メディアグランプリ

『毎日かあさん』は私の15年分の育児書だった


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記事:渡邊真澄(リーディング・ライティング講座)
 
 
「これ見て見てー!」夏の日の夕方、仕事帰り息子を迎えに行った保育所の園庭。息子は、ダンゴムシをみっちり詰めたカメラフィルムケースを私の目の前に差し出した。「ダンゴムシいっぱい捕まえてたら、先生がこれに入れとき言うて入れもんくれてん」満面の笑顔で話す息子に「なに詰めてんねん!」と叱ることもできず、でも家に持って帰ろうねとは言えなかった。「そうか。そしたら、また明日も遊ぼうね言うて、おうちに帰してあげ」と息子に言った。当時、息子5歳、私は37歳。「私の中から生まれてきたが、息子とは異次元からきた生き物だ」そんなことを思いながら、元夫と別れた私はひとりで毎日息子を育てていた。息子が生まれる前、生まれて直後は、夫婦でいろんな育児書を読んでいた。情緒豊かで穏やかな子に育てる教育、おやつと食事は手作りしましょうと説く本、叱らないお母さんになる本。だが、読めば読むほどしんどくなった。理想はわかるが、仕事と子育ての毎日でこれ以上頑張るのは無理だった。全ての育児書を手放したのは、息子が5歳になる前だった。私は離婚し夫も手放して、息子と二人の生活を始めた。
 
1日、1週間、1年が独身時代の3倍速で進み3倍以上忙しい。職場でため息、1日の終わりにはため息、ため息だらけの毎日に笑いを届けてくれる親子が現れた。漫画家西原理恵子さんの息子くんと娘さん、元夫や母親、兄家族など彼女たちの家族の日々を描いた漫画『毎日かあさん』(毎日新聞出版)だ。初めて読んだとき、息子の上をいく長男文治くんの破天荒ぶりに驚き笑って、ホッとした。「あー、うちの息子と変わらんわ」よかった。うちだけじゃない。なんなら、うちの息子よりひどい。何度読んでも同じ話で笑って、ホッとして、そしてほろっとした。息子より3歳ほど年上と思われる文治くんの成長を見て、もうすぐこんなことを言うようになるのか、こんなこともできるようになるのかとちょっと先を見ることもできた。先が見えると安心する。目の前の息子を見て、ああ大丈夫だと思える。こうして『毎日かあさん』は私の育児書になった。
 
新しいコミックが発売されると、即購入して読むようになった。職場に持っていき昼休みに笑いながら読んでいると、同僚の男の子母たちが「なにその漫画!」と覗き込むようになった。職場の母たちの間で回し読みも始まった。りぼんやマーガレットを回し読みして恋愛漫画にときめいていた女の子たちは、20年後『毎日かあさん』を回し読みして、「アホなのはうちの息子だけではない」と安心するかあさんたちになっていた。30代、40代のおしゃれな主婦をターゲットにした女性誌が回されることは一度もなかった。
 
息子が小学校高学年になると、ますます文治くんに似てきた。春の大嵐の日、家に帰ると息子が見かけない靴下を履いていた。理由を聞いてため息が出た。嵐のなかで50メートル走ったら、7秒台どころか6秒台も出せるんちゃうかと仲良しくんと延々走り続けたそうだ。唯一まともな友達に「もうやめときーや」と言われ、その子の家に上がり体を拭いた。そこで靴下を貸してもらって帰ってきたそうだ。文治くんの日々を読んで「うちの息子の方がまし」と笑うより、「ああ、うちもやわ」と苦笑いすることが増えていた。いつの間にか私は、息子の理解できない行動を笑って流せるどっしりしたかあさんに成長していた。
 
『毎日かあさん』は全14巻を通して、作者西原さん親子のことだけでなく、戦友のようなかあさん仲間のこと、大切な人との別れや自身の親のこと、子ども時代の話も毎巻折り込まれている。それは私自身の人生とも重なった。離婚、ひとり親家庭、自分の親との確執や、親の看取り。実家にいた頃とは全く違う、大人になってからの兄弟家族とのつながり。そして、戦友であったかあさん仲間との励ましあい。自分も随分大人になったんだと読みながら自分の人生を振り返ったりもした。
 
毎巻笑うだけではなく、胸にズンと響き泣いてしまう言葉がある。読み終えると息子をぎゅーっと抱きしめたくなる。中学生になっても、高校生になっても泣きながら抱きしめてしまう。「えー、もうまた『毎日かあさん』読んだんやろ」と呆れながら言う息子は、私に抱きつかれたままゲームをしていた。
 
生きていればいろいろあるけれど、
子育ては楽しい。女の人生は楽しい。
あなたの人生は、どんどん楽しくなるよ。
 
育児書を手放し、ため息だらけだったあの頃の私に、『毎日かあさん』とこの言葉を送りたいと今は思う。
 
文治くんは中学生、高校生になり、大学生になった。妹ちゃんも高校生になり自分の進む道を見つけた。そして、西原さんの『おかあさん』は終り、『毎日かあさん』も終わった。最終巻の最後のページを見て、やっぱり私は泣いた。息子に泣きながら抱きつくと、「なんやねん!」とさすがに嫌がられた。ダンゴムシを集め、嵐の中を走っていた息子は、180センチの大学生になっていた。
 
 
 
 
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2020-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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