「畑を遊び場に!」農業を営む若き夫婦の挑戦
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大川真由美(ライティング・ゼミ日曜コース)
伊勢湾と三河湾の境に位置する愛知県・知多半島。豊かな海に囲まれ、温暖な気候から酪農や農業も盛んなこの地は、東海圏有数の食材の宝庫として知られる。知多半島の最南部に位置する南知多町で農業を営む杉山さんご夫婦は、一風変わった取り組みで農業の魅力を発信する「とるたべる」を運営。さまざまな活動を通して「いつでも遊びに来られる畑を作りたい」と語るその真意に迫る。
ご主人の直生さんは、愛知県安城市出身。明治時代に大規模な開墾をスタートさせた安城市は、日本有数の農業先進地域として大成すると「日本デンマーク」とも呼ばれた。しかし、地元で独立を模索したものの「あなたのやりたい農業は安城には向かないね、と言われました」と苦笑い。直生さんが農業を通してやりたかったこと、それは「生きている野菜を知ってほしい」ということ。いったいどういうことだろうか。
「私に言わせれば、スーパーの野菜は死体を並べているようなものなんです」
何ともショッキングな物言いだが、直生さんにとって野菜は生き物。土から離れてもしばらくは生きていられるが、やがて死んでしまうのだ。
「野菜は動いたり声を出したりしませんので、生きていることを忘れてしまいがち。それでも土の中にいる時はハリがあり瑞々しく、生命力に満ち溢れています。土から離れるとだんだん力を失い、やがて死んでしまう。私は、ただ野菜を生産・出荷するのではなく、生きている元気な野菜を食卓に届けたい」
この思いは、生産性を高めた大規模農業路線をひた走る安城市の農業と相反する。それなら、と自ら農業研修に出掛けて農家を紹介してもらい、ツテを広げていった。縁を繋いでたどり着いた場所が、南知多町。夫婦で移住して早3年が過ぎた。
一年中強い海風に晒される南知多町。山を開墾したため、傾斜のある畑が段々になって続いている。安城市に比べて小規模な農地が多く、ここ数年は移住して農業を始める若者が増えているとか。
「とても農業に向いている場所だと思いますよ。海底が隆起してできた土地なのでところどころに石がありますが、水はけがよく土にはミネラル分豊富。イノシシなどの獣害がないのもいい。野菜の生育を妨げるような石は、10年かけて土を掘り起こしながら整備していけばいいかな、と」
ただ野菜を育てることを良しとせず、生きている野菜を届けることを目指す直生さんにとって、どうやって野菜が育つのかストーリーを伝えることも重要。そのため、品種改良された優等生だけでなく個性の強い在来種も積極的に栽培しているが「苗づくりも難しいし、育ってからも難しい」と苦労の連続だという。その懸命に育てる過程が楽しく、「うちの子こんなに立派に成長したよ!」と誇らしい気持ちが湧く。一方、農法などの化学的アプローチは奥様である千尋さんが得意。元気な野菜を育てるため、土作りにも力を入れる。
「うちの子たちには除草剤や防虫剤は一切使いません。無農薬栽培です。土作りには、太陽熱養生処理技術を用いています。これは簡単に言うと、太陽熱と微生物の発酵熱で土壌を蒸し、害虫や雑草を取り除く技術。微生物の働きによって、土には野菜が育つためのアミノ酸がたくさんでき、味も生育も向上します」
このように本気で農業に取り組み、元気な野菜を育てるうちに、更なる目標ができた。生きている野菜を知ってもらうには、畑に来てもらうことが一番。土作りから現場で説明し、収穫を体験、その場で味わってもらうことで、忘れられない感動を刻み込む。そして「いつでも遊びに来られる畑にすればいいんだ!」というアイデアに行きついた。
どうやったら畑に遊びに来てもらえるのか。今は農作業と並行して畑のレジャー化に力を注ぐ日々だ。まずは畑と食、宿を組み合わせた農家体験からスタート。自分で収穫した野菜を持ち帰り、宿の夕食や朝食として食べてもらう。それはすでに取り組んでいるスポットがあるので、新しいことも考えたい。ならば収穫した野菜は宿に持ち帰るのではなく、畑のど真ん中で味わってもらったらどうか。採れたての野菜を生でかじり、持ち込んだカセットコンロで野外調理。畑にテントや小屋を建てて、コーヒーを淹れたりBBQをしたりするのもいい。遊び小屋は鋭意計画中なので、完成までに数年かかるかもしれないが、アイデアはそれこそ湯水のように湧いてくる。
「みんなの人生に、畑に遊びに行く、という選択肢を増やしたい。買い物に行く? 遊園地に行く? 山でキャンプ? いや畑でBBQ! みたいな(笑)」
都市部の人口が増えるにつれ、魚や肉と同じく、野菜だってどのように作られているのか知らない子供たちが増えている。私たちは生命をいただいて生きているということを知らない子供たちが増えている。それを学べる場、とも言えるだろうが、そんなに難しく考える必要はないのだ。ただ、畑で遊んで、土と戯れて、野菜を収穫して調理する。農業テーマパークではなく、農家が、生産の現場で行いたいという志に、新しい農業のカタチを見た。
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