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メディアグランプリ

髪を切る僕の一太刀に宿るもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:くろだ しゅんすけ (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「承知しました、任せてください!」
 
とは言ったものの、ハサミとクシを持つ手は汗ダクで
当時まだ駆け出しの僕には余裕のかけらもなかった。
 
車、靴、バッグ、アクセサリー、洋服、爪、肌、メイク、所作
足の先から頭の先まで全てにおいて強いこだわりを持つ
その女性の美意識とオーラに僕は圧倒されていた。
 
皆さんはないだろうか?
 
想像していた仕上がりと違ったり、イメージが伝わらなかったり
美容室でガッカリした経験だ。
 
美容師とは、スタイリストとしてデビューしているからと言って
何でも対応できるわけではない。
当然失敗することもある、そこから学ぶ事を繰り返しながら成長していく。
 
どの業種でもそうなのだろうが、この手に職と言われる美容師は
営業、カウンセリング、提案、施術、接客、お手入れのアドバイスなどを
限られた時間の中で感動していただけるように努める仕事で
一日でも、十数名のお客様を担当することもある。
人員も限られており、予約制のため、こちらの不備で約束を破りお待たせすれば
当然お叱りも受ける。
 
その奥様を担当する事になった当時、まだまだ未熟な僕は
「なぜ僕に?」と疑問を抱く反面、とても光栄に思っている自分もいた。
 
経験も知恵も知識もまだまだ少ない若造を信じて
難しいオーダーを毎回一生懸命伝えて下さる。
 
「もっとトップをフワッとしてボリュームを出したいんだけど、クセのおさまりもよくしたいのよ、けど普通のデザインはイヤなの!」
 
頭の骨格も毛流れも髪のクセの対応も非常に難しく、たとえ要望を聴くことはできたとしても、僕のカットの技量とセンスでそれを実現できるのか不安や焦りもあり、カウンセリングしながら逃げ出したくなる時も過去にはあった。
 
毎回、全力を出し切って担当させていただくものの
僕自身の納得いく仕上がりと想像するリアクションも良くない方にギャップがあった。
 
それでもなぜかまた来てくださるのだ。
 
前回の何が良かったとか、夏に染めた色にまたしたいなど
鮮明におぼえて下さっていた。
僕はその都度、毎回の成長を披露すべく余すところなく全力を出し切った。
 
だが、ある日を最後に予約が入らなくなってしまった。
振り返って不満だった点を洗い出したが、全くわからなかった。
 
ご家族も担当させていただいており、ご主人は変わらず毎月担当させていただいていたが
さすがにきくわけにもいかず、数年が過ぎた。
 
今年になりコロナ渦に入ったある日の事
 
奥様から予約の電話が入ったのだ!
 
「娘が結婚するから綺麗にしなくちゃ! だけど……」
なるべくお客様が少ない時間と、可能な限り人との接触を避けたいとの要望があった。
電話口の声は以前と変わりなく上品で美しかった。
 
また会える事がとても嬉しかった。
奥様から多くの物を学ばせてもらった僕は店長となり
以前より自信もつけていた。
 
御来店当日、車から降りて店内まで歩いてくる奥様を見てすぐに悟った。
 
「髪の毛なくなっちゃって、ようやく生えはじめて来たんだけど何とかできる?」
 
娘さんの結婚式に向けて洋服を買い、それに合わせて髪をオシャレにしたい。
髪が足りないから、服に合わせたヘアバンドをしてそれを活かす
カットとカラーをしたいと。
洋服の色、デザイン、素材、あらゆる情報から最適な髪型、色を一緒に考えた。
技術にはもう迷いなどなかった、手に汗をかくこともなく
ただただ、再開と幸せなその時間を余すところなくやり切った。
 
来て良かったと喜んで帰ってくださり
後日改めてカットで御来店いただいた際にも
嬉しいお話をたくさんきく事ができた。
 
9月末。
ご主人より、出張で妻の髪を切ったりできないかな?
と依頼された。
 
もちろん断る理由などない。
すぐ会社に確認をとり、お受けさせて頂けることとなりメールでその旨をお伝えした。
 
連絡ありがとうございます。 妻も大変喜んでいます。
日時等はあらためて連絡させてください。
明日から多分一週間ほど入院になりますので退院後にまた連絡させていただきます。
 
そう返信をもらい、僕は連絡を待った。
 
妻は退院して家に戻っているのですが少々体力が落ちていてヘアカットはしばらくは難しそうです。改めて連絡させてください。
 
奥様のカットをする事が叶わなくなってしまった。
 
「美容師として後悔などあろうはずがない」
そう思える自分を育んで下さった奥様に改めて感謝の気持ちが溢れてきた。
 
ご自宅まで手を合わせにいかせていただき
奥様のおかげでたくさん成長できて今があるという感謝の気持ちを伝えてきた。
生前、僕に対してやお店に対しての奥様の気持ちも初めてきかせていただく事ができ
これからの美容師としての新たな決意が生まれた。
 
僕の一太刀に宿る思いは、こうして日々たくさんのお客様の思いが重なり合っていく。
一期一会、改めて人との出会いを大切にしようと誓った。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 


 
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2020-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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