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サッカーにおけるサポーターと夫婦の類似性


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田村 彩水(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私の夫は、大のセレッソサポーターである。
 
この一文だけで、普段サッカーに慣れ親しまない人にとっては、まず分からないところが2つあったと思う。かつての私のように。
 
まず一つめ、「セレッソ」というのは、「セレッソ大阪」というJリーグ一部に属するサッカークラブのことである。
ちなみに、セレッソ(Cerezo)というのは、スペイン語で桜を意味するとのことで、チームカラーは鮮やかなピンク色だ。
 
そして、「サポーター」。
この言葉はサッカー界独特の表現であり、概念である。
英語で直訳すると「支持者」とでもなるのだろうか。
ちなみにネットで「サポーター」で検索をかけると、肘とか膝を支えるあの器具としてのサポーターの画像が沢山でてくる。
 
まずは私とサポーターという言葉との出会いについてお伝えする。
まだ夫と付き合う前のこと、私は彼からJ1サッカーの試合を観に行きませんかとお誘いを受けた。新しいもの好きな私は、それまでサッカーの試合を生で観戦したことがなく、好奇心につられてOKした。
 
初めてサッカースタジアムに向かう道中、電車の中の段階で、すでに異様な空気が漂っていた。
車内の至る所に、街中で着るには眩すぎるピンクのユニフォームを纏った人がいる。
おや?あそこにも……と思っている間にピンクを纏う人たちはみるみる増殖し続け、スタジアム最寄り駅の阪和線鶴ケ丘駅を降りるときには、ピンクを纏わぬ人を見つけるのが難しいくらい、皆ピンクだった。
人だけではない。駅もピンクだった。鮮やかなピンクの壁がそびえ立っていた。まだスタジアムに足も踏み入れていない段階で、私はすでに人と空間から溢れるセレッソ愛に圧倒された。
 
ふと横を見ると友人(夫)が、ニコニコしながらリュックから何か取り出している。
ピンクのユニフォームだ。
アンタも持っとるんかい!そりゃそうやんな!
なんと私の分も用意してくれていた。
「これ着ましょう!」
めっちゃいい笑顔の提案だった。うわーわざわざ私の分まで持ってきてくれたんやね、ありがとう。でも待って、まだちょっと心が追い付いていない……。
「ありがとう、試合の直前に借りるね」
ごめんよと思いながら、しゅんとしてピンクの服を鞄にしまう目の前の人を見ていた。
 
スタジアムの盛り上がりは最高潮だった。ホームでの試合ということで、座席はピンク、ピンク、ピンクの海。そこら中に横断幕が垂れ下がり、老若男女、様々な人がピンクのユニフォームに加えて首にタオルを巻き付け、チャント(応援歌)を歌っていた。これぞ、という感じのお祭り騒ぎだった。私も駅ではやんわりお断りしたユニフォームに袖を通し、応援に加わった。
 
スタジアムの熱気に触れて、私はよっぽど、今回は優勝でもかかった大事な試合なのかと思っていた。
でも特にそういう訳ではなかったらしい。平常運転でこのボルテージとは、セレッソ大阪というチームはよっぽど強いチームに違いない!そう思い、私は友人に聞いてみた。
「セレッソって強いん?」
「強いときもあるし、弱いときもあります」
なんとも歯切れの悪い答えであった。続けてこう言った。
「なんなら今まで2回くらいJ2(Jリーグ2部。J1リーグ18チームの更に下位のリーグ)に落ちてます」
「え!そうなんや。そのときもずっと応援続けたん?」
「そりゃあ、そうですね」
「負け続けてたら、観るのいやになって、もう応援するのやめよってならへんの?」
「そりゃあ、負けてたり、不甲斐なかったらがっかりもするし、怒りも湧きますよ。でも、文句言いながらもなんやかんや観に行ってますねえ。小2からずっと、20年くらい」
 
怒りながらも、文句言いながらも、応援し続ける。
奇妙な感覚すぎてとても不思議だった。
ひとつのサッカークラブを応援するということは、惚れた弱みを握られるようなものなのかもしれない。愛してしまったら、例え対象が不甲斐なくて、情けなくても、簡単に切り捨てることなんてできない。サッカーを観に来て、業の深い恋愛のような感情に触れるなんて思ってもみなかった。「カッコ悪いから」「弱いから」という理由でいっそ嫌いになれたら、こんなに楽なことはないのかもしれない。
 
結局のところ、試合は0-1で負けた。しかも素人の私から見ても、健闘の末、それでも勝利の女神は微笑まなかった―というような惜しい負け方ではなく、チームメイト同士の意思疎通ミスという、ちょっと残念な感じの負け方だった。
 
帰り道、今日は残念やったなあと話しながら、「さっきの話の続きやけど」と友人に切り出してみた。
「小2からって、長いことセレッソのファンやねんなあ」
そう話しかけたところ、友人は間髪入れずに、
「いや、俺はセレッソのファンではないですよ」と返してきた。
いやいや、今更何言うてんねんこの人。今この瞬間にこんだけ派手なピンクのユニフォーム着といてよく言うわ!
そんな私の心のツッコミをよそに、友人は続けて答えた。
「俺は、セレッソのサポーターです」
 
サポーター。そういえば今までも何度か聞いたことのある単語だ。
そのクラブを応援する人という意味ではファンもサポーターも同じなのだろうが、私にはいまいちその区別がつかなかった。
「ファンとサポーターってどう違うん?」
シンプルに疑問をぶつけてみた。
少し考えてから彼はこう答えた。
「ファンは、3回負けたらもう観に行かへん。サポーターは、10回負けても観に行く」
つくづく、業の深い愛である。
 
あれから一年とちょっと。
コロナ禍の中、一度は延期した結婚式を、先日ようやく執り行うことができた。
神社の儀式殿の中、家族だけの小さくも厳かな式典が進められた。
その中で、誓詞奏上、つまり誓いの言葉を述べる場面があった。
「今より後は互いに相和し相睦び 楽しきを分かち苦しきを共に 長く久しく―」
いわゆる「病める時も健やかなるときも」というやつである。
新郎が読み上げる誓詞を聞きながら、「なんだかこれって、サポーターみたいだな」と考えた。
楽しい時も、苦しい時も、ともに分かち合い生きてゆく。
10回負けても、凡ミスしても、J2降格しても、文句言いながらもお互いを見続けられる、そんなサポーターとクラブのような関係性。
これからの長い人生、お互いがお互いのファンではなく、サポーターでいれたらいいなと思う。私がサッカーから学んだ最高に素敵な概念。それがサポーターである。
 
 
 
 
***

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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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