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また一つ、新しい山を登る


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:たまっくす(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「今日は、あっという間の1時間でした。皆さんと楽しくお話しできて、私も本当に楽しかったです。私自身、引退後、何ができるんだろう? どんなことで社会の役に立てるんだろう? と毎日模索し続けているので、皆さんに喜んでいただけてホッとしています」
 
先日、ちょっとしたご縁をいただき、元トップアスリートの方とのオンライン対面グループトークイベントに参加した。その方は、4年前に引退した日本を代表する世界レベルのトップスイマーで、まだ30代になったばかり。「日本を代表する世界レベル」とは、世界水泳選手権で日本人女子史上初となる金メダルを獲得した実績が裏付けている。オリンピックでのメダル獲得経験もある。
 
その方を仮にA子さんと呼ぶ。
オンライントークイベントには、約10人の参加者があり、2人の中学生男女の最年少スイマーから、上は60代の現役シニアスイマーまで、幅広い世代の男女が参加し、一人一人、A子さんに自由に質問する機会が与えられた。
 
私自身は競技としての水泳に真剣に取り組んだことはなく、泳ぐことは好きだが、子どもの夏休みの期間、地元の小学校の開放プールに一緒に行って2~300m泳いだら十分、という程度。
 
そんな私の質問は、「私は従来、中学でのバスケ、高校以来のラグビーとチームスポーツばかりやってきました。生来の怠け者で、自分自身を練習で追い込むことが出来ないので、『ここで怠けたらチームメンバーに怒られる。チームに迷惑がかかる』という強迫観念にも似た思いで自分を鼓舞しながらやっていました。とてもA子さんのように個人競技で、自分で自分を追い込んだり、モチベーションを維持したりはできなかったと思います。
個人競技で世界を獲るまでの努力って、すごく孤独なイメージです。やっぱり孤独でしたか? どうやってモチベーションを維持できたのですか?」だった。
 
A子さんは、柔らかな笑顔をみせながら、「はい。練習中は、とっても孤独でした。しかも水泳は水の中の競技なので、コーチの声も仲間の声も聞こえない。まさに、自分自身との対話しかありませんでした。たとえば、自由形を500m×10本、とか、バタフライを400m×10本とかの練習を毎日ひたすらやります。水の中で何も聞こえないから、きつくて、心の中で何度か葛藤があって、もう今日は足をついてやめようかな、と考えたりもします。でも結局、やり終えて『今日も1日、予定していた練習をやりきった。自分、よくやった』と自分自身をほめてあげるときの達成感が心地よくて、その瞬間を毎日重ねることが嬉しくてモチベーションを維持できました。それを毎日続けていたら、少しずつ、タイムも良くなって、それを毎日続けていたら、選手生活を満了できた感じです』と、全く偉ぶることなく、落ち着いた口調で淡々と語ってくれた。
 
また、「それと、400mを10本、全力で泳ぐ毎日のなかでも、『今日は、自分の課題として、キックだけを思いっきり意識しよう』とか『あげる腕の角度を1本1本変えてみよう』とか、自分自身の心の中だけで目標設定をして、取り組みました。それによって、仮にタイムが落ちてコーチから叱られても、気にしませんでした。自分の課題設定、自分の目標クリアは自分の中にありますから、自分との闘いに勝つというか、自分だけが納得できるゴール達成を日々のモチベーションにしていた気がします」とも言った。
 
思わずため息が出た。
かつて、イチローのインタビューでも、同じようなことを聞いた記憶がよみがえった。簡単にいえば、「同じルーティーン、同じトレーニング、自分で自分に課した課題を毎日、淡々とクリアし続けられる技術」の大切さと、それを積み上げ続けられる人間が、最後に気が付いたら「続けられなかった人たち」より、少しだけ高みに登れるのではないか? といった趣旨の発言だった。
 
世界の一流で活躍できる人たちに共通する「自分との対峙」の流儀を聞いて、とてもかなわない、と脱帽した。しかも、淡々と語られるからこそ、そのすごさがよりリアルに伝わる。
 
一方で、私は、トークイベントの最後に彼女が語った「私自身、引退後、何ができるんだろう? どんなことで社会の役に立てるんだろう? と毎日模索し続けている」という言葉が、実は、トークイベント全体の発言録のなかで、一番印象に残った。
 
世界一になった経験を、引退後、「私はどのように生かしていけるのか? 社会の役に立てられるのか?」その答えがわからず、模索している、そのように聞こえた。
 
かつて、1988年のソウルオリンピックでシンクロナイズドスイミングで銅メダルを獲得した田中ウルヴェ京さんは、同じ経験を「一度登った高い高い山からの下り方がわからず、さらに高い山を登り続けなきゃ」と自分自身を追い込んでしまう心理、と語った。
彼女自身は引退後、結婚や大学院での心理学の学位取得、キャリアトランジション(アスリートのキャリアの見直しプロセス)という概念との出会いなどを経て、メンタルトレーナーの第一人者として内外で活躍されている。
 
「一度登り切った高い山を下りる」「下りた後に、次の山の設定に迷う」
 
もし、A子さんが、今、そのような心理にあるのだとしたら、トークイベントの最後に漏らしたその言葉こそが重く、そして心に響く。世界一高い山に登った経験があるからこそ、下り方がわからないという面もあるだろう。その思いをてらいもなく、吐露できる彼女の素直さに好感がもてた。
 
私は、このキャリアの山を登り、山を下りる、という行為は、山の高さ(世界一のキリマンジャロから近所の山まで)の違いはあれど、誰もが生きていくうえで経験する共通の試練という思いがした。
 
だからこそ「今、自分は何の山を登り、山に登った経験、あるいは、下りた経験は、自分の子供たちや他の誰かの役に立つだろうか? 役に立てる要素はあるだろうか?」と、A子さんのように自問することが大切だと思った。
 
A子さんとの1時間は、50歳を目前にした私自身、今、登っている山の姿を見極め、自身が今、何合目にいるのか? を見つめなおす良い機会となった。山を登るのは、私たち一人ひとりだ。ただ、「あなたの山はなんですか? 一緒に良い山の登り方をしましょうね」や「山の下り方、私はこうしましたよ」と、声を掛け合うことはできる。この「登山」はチームスポーツにすることができるのだ。
 
 
 
 
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2020-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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