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何も言わないことが良薬になることもある。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:スミオク ミホ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
頭のちょうど真うしろ、脳天から5センチ下あたりに小さいハゲがある。
私は女だけれど、その小さなハゲとともに40数年生きてきた。
 
先日、寝癖がひどくて、うしろ髪が大きく2つに分かれたようになっていた。
洗面所の三面鏡の前でブラシでとこうとしていたところ、右の鏡にチラリと映った。
「思ってたより大きいし目立つんだな、このハゲ部分……」
 
(“ハゲ”と書くと心象が悪いと思うので、“ハゲ部分”と書くことにする)
 
それを自分で鏡を覗いて見ることはほとんどなかった。
見ないようにしている、というのが正しいかもしれない。
しかし、頭を触る時はどうしてもそこに指が届く。つい、ハゲ部分をなでてしまう。
それは人差し指の腹くらいの大きさで、ツルンとしている。
毛が生えていない証拠だ。
 
触りすぎたのか何かで擦ったからなのか忘れたけれど、カサブタのようになっていたこともあった。いつものツルツル部分が、しばらくガサガサの状態になっていた。
毛が生えていない皮膚ということだ。
 
新しい美容室に行くたびに少々気まずい空気になる。
大抵はなにも言わずにソッと隠してくれるけれど、「ここどうされました?」と聞いてくれる美容師さんもいた。
もしかして他にもハゲ部分付きの女性はいるのかな、と思いながら確認してみたことはない。
 
そう、頭皮を触る美容師さんでもほとんど黙っていてくれるので、見ないようにしているとはいえ、特に気にして生きてきたわけではなかった。
女で、頭のど真ん中に小さいとはいえハゲ部分があるなんて、欠点以外の何者でもないと思うのだが、これが原因で塞ぎ込むとかしたことはない。むしろ1日の大抵の瞬間でそのことは忘れている。
普段の私は結構ネクラなので、仕事が遅い、ママとして全然だめ、朝起きられない、旦那のことまで気が回せない等々、自分の欠点を列挙してはいつまでもクヨクヨしたりするのだけれど、そういえばこのハゲ部分に対してはそうではないのだ。
どうしてだろうか?
 
1〜2歳の頃、当時住んでいた家の縁側から庭に転がり落ちて、頭を石にぶつけて病院で数針縫ったことがある。(もちろん覚えているわけではなく、残っている痛々しい写真と聞きかじったことのつなぎ合わせの記憶だ)
ずっと、このハゲ部分はその時の傷跡だと思っていた。
が、母に確認してみたところ、違うと言われた。
「生まれた時からあったよ」
驚愕の事実。
「細胞が死んでるとか、なんかかねぇ」
すごく適当なことを言われている気がした。
 
「なんで教えてくれなかったの」
と、口から出かかったけど言わなかった。母は忙しくて子どもとあまり接しない人だったから、教える機会がなかっただけかもしれない。
 
さいわいなことに周囲の他の人からも特に突っ込まれたことはない。私は背が低いし、もしかしたら上から見れば丸見えかもしれないのに。それとも人は、それほど他人の細部のことまで気にしていないということだろうか。
 
そもそも欠点だと思っているのは自分だけなのかもしれない。
母も、よく考えれば、私がイチイチ気にしないように言わずに過ごしてきてくれたのかもしれない。
腫れ物に触るという風でもなく、隠していたわけでもなく、ナチュラルに流してきた結果。
今まで気にしないで生きてこられた。
何も言われないということで、何も気にしなくてよかったという効果があったわけだ。
 
さっきも書いたけれど、ネクラな私は落ち込むと引きずってしまう。これが生まれた時からあった、ごめんね等と子どもの頃に聞かされていたら? 想像して少しゾッとした。
 
自分の5歳と6歳の子どもたちを見ていても、言ってほしくないことや、触れてほしくないことがあるんだろうなと感じている。
うまく出来なかったことや、何かを壊してしまった時など、言わずに隠そうとする。泣きそうになりながら耐えていたりする。
もう少し大きくなれば、身体のどこかに気に入らない箇所を見つけて、落ち込むのかもしれない。(今のところ2人ともハゲ部分はないけれど)
 
それらのマイナス要素に対して、自分で伝えてくる時以外は首を突っ込まないで、何も言わず見守ってあげるのが大切なんだろうなと思う。母は気にしていないよ、それは欠点でもマイナスでもないよと無言で伝えるのだ。
それが将来の、ポジティブとまではいかなくてもマイナス要素を自然と受け流す力に繋がるのだろう。それはどんな良薬よりも心に効く。
 
そうは言ってもまだ小さいこともあって、もう少し素直に伝えてきてくれてもいいのにと、つい首を突っ込んでしまう自分もいる。
もう少し適当に対応して、私の母のような適当な良薬になりたいなと、ハゲ部分をなでたりしながら考えているのであった。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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