メディアグランプリ

目の前で別れた彼と彼女


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:園部 彩里(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
目の前の男女二人が深刻そうな会話をしている。
彼女は突然泣き出した。
まだ、座ってから5分も経ってないだろう。
静かに彼が、カバンからティッシュを取り出し、差し出した。
 
日曜日。
私は課題を書こうとカフェに来た。池袋にあるカフェ、来るのは2回目だ。
2021年が始まったばかり。
今年になってみんなが口を揃えて、「今年は年末年始感がないね~」と言う。
大抵、今年の会話の第一声はこれだろう。
そんな世間が思う「年末年始感」について書こうとしていたが……。辞めた。
目の前に深刻そうな男女が現れ、あまりにも私の妄想が止まらず、書きたくなったからだ。
もう、無意識にパソコンをたたき始めていた。
 
ちなみに二人の会話は一切聞こえない。
ソーシャルディスタンスに忠実な席配置、感染対策万全なパーティションのせいだ。
パーティション越しに見える事実から、私はおそらく「別れ話」と予想する。
しかし、別れ話はカフェでするものなのか。
私の概念では、公園や家など人目のつかない場所ですると思っていた。
比較的落ち着いているカフェなので、泣いている彼女は結構目立った。
 
2021年決意を新たに。と、覚悟を決めた二人なのだろう。
 
ここで念入りに断っておくが、すべて彼らの状況は私の妄想に過ぎない話だ。
 
だいたい、新年になると何かと一新したくなるあの感情は何だろう。
ダイエットする! だの、転職する! だの、貯金する! だの、
1か月も経てば、忘れている事がほとんどではないか……。
 
私も毎年、夢の詰まったありきたりな目標を掲げるが、
1年を振り返った時に、想像とかけ離れた自分に気付き、
「何をしていたんだろう」と落胆する。
 
そんな私の話はさておき……。
この彼は彼女が来る20分程前に席について、コーヒーを飲んでいた。
携帯をいじるわけでもなく、ボーっとしているわけでもない。
コーヒーの味を嗜みながら、空気と会話しているかのような雰囲気だった。
今考えると、どんな伝え方をしようか迷っていたのだろうか。
 
彼女が到着し、二人はよそよそしい挨拶を交わし向き合った。
「おつかれ~」
「上着、ここに置きな」
「ありがとう~」
初めて出会う男女にも見えた。
そのぐらい、無駄をそぎ落とした挨拶だった。
 
彼女が座るや否や、
ぼそぼそとマスク越しに彼が話し始め、彼女の目から涙がポロポロとこぼれた。
灰色のマスクが涙で滲み始めた。
 
私は普段はイヤホンをして、自分の世界の中で考え事をするのだが、
今日は何か刺激が欲しく、人間観察をしていた矢先の出来事だ。
たまには、周りに興味を持つことも大事だな。
今日みたいに面白い素材が見つかる事もある。
目の前の2人には本当に悪いが……。
 
しかしここで私は、二人の空間を観察しすぎているとハッとする。
不自然にならないように、「さりげなく」を意識して観察を再開する。
 
彼は淡々と会話を続けた。少しの沈黙を交えながら。
相当な覚悟をしてきたのだろうか。そもそも感情表現が豊かではないのか。
そんな妄想を私も淡々と繰り返す。
 
ここで邪魔者が入った。
彼らの席の一つ後ろの席に、3人の学生が集った。
声がでかい。くそう。
 
今までもまともに会話は聞こえてなかったのに、
彼らのせいで全く聞こえなくなってしまった。
完全に私の妄想力にかかっている。
終始、私の妄想劇なのだが……
 
どうでもいい3人の学生の会話は、一言一句聞こえてくる。
就活の話をしている。建築関係に就職したいようだ。
ああ、こんな話に耳を澄ませる私もどうかしている。
 
早くも30分が経とうとしている。
目の前の男女の表情は先程とあまり変わらない。
彼女は絶え間なく涙をこぼし、彼は淡々と言葉をこぼしている。
 
マグカップに入ったコーヒーは、酸味が強く感じるまでに冷えているだろう。
 
私もそろそろ同じ景色に飽きてきた。
すると、「よし」の言葉と共に、二人が立ち上がった。
彼女も頷きながら、覚悟を決めた表情をしていた。
 
そして、「今日はありがとう」と、
淡白な一言と笑顔を交わして去っていった。
 
無事に話の折り合いがついたのだろうか。
私の妄想では、そうゆうことにしておこう。
 
自分が好きなコンテンツが、簡単に体験できる時代。
一人の時間にのめり込む事が出来る時代だからこそ、
意識的に他人に興味を持つ事が、時に新鮮な体験になる事がある。
 
電車の中での他人の会話を盗み聞きする。興味のないコンテンツにあえて触れる事など。
気軽に他人と交われないこのご時世だが、
沢山のアンテナを張って興味の幅を広げていきたいと感じた。
 
目の前の二人をチラチラと観察し、
時にニヤつきながら本文を書いている不審者さながらの私を、
このカフェにいる誰かがどこかに発信して、新たな話題にしている事が本望だ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事