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メディアグランプリ

自分作りは雑炊のように


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:森本雄大(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「うーわ。また今年も来ちまったよ……」
 
自宅のポストを見ると、免許更新のはがきが入っていた。
別に驚くことじゃない、時期が来れば必ず来るものだ。
 
けれども、平日働きづめの僕にとって、休日にまで手続きに時間を取られるのはたまらなく面倒だった。
生きているだけで、何かしらの処理が必要になってくる。
人間の社会というのは、中々に面倒らしい。
 
「文章書こうと思ってたのになぁ。友達と飯でも行きたかったなぁ」
 
コロナなんだから、免許の更新なんてやめてしまえ。
ぶつくさ言いながら、免許センターへのバスへ乗り込む。
バスの中でも本を読むくらいはできると、パラパラとページをめくり、読み進める。
 
そのうち本にも飽きてきて、今日の夕飯のことを考え始めた。
 
「仕方ないから、夜はご褒美に何か作ろうか。鍋にしようかな」
 
鍋は僕の好物の一つだ。特に豆乳鍋なんてたまらない。
肉に野菜、きりたんぽなんかを適当に鍋に入れ、ぐつぐつと煮込む。
食べ終わったらご飯を入れて雑炊にする。この瞬間が最高だ。
 
よっぽど変なものを入れない限り、鍋はそれなりに美味しい。
むしろ入れることによって味が出たりする。
そんな風に、自分の人生も上手くいかないものだろうか。少し考えてしまう。
 
考え事をしていると、免許センターに到着した。
なんてことはない。これから手続きをして、写真を撮って講習を受けるのだ。
それをすれば、またしばらく更新をしなくて済む。
 
「はい、次は2番へ進んでくださいね」
 
慣れた動作で案内をするおばちゃん職員に誘導され、するすると手続きが終わっていく。
後に残すは写真撮影だけだ。
 
免許の写真は何だか嫌いだ。
なんせ人相が悪くなるか、間抜けな表情が取れるのがいつものパターンだった。
 
「はい、それでは行きますよー! レンズの中心を見てくださいね」
 
少し目を見開き、口角を上げる。
その瞬間、フラッシュが僕の視界に広がった。
 
パシャ
 
一瞬だ。
一瞬で僕の数年間の免許証の人相は決まってしまう。
そう思うと何だか残念で、どこかそわそわしながら講習へ向かった。
 
けれども、講習を終わって免許を見ると、思いのほか驚くことになった。
写真を撮る前には、考えもしなかったことだった。
 
「んん? まじか?」
何度も免許証を見てしまう。
 
良く、撮れている。
これがまた、良く撮れているのだ。
 
写真の進歩もあるかもしれないが、明らかに3年前の写真と比べると表情が違う。
自分でいうのも気持ち悪いが、何となく凛々しい。
3年前の写真を見ると、どこかボーっとして、間抜けな表情に見えた。
 
この3年間で自分が変わったんじゃないか。そう思えた瞬間だった。
走馬灯のように、この3年間が頭の中を駆け巡る。
 
振り返ると、本当に色んな事があった。
慣れない社会人という環境に身を置き、先輩に怒られ、お客さんにも怒られた。
沢山反省して、一歩ずつ進んできた。
 
お金も手に入れて、いろんなものを買ったり、見に行ったりした。
色んな人と会った、新しい友達もできた。人の数だけ経験があった。
 
そんな目の回るような3年間を過ごして、自分は変わっていたんだ。
 
意味があるとかないとか、その時はきっとわからない。
でも今になって、何かの形でつながっているということに気付く。
 
例えば、先輩から礼儀を学んだから、大人の中に自信をもって飛び込める。
文章の案件を探すときだってそうだ。
旅行、音楽、漫画、映画。自分が好きで触れてきたものは、全て自分の血肉になっている。
 
興味本位でがむしゃらに、自分という鍋に具材をぶち込んできたから。
どこに向かっているのか。このままだととんでもない鍋が出来上がってしまうのではないかと不安になることがあった。
 
でも写真の自分は、自信ありげに僕を見つめている。
全ての事から色々なことを学んで、つながっていく。
その結晶が、この写真の表情にある気がした。
 
うん。少なくとも今の時点では、悪い仕上がりではないみたいだ。
 
免許の更新が面倒だったことなんて、どこかに飛んで行っていた。
 
これからの人生、鍋にいろんなものをぶち込み続けるのだろう。
興味のあることだってまだまだたくさんある。
 
それならとりあえず入れてみればいいじゃないか。
始めから味を調えようとする人生なんて、きっと楽しくない。
 
色んなものを試して、吸収して、違うと思ったら捨てる。
その過程で失敗があったって構わない。
それが回りまわって力になると思うから。
 
あと何年煮込むのか。先は長い。
けれども、締めの雑炊が楽しみで仕方ないことは確かだ。
 
「割といい味になるんじゃない?」
 
免許証の自分を見ると、そう語りかけてくる気がした。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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