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メディアグランプリ

子どもの本なんて、と思っていた私が一気読みした性教育の物語

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記事:尾辻詩乃(リーディング・ライティング講座)
 
 
ああ、どうしてこの本にもっと早く出合っていなかったんだろう。
そうすれば、あの子に手渡せていたのに。
 
うちには毎年お盆と年末年始の計二週間、ホームステイに来る児童養護施設の子たちがいた。中でも、小学4年生のときからうちに来ていたAちゃんは、私にとってちょっと特別な存在である。というのも、彼女がいなかったら今の私はいないからだ。
 
彼女はいまどき絶滅機種と呼ばれる本好きな子どもで、一週間のステイの間に十冊くらい本を読んでいくような子だった。ところが、彼女はあの『長くつ下のピッピ』も『大草原の小さな家』シリーズも知らなかったのである。
 
衝撃だった。
要するに、彼女は翻訳文学に出合う機会がなかったのだ。こんなに本好きなのに。
 
そんなわけで、彼女に手渡す本を探すため、まず私自身が下読みすることを始めた。
驚いた。
大人になってから読んでみると、当時のワクワク感がよみがえるだけではなかった。
え、子どもの本って、こんなにも奥深いの? 圧倒された。
 
でも、私の勘違いかもしれない。
だって、しょせん子どもの本よ?
大人が夢中になるなんて、成長できていないみたいでおかしくない?
 
夢中になりつつも、どこかでそんな思いを抱えてた私。
いかがわしい本を普通の雑誌に挟んで買う中高生のように、大人の本の間に子どもの本を挟み、目立たないようにして図書館で借りまくった。さも、これ私が読むんじゃないんです、子ども用なんです、という涼しい顔をして。
 
ところが、勘違いじゃない、子どもの文学はとてつもなく深く魂に響くのだ、と断言してくれた人がいた。それが、臨床心理学者の故河合隼雄氏だ。
もともと大好きだった、河合隼雄さんが、こんなにも子どもの文学を絶賛している。
しかも、心理学の面からもいかに意味あるものかを解説してくれている。
大人が子どもの本を読むことの市民権を得た気がした。
 
それからは、河合隼雄さんが書いた児童文学論を読み漁り、彼のおすすめする子どもの文学を読みまくる日々。そして、子どもの文学の奥深さを他の人にも伝えたい! と気づけば私はFacebookページ『大人のための児童文学』を開設し、読書会やワークショップを開き、その素晴らしさを広める活動をするようになっていったのだった。
 
Aちゃんがいなければ、それらの本と再会することもなかった。本に関わる仕事がしたい! という思いを抱くこともなかった。だから、Aちゃんは、私にとって特別な存在なのだ。
そんなAちゃんも、いまや専門学校2年の二十歳である。
 
さて、冒頭に述べた、もっと早く出合いたかった本、その解説を書いているのも河合隼雄氏だった。
 
『ディア ノーバディ』(1991年)バーリー・ドハティ著 中川千尋訳 新潮社
 
河合隼雄氏推薦というだけでも間違いないし、カーネギー賞を受賞したほどの名作である。が、残念ながら絶版が決定している。
見かけたら、ぜひ手に取ってもらいたい。
なぜなら、すべての人に関係する普遍的な物語だから。
子どもの本だからといって、なめてかかるとガツンとやられる。
 
あらすじを簡単にいえば、この物語は高校3年生の女の子が、予期せぬ妊娠をしてしまい、思い合っていた恋人同士の関係が崩れていく一月から十一月までの物語。
 
10代未婚で妊娠、と聞くとふしだらな印象かもしれないが、決してセンセーショナルに描いるわけではない。女性側ヘレンの手紙と、男性側クリスの回想で物語は綴られ、丁寧に丁寧に、どちらの立場からの心情も描いている。それぞれの心情が深く心に染み入り、もはや他人事とは思えなくなる。
 
うちは気を付けてるから予期せぬ妊娠なんて関係ないわ、と思うかもしれない。が、それだけではないのである。周りの大人たちのそれぞれの知られざる背景も次第にあきらかになり、人間の生き方について考えさせられる。
そう、この物語は多くの“問い”をくれるのだ。
 
性的関係を持つとはどういう可能性をはらむのか。
母との関係。
命の重みとは。
 
命に関することは、誰一人として無関係な人はいない。
性教育って、命の教育。物語だからこそ追体験できる、その意義の大きさ。
 
ああ、複雑な家庭環境にあったAちゃんに、すべての大人にも背景があることを知ってほしかった。いま一人暮らしをはじめ、寂しさから、その場限りの関係を繰り返しがちな危うい彼女にこの物語を手渡したかった。高校生のうちに。
 
そんなAちゃんのことを思う一方で、自分自身はクリス側を弁護したい気持ちでいっぱいだった。なぜなら、私は三人の男子の母でもあるからだ。
 
妊娠を告げた後もクリスは覚悟を決めてくれたのに、なぜヘレンは黙って一人で何もかも決めてしまうのか。クリスはこんなにも誠実なのに。こんなにも愛しているのに。一方的に心を閉ざすヘレンは、ちょっと身勝手ではないか?
 
ついクリスに肩入れしてしまった私は、ラスト4ページになるまで、なぜヘレンがノーバディと手紙に綴っているのかを、クリス同様理解できなかったのだ。
ラスト4ページで、それを理解したときの衝撃たるや!
ああ、だからヘレンは……。
 
読み終えたとき、ノーバディは消えていた。
現れたのは、私にとっても大切なサムバディ。
 
Dear クリス&ヘレン
あなたたちにこの詩を捧げます。
 
「すべての嬰児は
神がまだ人間に絶望してはいない
というメッセージをたずさえて生れて来る」
(『タゴール詩集』、山室静 訳、弥生書房、P78)
 
 
 
 
***
 
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2020-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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