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パリの公衆トイレで事件は起きる


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記事:能勢 拓人(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
以前から親切な先輩から話は聞いていた。パリの公衆トイレには気をつけろよと。
それなのに、やってしまうなんて。
 
ワーキングホリデーでフランスに滞在していた頃、アパートのあるパリ市内の南東(13区)から、パリの北に位置するモンマルトルの丘まで、気分転換に歩いてみることにした。パリは案外小さく、少し時間はかかるけど、南の端から北の端まで歩いていける。東西も同様だ。
いつも出掛ける時に注意していることは、出発前にお手洗いを済ませておくこと。トイレを見つけることが難しいし、見つけたとしてもほとんどが有料だ。もちろん、コンビニなんて便利なお店もない。この日もきちんと済ませてアパートを出た。
12月の寒い時期だったけど、しばらく歩くとちょうど体が暖かくなってきた。昼ご飯はサンドイッチとホットコーヒーで済ませる。
 
またしばらく歩いて、モンマルトルの丘の上にあるサクレクール寺院が見えてきたころ、丘のふもとに珍しく無料の公衆トイレを見つけた。大きめのボックス型で、一人だけ入れるタイプ。
行ける時に行っておいた方が良い。この判断は間違っていなかった。
先客がいたので、立って待っていると、急に体が冷え始めた。なかなか扉が開かない。
(これはまずい。ホットコーヒーを飲むんじゃなかった。結構我慢の限界かも……)
もぞもぞ待っていると、やっと扉が開いた。おじさんと入れ違いにトイレに駆け込む。
 
ここから異変は始まった。中から扉を閉めようとボタンを押すが、閉まらない。焦りながら何度か押していると、やっと閉まり始めた。(もう、これだからフランスは!)
しかも、なんだかちょっと汚い。流してないでしょと、流すボタンを探すが、見つからない。
でも、そろそろ本当に限界だ。そんなことを言っている場合ではない。小用を足してほっとしている時、ついに、それは起こった。
 
急に変な機械音と共に、便器が動き始め、そのまま壁の中に吸い込まれていく。
はっ……うそでしょ!? 途中で何とか無理やり止める。
急いで外に出たいが、手だけは洗いたかった。でも、水が出ない。
何が起こっているか分からない状況で、パニックになりながら扉に向かう。今度は何度ボタンを押しても扉が開かない。俺、なんか悪いことした!?
 
その時やっと思い出した。あぁ、そうだった。
フランスの公衆トイレの仕組みをすっかり忘れていた。
 
①人が入る→②扉を閉める→③用を足す→④扉を開ける→⑤人が出る→⑥(無人の状態で)自動的に扉が閉まる→⑦トイレの床を大量の水で流す→⑧自動的に扉が開く→①に戻って繰り返し
 
さっきおじさんとすれ違った。つまり⑤で駆け込んでしまったのだ。
全ての点が線でつながった。
閉まるボタンを押しても閉まらなかったのは、これから自動的に閉まるから。(フランスのせいにしてごめんなさい)
おじさんの後、流されてなかったのは、これから自動的に流されるから。手を洗う水が出なかったのも恐らく同じ理由。
扉を開けようとしたけど開かなかったのも……これから大量に水が流れるから!
まずいことになった。
 
聞いた話では、床に大量の水が流れて洗浄する。ということは、壁は大丈夫なはず。
そうと分かれば壁に手のひらと足の裏をついて踏ん張るしかない。
時間がない。急いで角に移動する。壁によじ登ろうとするが、こんな経験は初めてだ。滑って何度か失敗する。こんなことならロッククライミングでもやっておけばよかった。何度かやっているうちに少し床から浮いて止まることが出来た。
足元の予想以上の水の流れに、脂汗が止まらない。冬にこんな中に落ちてしまったら、気分転換どころではなくなってしまう。
時間にして1分もかからなかったと思うが、すでにある程度の距離を歩いていたので疲れもあったし、小用も途中で止めていた。腕も脚も力み切れず、プルプルし始めた。
最後の最後で足をついてしまったが、ちょっと水がはねた程度で済んだ。
上出来だ。
 
この後の展開は壁に踏ん張りながら考えていた。もう2度も同じ失敗は繰り返せない。
恐らく扉が自動的に開く。開いた瞬間、次の人が入って来るまでに閉じなければならない。できれば姿を見られたくない。ボタンの近くに駆け寄った。
やはり自動で開いた。必死でボタンを連打する。
幸いなことに待っている人はいなかった。見えなかっただけかもしれないし、必死な様子に、入ってこられなかっただけかもしれないが、とりあえず、入ろうとする人はいなかった。
 
扉が閉まった。息が上がっているが、ここまでくれば余裕だ。何とか、事なきを終えた。
 
次に出るころには違うおじさんが待っていた。
脂汗びっしょりで、一人上気して出てきた日本人に、おじさんは怪訝な顔をしていたけれど、何気ない空気を纏って、モンマルトルの丘に向かった。
 
こんな気分転換はもうこりごりだ。
でもこの日の夜、ぐっすり眠れたのは言うまでもない。
 
***
 
 
 
 
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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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