メディアグランプリ

旅で出会った素敵な二人


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記事:西野順子(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
 
私は旅が好きだ。旅先で出会った人との何気ない話の中ではっと気付かされることも多い。セミナーで物事を体系立てて学ぶのも大事だが、旅もまた私にとっては学びの場だ。私にとって旅はいわば生きた教科書、人の生き様がリアルに学べる場だ。先日もそんな出会いに恵まれた。
 
先週、和歌山県の熊野本宮大社に行った。本宮の近くには三つの温泉がある。そのうちのひとつ、湯の峰温泉にある「つぼ湯」は、世界文化遺産にも登録されている温泉だ。畳2畳ぐらいの木の小屋の中に、天然岩をくりぬいた小さな浴槽があって、お湯がなみなみとあふれている。伝説では、小栗判官が黄泉の国から蘇った時にこのお湯に浸かったと言われており、1日に7回お湯の色が変化するという。
 
この温泉は人気があるが、事前予約ができず行った順に整理券をとって入る。地元の友人が朝行った方がすいているということを確かめてくれたので、「熊野の神様、ごめんなさい」と思いながら、熊野本宮大社への参拝よりも先に行くことにした。そのおかげか、私たち4人が着いた時は、前に一組入っているだけであまり待たずに入ることができたが、私たちが出る頃にはもう2時間待ちになっていた。
 
待合で10分ほど待っていると、つぼ湯の戸口があいて、初老のご夫婦がものすごく熱そうに汗を拭き拭き出て来た。「いいお湯でしたか?」と聞くと「いいお湯でしたよ。でも結構熱いんです。蛇口をひねったらお湯が出るのかと思ったら、水が出てきました。それで埋めて入ってたんですよ」と、お二人とも顔を真っ赤にして、汗が吹き出し、拭いても拭いても止まらないという感じだった。
 
私の入浴する番になった。湯船に手をつけてみると「熱いっ!この湯に入るの?」と思うくらい熱かった。恐る恐るかけ湯をする。やはりかなり熱い。このままじゃ無理だと思って、先ほどのご夫婦に聞いたとおり、水で埋めながら、そうっと足先をつけてゆっくり入る。それでも火傷するんじゃないかと思うくらい熱い。そろそろとお湯を動かさないように肩まで浸かる、「うーっめちゃ熱い! でも、極楽極楽!」。朝から温泉に入れるなんて幸せだ。
 
しばらくじっと浸かっていると熱さにも慣れてきたので、ゆっくりと周りを見回してみる。小屋の壁板の隙間から日光が差し込んで、お湯の表面に反射してキラキラと輝いてきれいだ。
 
さすがに15分も浸かっていると、のぼせそうになったので出ることにした。出たあとも、汗が噴き出してめちゃくちゃ熱い。熊野は寒いだろうと思ってセーターを着てきたので、大汗をかきながらセーターを着るはめになった。事前にもっと考えておくべきだった。
 
お湯からあがって一息ついてみると、手の甲がすべすべだ。触ったらつるつるして気持ちがいい。体の芯まであたたまり、幸せだった。
 
近くの茶店で温泉の水で入れたというコーヒーをいただく。汗ばんだ肌にあたる風が心地いい。少し休憩したあと、熊野本宮大社へ行こうと駐車場に行くと、となりの車の中から「いいお湯でしたか?」と声をかけられた。声の方を振り向くと、驚いたことに「つぼ湯」に私たちの前に入られていたご夫婦だ。ご主人が車の後ろに立って「食事してたんですよ」とニコニコしてこちらを見ている。 「偶然ですねえ」と近づいて車の中を見て驚いた。まるでキャンピングカーだ。
 
後部には、水道、流し、ガスコンロがあって今まで調理をしていたようだ。右側にはむき出しの板が張ってあり、棚が何段も作られていて、調味料や食べ物がしまってある。真ん中はベッドで毛布が敷き詰められており、食事の時は椅子代わりに使われている。なんと屋根には穴を開けて換気扇がはめ込まれているし、車の中には簡易トイレまでついている。聞いてみると、すべてご主人が自分で作ったそうだ。
 
「えーっ。これ全部自分で作られたのですか?」とびっくりして叫んだ。いろいろ聞いてみたら、元は公務員で、六十歳でリタイアしてからは、この車でご夫婦で日本中旅行されてるという。自宅は長野だが、九州に行くのでも、どこへ行くのでも下道をずっと通っていくので、ほとんどお金はかからないそうだ。今回は、一週間ぐらい伊勢、志摩、熊野あたりを巡る旅の途中だという。ご主人はこういう物作りがとても好きで、今でも車の中を自分の気に入るように作り替えることを繰り返しているそうで、水道の仕組みとか、ガスコンロの仕組みとかを細かく教えてくれた。こういうことを話しているご主人は目がキラキラしていてすごく楽しそうだ。本当に好きなんだなあ。
 
奥さまも楽しそうにニコニコとしてご主人の話を聞いている。こうやって、車を自分の好きなように改装しし、自分たちの思いのままに、ふらりと旅を続けるお二人はとっても楽しそうで、なんかうらやましいなと思った。あまりお金をかけずに日本中を旅しながら、精神的にはとっても豊かな生活をされているお二人。年をとってもこういうふうでありたいなあと思った。
 
「これからはどちらにいらっしゃるんですか?」
「まだ決めてないけど、那智の方にでも行ってみようかなと思って」
「道中お気をつけて。お元気で」
「お元気で、さようなら」
と 老夫婦はにっこり手を振って去っていった。
 
こういう偶然の出会いが旅の楽しみだ。二度と会うことはないだろうけど、私の心に残るひとときを過ごさせてくれたご夫婦。いつまでも仲良く元気に旅を続けてください。
 
 
 
 
 
***

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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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