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座禅は体と心のCTスキャン


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西野順子(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
先日、京都の両足院というお寺に座禅に行った。受付をすませ、お寺の中に入ると、目の前に庭が広がる。敷き詰めた白砂が朝の光を受けて輝いている。空気も澄んですがすがしい。100畳もあろうかという広い部屋には座布団が45枚縦に横にきちんと並んでいる。参加者は思い思いの場所に腰を下ろした。
 
しばらくすると、若いお坊さんが入ってきて、自己紹介のあとこう言った。「おはようございます。今朝は靄がかかっていたので、松の葉に雫がついていますね」 よく見てみると、松の尖った葉っぱ1本1本に雫がついていて、朝の光を受けてキラキラ輝いている。今まで、松の葉なんてじっくり見たことなかった。目の前の庭に形良く配置された石、ほうきで掃き清められて等間隔で線が付けられた白砂などを一つ一つじっと見てみる。こんなにしげしげお庭の細部までを見たことはない。
 
簡単に座禅の説明を受けたあと、チーンと澄んだ鐘の音を合図に座禅をする。耳を澄ませると、小鳥が遠くの方でピーッピーッと鳴いているのが聞こえる。しばらくするとカーカーカーとカラスの声が聞こえる。ふだんこれだけ音だけに集中することはないが、結構いろいろな音がしていることに気付く。
 
次に、自分がスキャナーになったかのように、、頭のてっぺんから足の先まで少しずつ場所を変えて体の隅々まで読み取っていく。足の小指はどうか、薬指はどんな感覚か、自分の体の一点を見つめ、感覚を味わってみる。不意に、こうやって体の器官が動いているから、今自分がいるんだなあということに気付き、感謝の心がわいてきた。体の細部を見つめ続けると、手の先に風が当たってスーッと冷える感覚、ふわっとした温かみ、など場所によって感じていることが違うことに気付く。床にピタッとついている足の甲には板の固さが伝わってくる。手の甲をおいた膝のあたりは血が流れている感覚がする。こうやって細かく気を向けてみると、体からふだんは気がつかなかったようなメッセージが伝わってくる。
 
お坊さんが、「脳は自分に直接有用なことだけを考えがちですが、こうやって細部を見つめて感覚に目を向けてみると、いろいろな発見があります」と言っておられたが、その通りだと思った。
 
座禅が終わったあと、お坊さんが話をしてくれた。「座禅というと無になって何も考えてはいけないと思う人が多いのですが、そんなことはありません。仕事の事がふっと浮かんできたり、家族のことが出てきたり、いろんな考えが湧いてくるのが普通です。出てきた考えも大きくなったり、すうっと消えておだやかになったり、そういうことの繰り返しです。私たちでもそうです」私も、はじめは無心ににならないと、と思っていたので、この話を聞いてほっとした。
 
このお坊さんは、去年まで3年間僧堂で厳しい修行をしていたそうで、修行中は日に5時間以上は座禅していたという。その時に座禅をしていて感じたことについて話してくれた。
 
「このあたりは蚊がたくさん飛んでいます。頭は特に体温が高いので、よく蚊に刺されます。刺されたあと猛烈にかゆくなるけれど、掻くと警策(けいさく)という棒で叩かれるから、掻くこともできません。はじめはかゆい、かゆいとばかり思っていたのですが、しばらくすると、このかゆみって何なんだろう? とかゆさの中身について考えるようになりました。じっくり考えてみると、かゆみの成分は快感が7割でかゆみと痛みが少しずつあるような気がしました。その次からは蚊に刺された時は、7割の快感のほうに目をむけるようにしたのです。僧堂には時計があったので、かゆさはどれぐらい続くのか? と思って測ってみたら、私の場合は大体10分ぐらいでかゆみがなくなること、刺されたところを触ると、かゆく感じる時間が伸びることがわかりました。そうやっていったん自分の感覚を切り離すことで、蚊に刺されることを客観的に見ることができるようになったのです。
 
かゆさのしくみがわかると、ふだん僧堂で労働をしていて、蚊が手にとまった時、今までだと反射的にパチンと叩いていたのが、一旦これをどうしようと考えるようになるのです。蚊は刺した瞬間に液を入れるので、その時点でかゆくなるわけです。その時点で叩いても、蚊が腹いっぱい血をすった状態で叩いても、私のかゆみは変わらない。逆に叩くことでかゆみを感じる時間が伸びるかもしれない。じゃあどうしようか? と考えるのです。かゆみを咀嚼して味わいつくしたことで、このようなことを考えるようになりました。
 
同じように、毎日毎日僧堂でずっと座っていると、最初の頃は「こうやって座り続けることに何の意味があるんだろう」とか、「こんなことやっていて大丈夫だろうか。世間から取り残されないだろうか」という不安や恐れがわいてくることも毎日のようにありました。でも半年ほど経って、自分は何を不安に思っているのだろう? 恐れはどこから出てきているのか? と考えるようになりました。そうやって不安や恐れといった感情を味わい尽くすと、私の感覚が変わってきて、恐れや不安を客観的に見ることができるようになりました。
 
最近は電車に乗っているときに、近くで会話が聞こえてきたら「座禅タイム」と思って、会話を集中して聞いていたりします。内容によっては、聞いているとイライラしすることもあるのですが、その時一旦立ち止まって、なぜ自分がイライラしているかを客観的に見てみると、イライラが収まります。イライラしたり怒ったとき、それを自分の教科書と捉えて、自分だったらその問題をどのように解決するか? どう処理するかを考えることもできるし、イライラするなぁと単なる雑音として扱うこともできる。どちらを選ぶかは自分で決めることができるのです」
 
何かよくわからないけど、深い話だ。お坊さんというのは、こうやって自分の体と内面を見つめ続けることで、自分の感情をコントロールできるようになるのか、自分もこうやって感情をコントロールできるようになりたいと、考えさせられました。
 
1時間半の座禅を終えたら、心身共にすっきりしました。家で一人でやる時と違って、こういう空気の澄んだ落ち着いた環境でやると集中度が違います。毎月1回、機会を作って自分の体と心を見つめ直す時間を作ろう。次は冬の寒い時に座禅をしたいと思った。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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