仕事の原点
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:シマザキ キミコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「人は感動したことは忘れないんですよ!」
この言葉は、当時働いていた店の店長に向かって私が言ったものだった。
その日私は人生で初めて受けたマッサージのことを熱烈に語っていた。
私が人生初のマッサージを受けた店は渋谷の道玄坂にあった。
以前から友人の一人がその店で働いているという話を聞いており、いつかタイミングが合えば一度受けてみたいと考えていた。
マッサージに興味はあったものの、当時の私の懐具合で一時間で6千円という相場は、正直高いと思っていた。
しかし、ある時ハードスケジュールがたたり、もうこれはマッサージを受けなくては体がもたないと感じていた。
生まれて初めてのマッサージ店への予約。
人生で初めて花束を買った時も、どうオーダーをすればいいのか、何を選べばいいのかわからなかったが、この時も何をどうオーダーすればいいのかわからず、とりあえず30分全身で、と予約をしてみた。
予約の時間になり、お店を訪れる。
場所は間違っていないが、どんなマッサージがあるのかはさっぱりわかっていなかった。
お店に入るとこじんまりとした待合スペースに案内され、体の不調を書き込むカルテのようなものを渡された。面白みは一つもない人体の全身の絵がカルテの中にあり、不調を感じる部分に丸などの印をつけていく。
背中の痛みが激しかったのでその部分と、足のふくらはぎから下の部分に丸をつけた。
お店の人に30分で全身の指圧のコースでいいかと説明され、値段的にも他の選択肢は選べずとにかく施術を受けることになった。
予約をした日、友人は出勤していなかった様子だった。
私を担当してくれた人は、少し訛りのある日本語で(中国の方かな?)と思えた。
カーテンで仕切られた、狭い個室に案内され「背中に蒸しタオルを当てるので、パンツ一枚になって、うつ伏せでタオルをかけて待っててください」と案内された。
初めて来た見知らぬ場所でいきなり下着一枚になるのは、いささかハードルが高いような気がしなくもなかったが、それよりも疲労の方が圧倒的に上回っており、私は勢いよく着衣を脱いで、目の前にあるマッサージ用のベッドの上に横たわった。
「お着替え済みましたか?」
担当のお姉さんが確認して入ってくる。
私は若干の緊張と、これから何が行われるのかの期待感でいっぱいだった。
体全体をなでられた後「じゃあ、足の方から行きますね」と、マッサージ師のお姉さんがおもむろにベッドの上に上がってきた。
ギシギシという音が天井から聞こえる。
(おおおおお……)
お姉さんは天井にくっついているバーのような棒につかまりながら、私の体を足の裏で踏んでいた。
(なんだコレェ……)
言葉にし難い感触だった。
お姉さんの足裏全体で、私の太ももやふくらはぎにじんわりと圧がかけられていく。
(めっちゃ気持ちいい……)
人に踏みつけられるのは人生初だったが、怖さよりも気持ち良さが圧倒的に勝っていた。しかも、お姉さんは時折天井にぶら下がって、私の足をゆさぶったりしてくる。
(すっごい面白い、中国雑技団的な感じ!)
マッサージへの知識の無さもあったが、想像以上の施術内容に一人静かに興奮していた。
やがて足の施術が終わって、背中のマッサージへと移る。
「背中に蒸しタオル乗せます」
背中にかけられていたバスタオルが外される。
そこへ、蒸しタオルが何枚も載せられていく。
(うおおおおお、タオルだけで気持ちいい……)
疲れた体がじんわり温められていく。
そして、更に背中も足と同様に踏まれていくのだ。
(オーーーー、ウオーーーーー、何されてるのか最早わからんが、気持ちいい!そして楽しいぞーーー!)
私は適度な圧でグイグイ押されるたびに、心の中で(あー)だの(うおー)だのと叫んでいた。
そして、背中全体が終わったかと思った瞬間、
(え???? そこも????)
お姉さんが、私の肩を足で押し始めた。
(ちょっと待って、え? 流石に肩はちょっと怖……く、ない!)
(すごい、気持ちいい!!!)
うつ伏せの状態でひたすらお姉さんに踏まれながら、何がどうなっているのやらこれもグイグイとちょうどいい強さで押され続けた。
(うっわぁ……本当コレ、すごいしか言えない……)
感動を表現する語彙の少なさが心の底から残念だったが、心の中で絶叫と感嘆を上げ続けて私の初体験はあっという間に終わった。
お店を出て、自分の体が軽くなっていることに気がつく。
(こりゃあ、みんな通うわけだ……)
その体験をして数年後、私はそのお店に就職した。
店長に「実は生まれて初めてマッサージを受けたの、このお店なんですよ」と告白すると、「担当スタッフ誰だったんだろう?」という話になり、特徴を照らし合わせると渋谷の店舗で指名率NO1だった中国人のスタッフなのではないかと推測された。残念ながら彼女は、私の入店と入れ違いに退職してしまったとのことだったが、その時以来マッサージを受けることがとても好きになり色々なお店に行って受けてみたこと、そしてその中でも初めてのマッサージを超えるインパクトのある施術には出会えなかったことなどを熱く語るうちに、
「人は感動したことは忘れないんですよ!」
という言葉が自然と飛び出していた。
その後、私は腱鞘炎でマッサージ業を続けるのが難しくなり、現在は飲食業などで働いている。
しかし、仕事について考えるとき、時折自分で言ったこの言葉を思い出す。
いつか自分の仕事も、誰かの感動を作る一助になれたら、と。
***
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