sacaiのシャツを買って自分のためのファッションを思い出した話
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記事:田中あかり(ライティング・ゼミ平日コース)
服やアイシャドウや香水なんかを選ぶときに自分以外の誰かの顔が、来週久々に会う友達だったりはたまたその時気になっている人だったり、が浮かぶようになったのはいつからだろうか。
昔は違ったのになあ、と思う。
高校を卒業して、制服や校則から開放されることは「画一化された美の定義」から開放されることを意味していた。
今思えば、高校を卒業するまでは「画一化された美の定義」にとらわれていた。
校則の厳しい高校に通っていたので、メイクはおろか制服のスカートを規定よりも1センチ短くすることも許されなかったので、全員が同じ制服に身を包み、同じような髪型をしていた。
テレビで見るモデルみたいに、顔が小さくて肌が白くて目がぱっちりした女の子。
みんなそれになるべきだ、ということを信じて疑わなかったし、多くの女子高生が自分がそうでないことを嘆いた。私も例にもれず「もう少し鼻が高ければ」とか「もう少し細ければ」とか、取るに足らないことで悩んでいた。
大学生になって、好きな服を着て好きなメイクができるようになった。
ファッションというのは自分の身体を使って好きな世界観を表現できたり、メイクというのは、シミやコンプレックスをカバーするだけではなくて、元の顔とは全然ちがった雰囲気の顔にすることができて面白い。
大学生だった当時、好きだったクライベイビーという映画や椎名林檎やアメ村で見たかっこいい人、祇園市場の商店街にある古着屋で見つけたヘッドセットとか、完全にその時の自分の気分で着たい服を着たり、好きなメイクをしていた。ファッションやメイクで表現したいことがたくさんあった。
当時の写真を見返すと痛々しいけど、この時の私は周りからどう思われるかとかそんなことは考えていなかった気がする。きっと自信もあった。
服やメイクを選ぶ基準において、自分がどうしたいかよりも他人がどう思うか、のほうが占める面積が広くなったのはいつからだろう。
大学を卒業して、都内の広告代理店に入社した。職種は営業だった。
毎日スーツを着て出社していた。スーツを着ていれば、誰かに眉をひそめられたり、咎められたりすることもなかった。一切が波風立つことなく過ぎていった。
私は自分の世界観を表現したいという衝動を忘れて、またあの「画一化された美」のなかに自らとらわれるようになった。
服やメイクのことを考える時に、自分以外の誰かの顔が浮かぶようになったのもきっとこの頃だ。
結局営業の仕事は長続きしなかった。新卒で入社した広告代理店を2年足らずで辞めて、小さなアパレルの企業に転職した。新しい職場では、服装やメイクは自由だった。
みんな各々好きな服を着て、好きなメイクをしていたけれど、私はどうすればいいか分からなくなっていた。
先日、たまたま立ち寄ったフリーマーケットで正面は太い青のストライプで背面が儚いプリーツになっていて裾にレースがついているsacaiのシャツを見つけた。
正面から見るとトラッドなイメージなのに他方面から見ると前衛的な現代アートみたいなちぐはぐさが素敵だと思った。
思わず手にしてうっとりと見つめた。なんとしてでも買わなくては、と思った。
「あー、けっこう背中が出るな」「自分は太いストライプは似合わない」なんてことをじわじわ思い出したのは、買った後だった。
どっと、服への欲求が溢れ出した。
私は舞台衣装みたいなイミテーションの宝石の装飾がついてる派手な服が好きだった。
夏の晴れた日は、空の青色に映えるように真っ黄色のワンピースを着て葉っぱモチーフの大きなピアスをつけていた。悲しくてどうしようもない日は、いちばん高いコットンのシャツに真っ赤なシルクのヴィンテージスカーフを付けた。間違いなく自分のために服を着ていた。
自分の表現したい世界観や、これが好きなんだという衝動。そういったものに突き動かされて服を選ぶ楽しさを思い出した。
服やメイクを選ぶ時に気になっている人から好かれたい、他人を不快にしたくない、と考えることも大事だ。
でも自分のために服を選ぶことを忘れたくない。誰にどう思われるとか、世の中の基準からして美しいとか美しくないとか、そんなことを考えずに衝動に突き動かされたいと思った。
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