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メディアグランプリ

「豊かさ」の追及をやめた過去の自分に読ませたい本


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:多田陽香(リーディング・ライティング講座)
 
 
これまで哲学書なんて読まなかった。哲学とは、人生・世界、事物の根源のあり方・原理を、理性によって求めようとする学問だそうだ。要は何か当然と思われるこの世のことを、本を参考にしながら、好き者同士で語りに語り合うものだと思っていた。私は、それより行動あるのみ、というのが昔からのスタンスで、大学時代は文化人類学のゼミに入り、異文化の行動や慣習を研究するフィールドワークを行うようになった。
その頃は「豊かさ」というものの定義と探求に飢えていた。なぜ日本は豊かなはずなのに、外国でその日生きるだけのお金を稼ぐ人たちが眩しく見えるのか。その答えを探して、社会体制が全く日本とは異なる中南米のラテンの国キューバにも留学行った。その制度や仕組みの中に答えがあるのかもしれないと思ったが、結局納得のいく答えは見つからなかった。帰国して、「豊かに見えるこの国で、それなりに豊かに見えそうな生活を送っていくことが豊かなのかもしれない」そう自分を無理やり納得させたような気がする。その時の自分に、今ならこの本を渡したい。
 
最近になってできた同い年の友人が、「この本大学のころから好きなんだ」と貸してくれた。大学の読書仲間との間では、愛着を込めてタイトルを略し「ひまりん」なんて呼ぶそう。私に本を貸した後も、メッセージのやりとりの途中で「ひまりんどう?」なんて聞いてくる始末だ。
 
この本のタイトルは『暇と退屈の倫理学』。タイトルを読んだ時、大人が余暇を有意義に過ごすためのヒントが書いてあるのかと想像した。コンパクトだけど、厚みのあるどっしりとした本。私が読み始めるのには数日かかった。
 
気になる章だけ読もうかなと思い、目次を横流しで見るが、どれも「暇と退屈の」と始まってこれでは比べられない。各章にサブタイトルがあるがそれがどれもおもしろそうで、これまた比べられない。そうしたら、序章が『「好きなこと」とは何か?』ときた。一番序章が読みやすそうじゃないか。結局序章から読むことにした。
 
読んでいると使う言葉の数々から、徐々に異変に気付く。どうやらこれは充実した余暇の過ごし方を教えてくれる本ではないぞ。
 
なぜなら、序章でこんな問いをされるのである。
「人間が豊かさを喜べないのはなぜなのだろうか?」
 
混乱する問いだった。食べるものが十分にあること、健康で体が好きに動かせること、それは豊かであるはずなのに、それを私は喜んでいないなどと言うのだろうか。そんなはずはない。喜んでいるはず。いや待て、本当にそうだろうか。豊かさに恵まれていることを私は頭で理解しているが、豊かさを本当に喜んでいるだろうか。
 
この本は、余暇の過ごし方を提案するものでもなく、退屈のしのぎ方を教えてくれるものでもなかった。もっともっと深い、人間という生き物の根っこの部分を、この本は触ろうとしている。
 
私はこの本を読む前に、決めていたことがあった。読んでいて次々と疑問が生まれて、わけがわからなくなったら「難しくて読めませんでした」と返そうと。なのに、喉が渇いていることに気づき飲み物を取りにいった時には、話は第2章にはいっていた。
 
私は物わかりのいいほうではない。読み進めながら「ん?ここはどういうこと?」と疑問は都度生まれる。疑問が生まれたら、その疑問はずっと抱えて読み進めることができない。気になって仕方がなくなるのである。しかし、その疑問をこの本はすぐに回収してくれる。疑問が私の足かせになりそうだと見越しているかのように、数行後にはきちんと回収してくれるのである。
 
さらに言うと、私は物わかりが悪い上に、ちょっと斜めに物事を捉えてしまうところがある。話の途中で、「え?じゃぁこうすればいいわけ?」という反抗期のような意地悪な仮説を抱えてしまう。しかし筆者はもっと上手の返しをしてくるから痛快に感じる。それは巧妙な推理ドラマのように展開される。犯人はきっとこの人だろうと、こちらが裏を突いて推理したつもりでも、そんなことは予想の範囲内だったといわんばかりに、優しいほど詳しく種明かしを披露される。
 
私の、哲学書に対するイメージが変わった。この著者は、これまでにも難しいと思われがちな哲学者の名著を解説するような本を出版するなど、私のような初心者にも哲学書を読んでもらえるようにしてきたからかもしれない。
 
「ああ、なんだ。こういうことだったのか。」そう言ってしまうように、かねてから持っていた疑問が、ここへきてすっと答えがわかった気がした。大学生のころから渦巻いてた「豊かさ」を探す暗い空が、すっと中心から晴れていくような感覚だった。
 
友人から借りていた本は返そうと思う。その代わり自分用にこの本を1冊買って、友人には「ひまりん読んだよ。」と言いたい。
もし誰かが私のように哲学書は難しそう、と思っていたら。もし私のように、豊かさに何かしらの疑問を抱えていたとしたら、ぜひこの本をおすすめしたいと思う。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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