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ブリに楽しさを学ぶ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:五十嵐唯(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あぁ、やってしまった」
日曜日の深夜2時、紅く染まった風呂場で、包丁を握りしめた僕はそう呟いた。
 
遡ること11時間前、日曜日の昼過ぎ、僕は友人と静岡県の網代漁港にいた。
「竿とか餌とかは船宿の人が準備してくれるから心配しないでいいよ」
と誘われたので、船釣りなどしたことがなかったが静岡までやってきたのだ。
 
「夜釣りになるから防寒着を持ってきた方がいい」という友人の言葉に従い、
12月の夜だけど暖かく過ごすために、準備したライトダウンジャケットを着込む。
 
漁船は夕方出航するようで続々と釣り人が船に乗り込んでいく。
僕と友人も船の一角に腰掛けて船員からレンタル竿の使い方についてレクチャーを受けた。
 
夕暮れとともに船は漁場を目指す。
 
船に寄せる波が落ち着き、エンジン音が静かになると、
船に吊るされていた白熱電球に火が灯る。
 
竿を下ろし餌をつけてイカを釣る。
この光に吸い寄せられるようにイカがどんどん釣れる。
僕も友人もバケツで泳ぐイカを見て一安心した。
 
「さあ、ここからが本番だ」船が再び動き出す。
今回はバケツに入っているイカを餌にブリを釣りに来たのである。
 
夜が更けてくると体にかかる波しぶきと吹き付ける風が冷たくて手がかじかむ。
魚群探知機がブリの群れを発見したのか船の動きが緩やかになる。
 
船長の合図とともに船外の釣り人が一斉に竿を下ろした。
隣の釣り人が50cm以上のブリを釣り上げている。
船の下にはブリがいるのだ。
 
僕の竿にも引きが来た。
慌てて引きに合わせて竿を上げてリールを巻く。
海中を右に左に泳ぐブリが船に吊るされた白熱電球の光で銀色に反射している。
ブリが逃げようとする力が竿に伝わり、リールを巻く腕に力が入る。
何とか船の上まで釣り上げたブリはこれまで自分が釣ったことのない大物だった。
 
漁港に戻り、苦労して釣ったブリを氷が入った箱に詰める。
箱は魚市場から飲食店への流通に使用される大きなサイズなので車に載せるのも一苦労だった。
 
「ブリのエラと内臓を処理して冷蔵庫に入れておけばブリが美味しく食べられるよ」
というアドバイスを受けて友人と別れ帰宅した。
 
家に着くと早速、車からブリの入った箱を下ろす。
どうやって料理してやろうかワクワクしながら箱からブリを取り出した。
 
そして、この時はじめて気づいたのである。
僕が暮らしているアパートの台所には、まるまる一匹のブリが乗らないことに……。
 
日曜日も深夜1時を回り、月曜日の朝にはいつも通り会社に行くつもりである。
 
今からどうする? 魚屋さんで捌いてもらうか? こんな時間に?
しかし、苦労して釣ったブリを放置すればせっかくの鮮度が落ちてしまう。
クッ、こうなっては仕方ない、水が使える広いスペースは、我が家には風呂場しかない。
風呂場で捌くしかない。しかし、風呂場で料理の下拵えをしてもいいものか?
いや、迷っている暇はない。とりあえず風呂場に新聞紙を敷けば何とかなるはず、
と決心して風呂場にブリを持ち込むことにした。
 
もうすぐ深夜2時になろうかという時、スマホのYOU TUBEでブリの捌き方を学習する。
動画の手順に沿ってブリを捌けば、ものの数分で片付くはずだ。
風呂場の作業も最小限に留められると思った。
 
風呂場に敷いた新聞紙の上にブリを寝かせる。
握りしめた包丁でブリのエラに刃を入れるが、刃が引っかかる。
なぜだ、僕のイメージではザクザクっと華麗にエラを切り落としている。
お野菜やお肉などが切りやすくできている家庭用包丁の底力を見せたいではないか。
 
包丁の角度や手首のひねりを変えて繰り返し刃を入れると
ブリの身がボロボロになり、風呂場の新聞紙が紅く染まっていく。
無情にも過ぎ行く時間の中で僕は、華麗な手捌きには練習がいるなと思うのであった。
 
何とか強引にブリのエラと内臓を処理した僕は、冷蔵庫にブリをしまうことにした。
そして気づいたのだ。僕が使っている小さな冷蔵庫には、ブリが収まらないことに……。
 
このままでは苦労して捌いたブリの鮮度が落ちてしまう。どうする?
今からYOU TUBEでブリを3枚に下ろす方法を学習して切り身の状態まで持っていくのか?
いや、迷っている暇はない。もう深夜3時前、眠いのだ。
 
僕は冷蔵庫の中に入っていた物を取り出してプラスチックの棚を全て外すことを決断した。
そして、冷蔵庫にブリを「斜めに立てて」しまうことにした。
冷蔵庫の中に魚を立てかけることは経験したことがなかったが上手くやることができた。
 
これでいいのだ、これで明日から美味しくブリを食べることができると眠りについた。
 
翌日、ブリを3枚に下ろして切り身にした。
ここまでくればスーパーのお魚コーナーで見かける切り身の姿となる。
 
刺身、ブリの照り焼き、ブリ大根など、
クックパッドで料理のレシピを検索して美味しくブリを食べることができた。
1週間に渡りブリ尽くしだったので飽きないように工夫したのもまた事実である。
 
何はともあれ、一匹のブリから夜釣り、魚の捌き方、魚の美味しい食べ方までを
学ぶことができた。なかなか充実した体験だったのである。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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