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映画「あのこは貴族」と学内階級格差から逃れられない元慶應ボーイの憂鬱。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大野了(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
先日、受講しているライティング・ゼミで「書くことはサービスである」という大切なマインドセットを教わった。
 
だから、決して文章でマウンティングを取ってはいけない。
 
自身がいい感じのステータスを持っていても、それを隠した方がいい。
 
しかしこの映画を語る上で、避けては通れないことがある。
 
私は、慶應義塾大学法学部卒だ。
 
この唐突に学歴を吐露して始まったエッセイの行く末にあるものは、悲哀しかないので許してほしい。
 
先週、東京国際映画祭で「あのこは貴族」という映画を観た。
 
主演の門脇麦、水原希子、高良健吾、岨手由貴子監督の舞台挨拶付きということで、最近「鬼滅の刃」以外元気のない日本映画の晴れやかな一幕を観に行こうと、六本木TOHOシネマズで一番大きい7番スクリーンの中央端の席に向かった。
 
前知識なしで観て驚いた。
 
私の一番観たくない、そして観たい映画だった。
 
見えざる東京の格差社会の「上流」と「下流」で生きるアラサー女子の恋と人生が主題なのだが、私が感じて生きてきた息苦しさがその映画には見事に詰まっていた。
 
私は今でも大学の同窓会に行くことはほとんどない。
 
昔の友人の何人かは、今の私の年収の10倍くらいある。
 
そんなこと気にしなくていいことは分かっている。
 
でも、お互い一瞬にしてわかるのだ。互いの境遇の残酷な格差を。
 
慶應の繋がりは卒業しても終わらない。なぜか益々存在感を増す。Facebookを見る度に格差を身近に感じることになる。
 
自分が圧倒的な成功を収めない限り。
 
この映画は山内マリコ原作の映画化で、慶應義塾大学の内部生(幼稚舎や中高から慶應)と外部生(大学受験組)の学内格差がモチーフの一つとなっている。
 
生粋の東京生まれで箱入り娘の華子は、30歳に近づき結婚を焦って、お見合いを繰り返しているがうまくいかない。ある時、ついにハンサムな弁護士「青木幸一郎」と出逢う。彼は慶應幼稚舎出身で政治家一家の御曹司で華子は心惹かれていき、結婚を決める。
 
一方、地方生まれの上京組の美紀は、猛勉強の末、慶應義塾大学に入るも金欠で中退し、キャバクラで生計を立てていたが、ある時、大学時代に一度ノートを貸したことのある、‘内部生’だった「青木幸一郎」と店で再会し、それから身体の関係を重ねている。
 
そんな境遇の全く違う華子と美紀は、同じ男をきっかけに巡り合い、決して交わることのなかった、お互いの生きる階級が交差していく。
 
「誰もあえて言葉にはしないけど、実際は日本も階層社会で成り立っている」と以前参加した社会人ゼミで語られた元慶應義塾大学准教授で作家のジョン・キムさんの言葉を思い出す。
 
この映画を観て、目を背けていたことにもう一度直面せざるを得なかった。
 
役者はメイン3人とも素晴らしい。
 
世間知らずのお嬢様の華子を演じた門脇麦は、きょとんととぼけた部分と無意識に人を差別するいやらしさが同居していて実にうまかった。
 
地方の進学校で努力して慶應に入ったものの、父親の仕事が破たんして中退し、東京をどうにか生きていく美紀役の水原希子も生命力が溢れて目を奪う。
 
生粋の御曹司の青木幸一郎を演じた高良健吾の何を考えているのか分からない高等遊民的な雰囲気と醒めた眼が印象に残る。
 
バイオリニストとして独立独歩で進む華子の友人役の石橋静河や、美紀と共に、高校から慶應に行った友人役の山下リオもそれぞれの魅力を発揮している。
 
華子と美紀。そんな対極の2人の女が、1人の男と関係をもつ。
 
1人は結婚相手として。
 
1人は遊び相手として。
 
中盤まで彼女たちのシーンはそれぞれ単独で進むのだが、二人が出会うシーンが非常に味わい深い。そして予想外の展開に進んでいく。それが面白い。
 
この作品の魅力は、実は無数に分別された「自分たちの東京」での居場所を受け入れながらも、自分らしく生きていこうともがく彼女たちのリアルな息吹だ。
 
青春終わりし時代の青春映画として傑作だと思う。
 
富山から出てきた美紀は慶應の日吉キャンパスでいきなり、内部生が余裕げに寛いでいる姿に驚き、学校帰りにお茶に誘われ、パークハイアット東京のアフタヌーンティ4000円に度肝を抜かれる。
 
慶應に入ってまず気づくのはこの金銭感覚の恐ろしい乖離だ。
 
政治家一家で御曹司の「幸一郎」のような男も私の身近にいる。とてつもなく金持ちで、ハンサムで、スマートで、その上性格がいい。
 
そんな彼らとの出逢いは、茨城の片田舎から出てきた私にとっては衝撃的なものだった。
 
纏う空気感が全然違うのだ。
 
着ている服、乗っている車、行くお店、付き合う人々。
 
ワクワクした初めての三田祭の時、彼らはファーストクラスで南フランスやニューヨークに旅行に行っていた。
 
日吉キャンパスの中で、たむろする彼らは圧倒的な余裕を放っていた。
 
そんな彼らと別世界に生きながらも、私はダンスサークルに入って出会った帰国子女の友人の繋がりで、内部生3人と話すようになった。1人とはゼミで共同論文を書いた。彼の住まいは慶應の三田キャンパスから歩いて行けた。
 
現在、彼らは何をしているかというと、1人は内閣の主要ポスト、1人はフランスで外交官、1人は老舗メーカーの代表取締役社長だ。
 
Facebookで彼らの世界的かつ国家レベルの活躍を目にすると、何とも言えない気持ちになる。
 
私は新卒で入った会社に飽き足らず、28歳で会社を辞め、3年間アルバイト生活をしながら映画の専門学校に通って一文無しになり、それから某映画会社で7年間映画プロデューサーをした後、撮影所に異動になり、その後、地域でミニシアターの開発・運営に携わり、番組編成マネージャーを4年間したが、母体企業が倒産してミニシアターも閉館となった。そして今は外資リゾート関係の仕事をしている。コロナ以降、仕事への影響も大きく、W受験の息子ふたりを抱え、経済的に余裕はない。
 
そんな中、私のFacebookでは彼らがワイン片手に談笑する姿が繰り広げられる。
 
別に見なければいいのだ。
 
でも私は今もその「慶應内格差社会」から逸脱できずにいる。
 
この映画で登場する圧倒的上流社会は実際存在する。
 
普通は見なければいいし、見えなければいい。でも、身の回りに目につくのはいささかきつい。
 
今から慶應に行く人。
 
あなたの子供が慶應に行こうとしている人。
 
一生、‘それ’を目にすることになるから、その心づもりでいた方がいい。
 
それをリアルに体験させてくれる映画だ。
 
格差社会は急速に広がっている。この作品はその極端な例だ。でも現実だ。
 
華子と美紀。この映画の2人の女性は自分がいる「階層」を認めながらも、それに囚われることを捨て、新たな一歩を踏み出していく。
 
残酷な現実を見せられながらも、劇場を出るとなぜか清々しい気持ちになった。
 
気づかないうちに「階層社会」に生きている私たち。
 
それが目を背けることのできない現実だとしても、私はここからまた勝負するつもりだ。
 
彼女たちのように。
 
***
 
 
 
 
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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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