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「夢」は出世魚のように


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:伊藤朱子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
みなさんには今、「夢」はありますか。
「あなたの夢はなんですか?」と聞かれて、スラスラと答えられる人はどのくらいいるのだろう。
 
私は「伊藤さんの夢って何?」と、お世話になっている大先輩に聞かれて、面食らった。
40歳も後半になって、「夢」について聞かれるとは考えたこともなかった。その言葉すら、久しく聞いたことがなかったのではないか……。
 
「夢、ですか?……」
 
「夢」なんて、「夜、寝ている時に見るもの」というイメージしかない。
しかも、最近では全くと言っていいほど、夜の夢すら見ることはなくなってしまった。
 
「夢というか、何というか……、老後はのんびり田舎で暮らしたいですね」と、
何とも煮え切らない、中途半端な答えをしてしまった。
先輩もちょっと拍子抜けしてしまったような、そんな反応だった。
 
「いやね、もうすぐ71歳になるんだけど、自分の75歳の店じまいのイメージができないでいるんだよね」
と先輩は続けた。
 
先輩にいろいろな場面でお世話になって、かれこれ10年ほどになる。今まで常に、数十年後の将来、もしくは十数年後のなりたい自分をイメージして人生を突き進んできたような人だ。そんな先輩が歳を重ねて、今は4年先がイメージできないというのだ。
 
それで私に、「将来どうなっていたいか」ということを、イメージしているのかどうかを聞いてみたいと思ったというのだ。
 
「夢は何?」という問いは、大げさな質問のような気もするが、「将来どうなっていたいか」は先輩にとっては、将来の「夢」を語るようなものだったのだろう。
 
先輩の質問の意図は理解できたが、改めて考えてみると、私は人に話せるほどの「夢」を今は持っていないということに気がついた。
 
小学生の頃、「将来の夢は何?」と聞かれると、多くの子供は「なりたい職業」を答えてきたと思う。よくあるアンケート調査によれば、小学1年生の「将来なりたい職業」の1位は、男の子が「スポーツ選手」、女の子が「ケーキ屋さん・パン屋さん」だそうだ。
 
私も将来の夢を聞かれて、小学2年生の時には「バイオリニスト」と文集に書いたことを今でも覚えている。この「夢」だが、何の覚悟もない「夢」だった。バイオリンを習っていたのは確かだが、そんなにのめり込んでいるわけでもないし、ただ、他に思いつかなかったから書いたようなものだった。ましてやどうしたら「バイオリニスト」なれるのか、その時は全く想像もできていなかった。
 
子供の頃の「夢」なんてそんなもので、どうしたらそれが叶えられるのか、大抵の子供はわからないで言っているだろう。そう、だから本当に「夢」は「ただの夢」で、ほぼ妄想に近い。
 
ところが、中学生、高校生くらいになると、「夢」はもう少し現実味を帯びてくる。より、身近なものに影響を受け、どうしたら叶えられるのか、もしかしたら少し道筋が見えてくるかもしれない。こうなると、夢は「叶えられる可能性がある夢」になってくる。
 
ちなみに元メジャーリーガーのイチローさんは、小学6年生の作文で、プロ野球選手になるまでの道筋をイメージしていた。イチローさんにとって、この時すでにプロ野球選手になることは「叶えたい夢」であり、「叶えられる可能性がある夢」であったということだ。
 
もちろん、「夢」は職業ばかりの話ではない。子供の頃は「なりたい職業」がイメージしやすかったかもしれないが、「一生のうちで一度はやってみたいこと」も「夢」になるし、「欲しいものを手にいれること」も「夢」になるのである。それら「夢」を叶えるために、道筋をイメージできるかはとても重要なことだ。
 
この道筋をイメージすると、そこにはクリアしなければならない「ハードル」が現れる。「夢」は何もハードルがなく叶えられると「夢」ではなくなる。そう、「夢」を叶えるためには困難があり、努力を伴うから「夢」なのである。この「ハードル」をクリアすることを「目標を達成する」というのかもしれない。
 
「夢」と「目標」は違うものである、という考えもあるかもしれないが、私は叶えたい「夢」の延長線上に「目標」があり、そしてこの「目標」の延長線上に「叶えられる夢」があるとも考える。
 
人は成長すると「夢」を漠然としたままにはせず、「目標」に置き換え、設定し、その一つ一つをクリアしていく。「夢」を「夢」のままで終わらせない。しっかり「目標」を持って行動し、それを達成していく。
 
そうか、でも、今の私には「夢」はないが、「目標」はあるのだ……。
 
本来「目標」は「夢」があるから設定されるように思っていた。しかし、「夢」がなくても自分が達成したいと思うものを「目標」と呼ぶのであれば、私にはいつも「目標」がある。
 
人生の中で「やってみたいこと」や「なりたいもの」は、初めは子供の頃に持った妄想のような「夢」からスタートするのかもしれない。それが、いつの間にか成長とともに、現実味を帯びた「夢」を持つようになり、やがて具体的な「目標」に変わっていくこともあるだろう。「目標」を達成することをくり返していると、大きな「夢」は薄れるのかもしれない。でも、「目標」も、現実的に達成する「夢」の一つのようだと思う。
 
そう、「夢」はその人生の時々で色々な姿がある。
「妄想のような夢」
「叶えたい夢」
「叶えられる可能性のある夢」……。
「夢」がもっと現実味を帯びてくると「目標」と成長する。
 
「夢」まるで出世魚のようだ。
呼ばれ方も姿もその人生の時期で変わり、成長したその姿もある。
「夢」は私の人生の海で泳ぎ、成長する。
 
出世魚がその成長の時期のその美味しさがあるように、「妄想のような夢」も楽しめたし、「叶えたい夢」も楽しんだ。「目標」となって、達成感を得られている。
 
もし、「夢」を諦めなければならなくても、きっとそれは「人生の糧」という名前の、成魚に成長したのだと思う。
 
今は私には「目標」しかないが、「目標」が成魚の終わりではないかもしれない。また、成長し、名前を変え「夢」という成魚になることもあるだろう。
 
私は、先輩に言った。
「4年後に店じまいは早くないですか? まだ、店じまいの必要ないですから、もう少し、先をイメージしてください」
 
「そうだね」と先輩は微笑んだ。
先輩の中の「夢」はまだ成長の途中なのだ。きっと。
 
いつまでも「夢」を語りたいと思う気持ちは本当に素敵なことだと思った。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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