メディアグランプリ

おしゃれじゃない私のおしゃれ論―映画『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』から学んだこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田村 彩水(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
物心ついた頃から、おしゃれに関心自体は寄せていたように思う。
でもおしゃれが何かは、よくわからなかった。今でもわかっているとは言い難い。
思い返してみれば、私のおしゃれ遍歴は、恥の記憶から始まる。
小学校に上がるまではとにかく某美少女戦士のアニメにドはまりして、キャラクターのプリントされたTシャツをよく着ていた。そのTシャツに袖を通すときにはいつも気分が上がり、自分がそのキャラクターのようなカッコいい存在になったような気がして、心から満足していた。
それが小学1年生になった頃、私服で遊びに出かけたときに友達から強烈な一言を放たれることとなる。
 
「小学生にもなってまだアニメの服とか着てるん? ださ」
 
頭にさっと血が上り、顔が赤く火照っているのを感じた。
そうか。私のこの格好ってダサいんだ。子供っぽくてカッコ悪いんだ。
そのときまでの6年間の人生最大の惨めな気持ちを噛み締めた出来事だった。
 
それ以来、思春期も、社会人になってからも、なんとなく周りを見渡して、自分の格好が浮いてないかな?少なくともダサくないかな?と考えるようになってしまった。
性格上、そこまで流行に敏感ではないが、それでも周りをきょろきょろ見回して、おかしくないかな……と気にする心を片隅に飼いながら、買い物をし、クローゼットに手を伸ばしている。
おしゃれって、難しい。いつもどこか、自信を持ちきれない。
 
そんな中、アイリス・アプフェルという、94歳のNY在住のファッションアイコンのおばあちゃんを追いかけたドキュメンタリー映画をみた。
かっこいいおばあちゃんだった。
それはもう、痺れるくらいに。
 
私はいわゆる「おしゃれな人たち」をみると、とても気後れしてしまう。それは、あの6歳の時の苦々しい経験からのコンプレックス故でもあるが、どうしても、「私、素敵でしょ!?」という無言の圧力を感じ取ってしまい、素敵かどうかは別として、正直ちょっと、というかかなり、圧倒されてしまうからだ。
 
そして今回も、縁のドデカすぎる眼鏡が特徴的な彼女の、カラフルすぎかつアクセサリージャラジャラ着けすぎの奇抜なファッションから、やはりとてつもないエネルギーを感じたのだが、不思議と、胸やけを起こすような厭ぁな感じはなかった。
とはいえ、彼女のファッションに対して、素直に、めちゃくちゃかっいい、真似したい!となったわけではない。かなりうるさめの柄物のトップスに、アフリカかオセアニアかどこかの民族の通過儀礼に用いるような、彼女の顔ほどもある巨大な腕輪を何個も身につけたりしているところなんかは、いやそれ、おしゃれか?!と素直に疑問だった。
もしかしてツッコミ待ちなのか?とさえ思った。
だってそのブレスレット、もはや少年漫画の主人公が普段自分の力を抑えるために四肢につけてる鋼鉄の足枷的なやつやん。ラスボス戦の後半に、「ついに本気を出すときが来たようだな……」って不敵な笑みを浮かべながら外して、地面にどしゃって落とすあれやん。
こんな調子で普段持ち合わせてもいない関西魂のようなものが燻り、映画を観ながら一人でうずうずしてしまった。
 
だが不思議なことに、その奇抜としかいいようのないスタイルが、もうこれ以外ありえないと思わせるくらいにビシッと決まっていることに気付く瞬間があるのだ。
諸々の奇天烈さへのツッコミが済んだ後、冷静に引きで彼女をみてみると、アクの強いひとつひとつのモチーフが相互に作用しあって全体を形づくり、ひとつの、他にはない強烈なパワーを発する彼女だけのスタイルを作り上げてしまっていることを発見する。あれ、カッコいい……?
めっちゃ変な格好やのに……なんかカッコいい?!
 
しかしそうはいっても、いや、やっぱそれ変な格好やで?という気持ちもずっと心のどこかに残っている。
そしてついには、これをわからへんのはやっぱり私がおしゃれじゃないからか……?と、なんだか自分のジャッジに自信がなくなってくる。まるで挑発的な現代アートに出会ったときのようだ。
 
カッコいいと変てこりん、対極であるはずのこの二つの感性すら、満足に自分でジャッジする勇気がない私に対して、彼女の主張は強く、潔い。
そしてこれがいい、というものに対して、彼女の好みというものはあっても、「高級だからいい」とか「ブランド物だからいい」とかいった思い込みや偏見が一切なく、いいと思ったものは、雑貨屋の小物だろうが、ワゴン売りのエスニックジャケットだろうが、バシッと「素敵ね」と言い切る。あくまで自分の知識と経験で磨かれた、感性の呼びかけに応じて取捨選択をしていっている。
 
「組み合わせ方に特にルールはないの。あっても破るだけよ」
 
「ハリーウィンストンより、4ドル程度のアクセサリーに心躍るの」
 
引用 映画『アイリス・アプフェル! 94歳のニューヨーカー』
 
なんと清々しい、潔い言葉たち。
自分なりの物差しがはっきりしている。
先ほど、私が感じると述べた、一部のおしゃれな人への胸やけ現象、あれはおしゃれをする人からの自己顕示欲、それ以上に「私はおしゃれです(お前よりな!!)!」というマウンティング意識を感じ取ってしまうからなのだと思う。
よく服装は鎧だというが、私は武器でもあると思う。そして同時に、自己主張である。
彼女の主張は強く、独特だ。だが他者を圧倒し、屈しさせるための手段のようには、不思議と感じさせない。
「他の人は知らないけれども、少なくとも私は、これが好きなの」
そんな彼女の声がきこえるようだ。
 
彼女のあの奇抜なファッションを、もしも私が着てみたら……と想像してみる。正直、服に“着られてしまう”現象が起きると思う。
そもそも、「あんなおかしな格好して、大丈夫か」といわれそうで怖い。
冷静に考えてみれば、誰からという訳ではないのだが。
 
ではなぜ彼女はあの服を着て街を歩くことができるのか。
それは彼女が自分の選択に自信を持っているからだろう。
ひとつひとつの服飾品やその組み合わせに対して、心から「素敵ね」と思って、選び取り、スタイルを決定しているからだ。その絶対的な自信が、強い自己肯定感が、あのなんだかよくわからないけれども強烈な説得力を人々に与えるのだろう。
彼女がホワイトハウスの装飾を手掛けたこともあるデザイナーであるということも、納得である。
最終的に、おしゃれはある種の気迫で生まれるものだと思う。
自分のスタイルへの、選択への、それを裏打ちする感性への、さらにそれを形作るまでに培った経験や努力、自分の生き方への確固たる自信、それらが表出し、その人独自のオーラを形成して、「なんかカッコいい」を作り上げるのだと思う。
 
おしゃれの中には、自分の生き筋が表出する。今後、もしかして、それこそアプフェル女史のように100年近い長い人生を生きて可能性がある中で、自分の心の声が「素敵ね」と思ったことやものや人を、他の誰でもない私自身が強く「素敵ね」と認められるような人でありたいと思う。
6歳の私に、アニメのTシャツ素敵ねって、言ってあげられるように。
そんなことを思った。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事