メディアグランプリ

愛のメガネ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:キムラアヤ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なぜもっと指示を出してくれないんですか! 指示を出すのがあなたの仕事でしょ!」
 
「指示を待たずに、ご自分の判断で仕事をしてください。判断に迷う時は、私に相談してください」
 
コロナでリモートワークが始まる前の、私のオフィスでの日常だ。
私には、50歳を過ぎる年上の部下が3人いた。その中で一人だけ、どうしても上手くコミュニケーションの取れない男性がいた。それが故に、堂々巡りのような会話が時折繰り返された。
 
「私よりキャリアも長いですし、経験も豊富なので、ご自分の判断で仕事を進めてください。あと、必ずスケジュールは守ってください。これは仕事の基本です」
 
いつも彼に言っていることだった。
子供のお使いじゃないんだから! と口から出そうになるのを、グッとこらえて飲み込んでいた。
 
どうにかコミュニケーションを取れるように、そして意欲的に仕事をしてもらうために、色々な方法を試した。
それでも、彼と良好な関係を築くことはできなかった。
 
それまで私は、人とのコミュニケーションに悩んだことはほとんどなかった。
なぜ、上手く伝わらないのか?
これはきっと、私のコミュニケーションの取り方に問題があるのだろう、という結論にいたった。
 
それではと思い、コミュニケーションスキルを上げる講座を受け始めることにした。それはNLPという心理学をベースにした、コミュニケーション方法だった。
そこで最初に学んだのは、人には外部情報を受け取る場所(感覚)に違いがあるということだった。
視覚で情報を認識する人、聴覚で認識する人、そして体感覚でキャッチする人。
この3つに分類されるという。
だからもし、相手が自分と違う感覚で情報をキャッチする人であるならば、相手に合わせた情報の出し方をすれば、コミュニケーションが取れるというのだ。
 
「なるほど、私は視覚で情報を認識するけれど、耳で指示を聞きたい彼は、きっと聴覚で情報を集める人なのかもしれないな」
 
NLPのスキルを学んだ私は、その部下はきっと、情報の受け取る感覚が私とは違う場所なのだろうと理解した。
 
しかし、この方法を学んでいる最中に、コロナが広がり、ロックダウンとなり、リモートワークが始まって部下とも顔を合わせなくなった。
 
そうこうしているうちに、私が会社を辞める日がきた。
結局、なぜ彼とコミュニケーションが取れなかったのか、検証することはできなかった。
 
会社を退職してから3か月後、私は「空間デザイン心理学」という新しい学びを始めた。これは、空間と環境が人のココロにどのように影響するのか、という学びで、建築に携わっている私には、とても興味深い分野だ。
 
その学びのひとつ、進化心理学によると、動物の行動の根幹には全てにおいて「愛」がある。それは適応度、つまり繁殖成功度を高めるためのものだからである、という考え方だ。
ここで大切なのは、人間も動物であるということ。
 
「誰かを傷付けてしまうような行動も、根本には「愛」があるというのですか?」
 
ZOOMの中のクラスメイトが先生に質問した。
 
「例えば、誰かをいじめる子供がいるとします。いじめという行為自体は、もちろん人を傷つけているので良い行動とは言えません。しかし、心理学の観点から見てみると、それは、いじめている子供は自分を守るという「愛」の下に起こしている行動とも言えるのです」
 
私には、この説明が妙にしっくりときた。
もちろん、誰かを傷つける行為はしてはならないことだ。しかし、その行為の背景には「愛」がある。例えそれが間違った形の愛だとしても。
 
「先生、そしたら、人間の行動を愛を持って見られるように「愛のメガネ」をかけてみたら、今までと違って見えるかもしれませんね」
 
クラスメイトが言ったその言葉に、私も「愛のメガネ」をかけてみようと思った。
 
コロナ禍で新しい生活様式を強いられて、他人の行動にストレスを感じたりすることは誰にでもあると思う。
 
例えば、マスクをせずに歩いている人を見かける場面。
「なぜマスクをしないで歩くのかしら。人のことも考えずに、自分勝手な人で迷惑だな」と今までの私なら思っていた。
 
でも、「愛のメガネ」をかけてこの場面を見てみると、受け取り方が変わる。
 
「(生きるために)呼吸を楽にしたいのかな。もしかしたら具合が悪いのかもしれないし」
たとえばこんな感じに、受け取り方を変換できるのだ。
 
「愛のメガネ」をかけて物事を見るようになって数日後、ふと、コミュニケーションの取れなかった年上の部下のことを思い出した。
 
私に散々不満をぶつけていた彼の態度も、「愛」が根本にあったのだろうと。
それは自分を守りたいという愛かもしれないし、仕事をなくさないように、家族への愛かもしれない。
そこにはどんな愛があったのかは分からないけれども、きっと何かを守るのに必死だったのだろう。
そう思うと、彼の行動も穏やかな気持ちで受け止められた。
みんな動物なのだから、生きていくための繁殖成功度を高めるためにとった本能なのだと。
 
私はこの「愛のメガネ」を手に入れてから、イライラすることが少なくなった。コロナ禍で思うようにいかないことは多いし、自分勝手なことをする人も結構いる。
でも、彼らの行動も動物としての本能なのだ、一生懸命生きているんだなと思うと、なんだか愛おしくも感じられるから不思議だ。
 
日食を見るときに専用の眼鏡をかける。すると、肉眼では見られない神秘的な現象を見ることができる。
「愛のメガネ」も同じで、事柄の裏にある、表面的には見えない事柄が見えてくるのだ。
そして、人間も動物なんだと思えると、その行動も本能なのだから仕方ないね、とクスっと笑えて愛おしくさえも思えてくる。
私はこのメガネが気に入っている。
 
みんな動物で、みんな愛おしい。
不安も多くて、ストレスでイライラすることも増えている。こんな時だからこそ、「愛のメガネ」を試しに一度かけてみて欲しい。
 
きっとあなたにも、何かを守ろうと頑張っている、人間という動物の姿が見えてくると思うから。
このメガネをかける人が多くなれば、もっと世の中が優しくなれると思う。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 


 
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事