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文字は読めるのに文章が読めない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

番場佳子(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「今まで気づいてあげられなくて、ごめんね」
視力は異常なし、文字は読める……なのに、文章が読めない。
そういう人がいるということを私は知らなかった。目が見えたら文字が読めるでしょ?文字が読めるなら単語の意味も分かってきて文章が読めるようになるでしょ?みんなそういうものでしょ?と思っていた。
まさか自分の子どもがそれに該当するということには全く気付かず数年を無駄に過ごしたので、今回はそのことについて書きたい。
 
それは、息子が小学校2年生の頃だった。国語の教科書を音読する宿題があった。文章を読んでいるというよりも、文字を1文字1文字拾い読みしているという印象だった。
もしも、私たち夫婦に複数子どもがいたら、「この子は他の子よりも違うな」ということにもっと早く気が付いていたのかもしれない。しかし、我が子は1人っ子であったので、違和感に気づかなかった。私も深く考えずに成長に伴って解消していくと思っていた。しかし、音読の件に加えて、漢字ノートに1ページ書くのに1時間かかり書き順が覚えられないというのはおかしい。
 
当時の担任の先生に相談した。「本人があまりにも宿題を苦しそうにやるので、成績は低くていいから宿題を減らしてもらえないか」と打診をしたところ「息子君は発達でそんなに気になることは見当たらない。3年生になると覚える文字数も増えるし書く量も増えるので宿題を減らすことは認められない」とあっさり断られた。
 
学年が変わり、3年生になると、それまで生活科だった科目が理科と社会科に分かれて難易度が上がる。すると、まず、理科のテストで低得点を連発してくるようになった。答えが間違っているというよりも、後半がほぼ白紙の状態になっている。
話を聞くと、授業内容は理解している。さらに確認をすると、問題文を読んで理解することが出来ないということや問題を解いているうちに制限時間が来てしまうことが分かった。
 
それならなぜ、理科ではなくて国語で同じ現象が起きないのか?と考える人もいるだろう。小学校の国語のテストはすでに教科書で読んだ文章を中心に出題される。授業で文章を聞いているうちに内容を覚えてしまっていたのだ。すなわち、問題文や選択肢が読めれば解答し、ある程度の正答をすることは可能だったのだ。
 
そのうち、低学年に習った漢字を思い出せなかったり1週間前に習ったばかりの漢字をすでに忘れていたり、授業中に黒板の板書を書くのが間に合わず、「オマエ、さっきの授業の板書書けてないだろ、ノート見せろ」などと同級生の晒し者になったりと、学校での学習に支障が出てくる事象が増えてきた。
 
WISC(ウイスク)という知能検査を受けると、発達の凹凸傾向が分かると発達障害のお子さんを持つ友人から聞いていた。WISC自体は小児科や発達関連を扱っている病院のほか、自治体の教育相談を扱っている施設で受けることが出来る。
 
「息子にWISCを受けさせる」と私が決めた頃には、息子は4年生になっていた。
発達相談を申し込んでから、WISCを受けて結果が出るまでに、実に半年近くの月日を要してしまった。発達にまつわる相談機関はここ数年混んでいて、初回の相談まで数か月待ちは当たり前の状態である。
今、困っていて今すぐにでも助けてほしいのに、そうなってからの半年間は実に長かった。
WISCという検査を受けて分かったことは、息子は文字から意味を推察するのがとても苦手なので、文字は読めても文章になると「読んでいるだけで意味が分かっていない」という現象が起きていることと、処理速度が同年代の平均値より極端に低いので板書や漢字の書き取り、算数の筆算に非常に時間がかかってしまうことが分かった。
 
その後も医療機関や療育機関で詳しく調べてもらったら、視機能に問題があることも分かった。例えば、遠くの板書を見てから近くのノートに視線を移すとピントが合いにくいこと分かり、板書に時間がかかることや、ボールの速度に目のピントが追い付かないので球技が極端に苦手なことも、これで合点がいったのである。
ちなみに、学校の視力検査で息子が再検査になったことは1度もない。
 
ここにきて、息子の発達に問題があったことに気が付いた私は「今まで気が付かなくて、ごめんね」と息子に言った。息子の答えは「今気づいてよかったよ、これで気づかなかったらずっと苦しむことになっていたよ」というものだった。
私は涙が止まらなかった。涙を流すことでそれまでの後悔と罪悪感を吐き出さずにはいられなかったのであろう。
 
LD(学習障害。発達障害の1つ)は幼少期には分かりにくく、小学校に入学して実際に困ってから判明することが多いといわれている。知的に遅れを伴わないこともあり、単に「勉強が苦手な子」「努力がたりない子」として見逃されるケースも多いらしい。ベストセラーの「ケーキが切れない非行少年たち」でも、学習障害が見逃されたまま理解されずに大人になって、犯罪に手を染める人のことが書かれてあったことに非常に衝撃を受けた。
 
発達障害の療育は、年齢が低いうちから始めると効果が出やすいといわれている。
正直言って、4年生からの療育は遅すぎたかもしれない。あと2年早かったらもっと効果を上げられたかもしれない。
しかし、遅まきながらビジョントレーニングや作業療法など適切な療育を定期的に受け、同時進行で学校にも漢字の書き取りの宿題を減らしてもらうという合理的配慮のお願いをした。
半年経った頃だろうか、本人に聞いたら「トレーニングを受ける前とは全然違う」と言い、生き生きとした表情で学校へ通う日が増えてきた。
 
現在、息子は、クラスには学習障害であることを打ち明け、時々板書を写し終わらなかったときにクラスメートにノートを見せてもらうなど、助けてもらいながら学校生活を送っている。
それまでは、自分は何で努力してもみんなと同じように出来ないのか分からなくて苦しかったそうだが、「ここが出来ないのは努力が足りないんじゃないんだ」ということが分かって気持ちが楽になったらしい。
 
発達障害というネーミングが悪いのか、「うちの子は障碍者なんかじゃない」と、子どもの発達相談に消極的な親も少なくない。私もそうだったので気持ちはよく分かる。
しかし、親は現実に目を背けることができたとしても、この先困るのは子どもである。
 
文章を何度読んでもたどたどしい、漢字の書き順が覚えられない、アルファベットやローマ字が覚えられない、掛け算九九がいつまでも覚えられない…など、学習面で違和感を感じたら、早めに専門機関の教育相談に行ってほしい。
担任を持っている先生の中には、特別支援教育などの発達関連に理解も知識もない先生はいるので、専門機関で検査を受けてから検査結果を学校に提出する方がスムーズにいくケースもある。
 
勉強が出来ないのは、本人の努力が足りないわけでもないこともある。どうか、私たち親子のように無駄に悩んでいる期間を減らして、早期に対応や支援が受けられるお子さんが増えることを願ってやまない。
 
 
 
 
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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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