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心のゴミは、ゴミじゃない。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:リサ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「不満を言うのはやめなさい!」
「グチグチ言ってないで、我慢しなさい!」
 
子供のころから、そう言われて育ってきた読者は多いのではないだろうか。
気に入らないことがあっても、ぐっとこらえる。
不平不満は、はき捨ててはいけない「心のゴミ」だった。
 
しかし、そんなゴミを、受けて止めてくれる業者があるとしたら?
しかも、買い取ってくれる業者があるとしたら、どうだろう。
インターネット上で運営されている、その名も「不満買取センター」だ。
 
「この店のコーヒーの味は、薄い」
「このエリアは、WI-FIがつながりにくい」
「新商品のパッケージのフタが、空きにくい」など、日ごろ感じているさまざまな不満を書き込むと、ポイントに換算して買い取ってくれる。ポイントは、500以上貯めると、Amazonで買い物もできる。
文字通り、お金になるのだ。
 
1月4日時点で、すでに51万人以上が登録している。
かくいう私も、会員になって数か月がたつ。
 
はじめて書き込んだ不満は、あるメーカーの泡立ち石鹸のプッシュボトルについてだった。「ボトルの中のホースが短くて、液体が最後まで使いきれない」と書き込んだところ、4ポイントが返ってきた。
 
不満買取センターは、寄せられた不満をもとに、企業へのデータ提供や企画開発のコンサルティングを行っているというから、ひょっとしたら、液体ボトルが、リニューアルする日がくるかもしれないと思うと、さらにワクワクする。
 
この業者の面白いところは、それだけじゃない。
 
不満の買い取りは、商品や店舗などにとどまらず、家庭や職場などの日常のすべての不満に対して行われていることだ。
 
「家でたばこが吸えない」
「お小遣いがあがらない」
「コロナ禍で出歩く人々が許せない」
「正月は、お笑いの番組ばかりでつまらない」
 
などなど。
人々の生活そのものの不満を浮き彫りにすることで、次世代の暮らしのあり方までよくしていこうというのである。
リサイクル社会は、いよいよ人々の気持ちまで有効活用する時代がやってきた。
 
心のゴミは、ゴミじゃない。
まだ手にしていない未来への期待のかけらなのだ。
 
が、そんな矢先のことである。
近所のスーパー銭湯で、ある出来事があった。
 
「ちゃんと閉めなさい!」
「ほら、閉めろー!」
 
声の主は、80代前半とおぼしき、痩せた白髪の女性。
毎日のようにやってくる常連の彼女は、なぜだか、脱衣所から風呂場に入る引き戸の前で見張っていて、最後までしっかりと戸をしめない客に、怒号をあびせかけるのだ。
 
確かに、そのガラスの引き戸は自動ではなく、取っ手を途中で離してしまうと、勢いがなく止まってしまう。
老婆にいわせれば、そこからスース―と風が通り抜けるのが耐えられないのである。
 
どなられた側は、その声の大きさにびっくりして、たちすくむ。
全裸の状態でふるえあがる。
変わった老婆を無視する客もいるが、たいていは、引き戸の半開き状態に気づき、申し訳なさそうに閉め、オドオドと洗い場に入っていく。
どやされたショックから意気消沈して足のふらつく人もいる。
事故が起きないかと心配になるほどである。
 
その光景を、日を分けて何度か目にしたところで、見るに見かねた私は、フロントに報告に行った。
 
「ああ、はい、存じております、以前から。」
 
フロントの女性は、困ったような表情をうかべて言った。
 
いっそ自動ドアにしたらどうか、と提案すると、それも上司に話し、今は回答がないのだという。
 
それを聞いた私の心は、不満買取センターに書き込む決意を固めた。
自動ドアは経費がかかるし、このまま、やり過ごそうというのが店側の魂胆なのだろうと思った。こういうときこそ、不満買取センターの出番だ。
 
そのときだった。
 
「ガラスの上に、テープで字を貼ればいいんじゃない? 最後までしめて! って」
 
私の隣りにいた中年の女性客が言った。
 
「カラーテープ、あります?」
 
横で話を聞いていたアルバイトと思われる若い女性が、すぐさま奥の部屋へ入っていき、赤と黄色のカラーテープを持ってきた。
テープとはさみを受け取った女性客に続いて、私たちは、脱衣所へと向かった。
 
ものの5分とかからなかった。
彼女は、器用にテープを切って、「チャントシメテ!」の文字を形作り、引き戸のガラスに貼った。
 
「もし、上の人に何か言われたら、お客様の要望で、とりあえず貼りましたと言いなさい。」
 
そういうと、彼女は、アルバイトの女性に携帯電話番号を渡した。
そうして、何事もなかったかのように、自分のロッカー番号の方へと歩いて行った。
 
その場に老婆はいなかったが、以来、脱衣所で、声を荒げている場面は目にしていない。
とりあえず、という名目で貼られた赤と黄色の「シメテ!」のテープは、数週間たった今もそのままだ。
 
なんということだろう。
不満は、解消できるのだ。業者の力なんてなくても。ほんのちょっとの機転があれば。
 
不満を言うのは、とても簡単だ。
どなりつづける老婆も、その老婆の行動や店の対応をとがめる側も。
 
しかし、「不満を言うのはやめなさい」の言葉の中には、どうにもならない状況だと思っても、不満を言う前になんとか解決できないのか、考えてみなさいという深い意味が隠されていたのだと、今更ながらに気づいた。
 
心のゴミを買い取ってくれるサービスは、ありがたい。
そこから、便利になる生活は、もっとありがたい。
しかし、自分自身の機転やアイデアで、ゴミのでない生活を送れたら、やっぱりそれが、一番気持ちいい。
 
だから、心のゴミは、やっぱりゴミじゃない。
ゴミになる前に、なんとかできないか考えてみる。少しずつ、そんな毎日にしていきたいと思う。
 
 
 
 
***

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2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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