2回癌になった私が強運なわけ
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記事:中山るみ(ライティング・ゼミ集中コース)
2020年夏、私は2度目の癌になった。
2010年、初めて受けた健診で癌がみつかった。
エコーにだけ気になる点がある。と医師から言われ検査をした。
全く自覚症状はなかったが初期の癌だった。癌と告げられた時には
目の前が真っ白になったが、初期だったため、手術をして3週間後には仕事に復帰できた。
月日は流れ、今年、2020年夏、癌患者が再発の恐怖から脱却できる10年が
経とうとしていたその矢先、私は右胸に違和感を持った。触ってみるとシコリがある。『再発だ』その瞬間に体が震えて涙が出た。震える手で夫に電話をした。
夫は、私の話を聞き終えてから「一緒に病院に行こう」と言った。
いつも通りの穏やかな口調だった。
病院で検査を終えて診察室に入る。医師の前にあるマーモグラフィの映像には
私の目にも白い影があるのが分かった。私は大学病院で詳しい検査をすることになった。
大学病院の第一外科。待合室にいる人達は暗い色の洋服を着て下を向いている。
明るく笑っている人はいない。空気がどんよりとしていた。ふと窓の外を見ると
中庭の池に鴨の親子が泳いでいる。子鴨の姿が愛らしくて、私はその泳ぎを目で追いながら、一瞬自分がおかれている境遇を忘れることが出来た。少しの憩いの時間。その時間は私の番号が呼ばれると同時に終了した。
診察室に入ると40歳前後の男性医師が笑顔で挨拶をした。キリッというよりは
フワッとした感じ。ドラえもんのキャラクターでいうと、ジャイアンでもスネ夫でも、できすぎ君でもない。のび太君だ。風貌通りの優しい話し方。私はこの医師に誠実さを感じ、すべてを任せようと決めた。
大学病院でさらに検査をし、私の癌は確定した。しかし、再発ではなかった。
10年前とは癌の種類が違う、新しい別の癌だった。
私の手術は検査から1ヶ月後の9月24日に決まった。
大学病院の手術室、それはテレビドラマでみる世界のようだった。手術台に横になってから周りを見渡すと何人もの人が働いている。私を助けるためにこんなにも多くの人が力を貸してくれるのかと思うと涙が出た。「大丈夫ですか?」と声をかけてきた若い女性がいた。前日、病室に挨拶に来てくれた麻酔科医だった。
「まもなく、麻酔を始めますね」点滴で麻酔薬が体に入る。『痛い』と感じた瞬間、深い眠りに落ちた。
私は夢を見ていた。「終わりましたよ」誰かの声で目が覚める。
手術台の上だった。私は直ぐに先生を呼んだ。「先生リンパは?」
もしもリンパにとんでいたら、転移の可能性が高いのだ。
先生は「大丈夫。リンパにはとんでいなかったから」と答えた。
ホッとした瞬間、体に痛みが走った。
術後の経過はすこぶる良かった。次の日には自分の足で歩き、点滴も外れた。
痛みはあったが痛み止めの薬に助けられた。
手術から4日後に退院した。
手術が終わったからといって、癌が完治したわけではない。摘出した癌組織を
調べて今後の治療方針が決まる。私には大きな心配事があった。
それは抗がん剤治療だった。抗がん剤は決して悪い薬ではない。しかし私の癌の抗がん剤は髪の毛が抜ける。さらに抗がん剤治療は免疫力が低下すると言われている。髪の毛はウィッグでなんとか隠せたとしても、このコロナ禍で多くの人と関わる仕事には復帰出来ないだろう。
退院後、診察日は火曜日だった。私はクローゼットから赤いワンピースを選んだ。
色には人の気持ちを変える力がある。パワーが欲しい時、私は赤を身に付ける。
絶対大丈夫。どんな結果が出ても諦めない。自分にそう言い聞かせた。
担当医師から詳しい説明があった。
ステージ2~3。転移はなし。そして私の癌は、乳癌の中でも2%~3%しか発症しない珍しい癌『粘液癌』だった。
これは比較的静かな癌で抗がん剤が効きにくく、薬の効果が高い癌だった。
結果、今後の治療は投薬治療のみとなった。
さて、ここまで読んでいただいて、あなたは私を強運だと思いますか?
物事や結果は、『とらえ方』によって変わります。
10年で2回癌になった事実は変わりません。しかし、癌になった後、どうして癌になったのか悩み悔やむのと、1回目は初めての健診で初期の段階で判明し、2回目は転移もなく術後は投薬治療のみとなったことを喜ぶのでは大きな違いが生まれます。私は後者でした。
痛くて苦しい思いをしましたが、その中で人生において
大切なのは人との出会いだということを心から強く思いました。
夫、友人、仕事仲間、お客様、医療従事者の方々、本当に素晴らしい人達に支えられました。感謝の気持ちでいっぱいです。
尊敬する事務所のボスからは「あなたには、まだまだやるべきことがある
ということだ」と言われました。
やるべきことはなんなのか、そのうち見つかるでしょう。今から楽しみです。
病気はしない方がいい、でも病気になって知ったこと気付いたことが沢山あります。私はこの経験を忘れず、糧にして前に進んで行きます。
では、今回の記事はこの一言で結びましょう。
「10年で2回癌になった私は強運です」
***
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