきて、肉体から離脱した彼らの魂を連れて楽しそうに天に昇っていった、あのシーンです。
彼は、このシーンを見て蛇口が壊れた水道のように涙が止まりませんでした。この涙は、感動とか悲哀とか、そういう類のものではないのです。上手く伝わらないかも知れませんが、「意味が分からないけど涙が止まらない」 としか言いようがありません。
そこで、彼は強く心に誓いました。
「僕は将来これになる!」天使のことでした。
その少年は真剣でした。どうしたら天使になれるのか? 正真正銘、本物の天使になりたいのです。
その少年は28歳になりました。この歳に彼は、壮絶極まりない経験をしました。お父さんの事業が倒産してしまったのです。その日にお父さんは岐阜県の山奥へ車で走り、車中で自らに灯油を撒き、孤独に焼身自殺をしました。
彼は泣きわめきました。「なぜ父の苦悩を理解できなかったんだろう」 自分をうんと責め続けました。というのも彼はずっと、お父さんの工場を手伝っていたからです。
元はというと、彼は工場を手伝うつもりなんてありませんでした。だから、彼は大学を出たあと、国家資格を取得するために専門学校に入り、昼夜勉強していたのです。しかし、その間に、お父さんの工場の業績が傾き始めました。
彼は思いました。「勉強だけやってるのも、もう限界だな」 資格取得をスッパリ諦めて、家業を継ぐ決意をしました。
なぜここまでスッパリと自分の夢を諦められたのか? それは、お父さんを尊敬していたからです。そりゃあ、生きている頃はよくケンカをしていました。親子ですしね。でも、芯ではお父さんが大好きな青年でした。
そこからの彼は、4tトラックを乗り回し、フォークリフトもスイスイ乗りこなす。空回りして、顧客や取引先に怒られることもしばしば。でも、工場を立て直すことだけに集中したので、全く気になりませんでした。
しかし、一向に業績は良くなりません。毎月、支払いの目途が立った例がありませんでした。そのたびに、銀行に頭を下げたり、税理士にアドバイスを求めたり、お金のためだけに走り回る日々が続きました。消費者金融にまで手を付けてしまい、高金利に苦しめられました。
しかし、平成10年10月。とうとう手形の決済ができず倒産。この日にお父さんは、木炭のような遺体になって帰ってきました。
彼はこのとき、また思いました。「人は何のために生まれてくるんだろう」
お父さんは、こんな経験をするために生まれてきたんだろうか?そして見送る自分は、何のために生まれてきたんだろうか?
でも、彼にはたった1つだけ確信していることがありました。これも上手く伝わるかどうか不安ですが。
「『子は親を選べない』はウソ。自分はこの父親を選んで生まれてきた!」 これを彼は、あの幼稚園児のころから知っていたのです。
彼は、「自分も死んだ方が良いんじゃないか」 と思いました。しかし母は、父が自殺することを知っていたのに「両親が自殺したら、子がこの先不幸のどん底に落とされる」 と生きる方を選びました。それを聞いて、彼は思い直しました。
その後、彼は必死で働き、勉強もし続け、国家資格を手に入れました。人の10倍働き、10倍覚えないと、父が浮かばれない。その思いだけが、彼のエネルギー源でした。
それから10年経ちました。彼はある場所で、スピリチュアルカウンセラーの女性に出会いました。
彼は、その類の人の言葉は一切信用しません。ですが、このときに生まれて初めて、魂の全ての力が抜けきった思いをしたのです。なぜなら、彼が幼稚園のころから抱き続けてきた問いが、完全に氷解したからでした。
「あなたは生まれる前、天使だったの」
嘘か本当は、全くわかりません。でも、そんなのどうでもいい。瞬間的に、心と身体が一気に軽くなっていったからです。
「そうだった。あのアニメの天使のように、僕は父を天国へ迎えに生まれてきたんだ」
そう自分を思い出すと、天からいく筋もの光が射しはじめ、彼は生まれてきた幸福感に満たされたような気がしたのです。「きっと、父は浄化されたに違いない」 と信じました。
人は自分を思い出し、幸福になるために生まれたと思うのです。みんな、幸せを経験するために生まれて、やがて浄化されるんだと信じています。
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