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中小企業診断士という資格


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記事:井上あゆみ(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
先月、一通の封筒を書留で郵送した。封筒の中身は、研修の受講記録5回分と実務の証跡30日分、そして中小企業診断士の登録証。中小企業診断士資格の更新手続きである。中小企業庁で書類に不備がないことが確認されれば、資格は5年更新される。さてここで質問。あなたは、中小企業診断士という資格をご存知だろうか?
 
中小企業診断士という資格の知名度は低い。数年前、日経新聞に掲載されていた「AIで代替えされる可能性が低い士業」という記事を覚えている方はいるだろうか。行政書士は93.1%、税理士は92.5%と名だたる士業がいずれAIに代わると判断される中、中小企業診断士は0.2%という数字だった。これを聞いた人の反応はだいたい同じ。
「なにそれすごい、いい資格じゃん」
そしてもう一言。
「ところで、中小企業診断士って何する人?」
 
中小企業診断士、とは経営の診断や経営に関する助言を行うための資格だ。
ニーズはありそうな資格なのに知名度が低い理由に、この資格が業務独占資格ではないということがあげられる。業務独占資格、とはその名の通り、ある業務を行うために必要となる資格のことだ。有償の法律事務は弁護士でなければできないし、医療行為は無償でも医師・看護師等のみ許されている。しかし、中小企業診断士はそうではない。経営診断や助言は資格がなくてもできるのだ。では、この資格はなんのために存在するのだろう?
 
この資格を私が取得したのは5年前の話だ。当時、IT会社でネットワークだサーバだと技術系の業務で10年ほど経験を積んでいた私は、ふと気づいてしまった。
 
「私、技術系向いてないな」
 
ITが嫌いということではないし、業務内容やチームが合わないというわけでもなかった。新製品の話を聞くのは面白い、先輩達や取引先との打合せも楽しい、商用トラブルをみんなで解決したときの達成感たるや!
けれど、私には「技術を使って自分がやりたいこと」がなかった。
周りの先輩や同期は、自宅にネットワークを構築したり、勝手にパソコンの性能を上げてみたり、上司と技術論で熱く戦ってみたりとこれぞ技術屋! と言う人ばかり。私が技術系を志望したのも、そんな技術者の熱い仕事に憧れていたからだ。なのに、私にはどうやらその熱意がないらしい。10年働いて随分致命的な気づきである。
 
会社としての仕事ほぼIT、それ以外は企画、総務、人事…と興味はあるが馴染みのない分野ばかり。さて困った。このまま何もしなければ「技術」のラベルがついた私は、引き続き技術系の職場に配属されるだろう。すでに見切りをつけてしまった分野で働き続けるのはしんどそうだ。悩む私に、過去の先輩との会話が蘇った。
 
「やりたい仕事があるならさあ、先に資格取っちゃえよ」
「業務経験ないのに、資格取るのって難しくないですか」
「実技がある場合はまた別だけど、机の上のお勉強が多いからたいてい取れるって。A、経験ないです、でもとにかくやらせてください。B、経験ないけど勉強して資格も取りました、やらせてください。お前ならどっちの若手に仕事やらせる?」
 
そうだ、資格を取ろう。
 
会社員でも取得できて、技術以外で、技術系からの異動アピールができそうな資格。IT系は元々国家資格が多いし、どうせ取るなら国家資格がいい。志の高い診断士の方々には申し訳ない、完全自己都合の動機で私は中小企業診断士を狙うことにした。
 
ヤマが当たったか、運が良かったか、独学で一次・二次を突破し、さて最後の面談という頃。私は今更ながらに診断士が難関資格と呼ばれる理由を知った。登録には、試験合格に加えて15日の実務補修の実績が必須です。15日の実務補修?
 
診断士における実務補修、とは企業への診断・助言の経験を積むための研修だ。ベテラン診断士の指導の元、実際の企業を対象に新人グループがコンサルティングを行う。
基本は5日間を3ターン。だが、この5日は期間ではなく、あくまで集合する日数を数える。標準的な1ターンのスケジュールは、以下の通りである。土曜に顔合わせと診断先の経営者にヒアリング、日曜に丸一日ディスカッションして提案の方向性を決める。カウントされない月〜金は、担当の提案報告書を各自作成。次の土曜と日曜で再びディスカッションと報告書の修正、印刷・製本。最終日となる2回目の月曜日は、経営者へのプレゼンテーションである。書くだけでハード、やる方はもっとハードな10日間。
 
多くが社会人である新人チーム、毎日夜の12時過ぎに資料が更新されていくのを見ながら、自分も必死でキーボードを叩いた。そして迎えた提案当日。意気込んだ提案の結果は、正直に言えばあまり良くなかった。私が説明したのは売上向上としてのWeb活用。Googleキーワードが、クリック数がという説明を聞いた経営者の方は、一言こう言った。
「それで、その対策にはいくらかかって、何人お客様が来るでしょうかねえ」
 
費用対効果が重要なんて、当たり前の話である。だが、この当たり前の質問に私は答えられなかった。提案する対策の内容に夢中になっていた私は、報告書を読む人=経営者の視点が完全に抜けていたのだ。前提がどうの期待値がどうの、とあいまいなことをもにょもにょと言い、先方は笑顔で質問を切り上げてくださった。
 
意気込みが空振りに終わった恥ずかしさ、考えの浅さに対する自己嫌悪、そしてすでに合格済である中小企業診断士の責任と面白さを私はをこの時実感した。なるほど、一次試験の科目が妙に多いわけである。経済学、財務会計、企業経営、経営法務…と経営に関わる合計7科目。そう、中小企業診断士の資格とは、これらの知識をフルに活用して経営への支援・助言ができますよという証明書。AIには真似できない、経営者に寄り添った提案をしてみせてこその診断士なのだ。
 
会社に勤める私は、この5年間で診断士として大きな活躍ができたわけではない。それでも、独立している診断士の支援や、商工会議所への協力・診断士協会への参画など、いくつかの形で企業支援や活動を行ってきた。動機であった社内異動も果たしたが、診断士として自分の会社を見ることによる気づきの方がよほど大きい。今、私にとっての診断士資格は、新しい知識・新しい視点・新しい人達と出会う扉の鍵である。次の5年間、さあ何ができるだろう?新しい登録証を手に、私はまた次の扉を開ける。
 
 
 
 
***

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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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