年末にGReeeeNの『キセキ』を聴きながら
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:能勢 拓人(ライティング・ゼミ平日コース)
2020年の紅白歌合戦。多くのアーティストが今年1年を振り返り、コロナの感染拡大をみんなで乗り越えようと訴えている。そんな中、GReeeeNがまさかの顔出し! 彼らはおそらく、東日本大震災からの10年の復興の軌跡を、その思いを、素顔で伝えたかったからではないだろうか(まだ本人だったかどうかはハッキリしていないようだけれど……)。
彼らが歌う『キセキ』を聴きながら、僕も震災後3年ほど経った仙台の風景を思い出していた。
2014年10月。
保険の仕事をしていた僕は仙台支店へ配属されることになった。不安な気持ちも抱えたまま、新幹線に乗り込んだ。産まれも育ちも関西だから、初めての土地への戸惑いもあったし、震災後であることに対する不安がなかったと言えば嘘になる。
それでも到着すると思ったよりも都会で、震災の爪痕も見られず、正直ほっとしていた。
住んで分かったことだが、仙台の人はとても素直で優しい。お店に入ってこちらから話しかけるとなんでも答えてくれるし、人付き合いで嫌な思いをした覚えはない。
保険関係の仕事をしていたこともあり、仕事でもプライベートでも震災当時のお話を伺うことが多かった。
美容室で洗髪中だった。水も電気もガスも止まって大変だった。
食料がなかった。
寒かった。
マンションの壁が剥がれた。
家が流された。
高齢でローンが組めないから、息子にローンを借りてもらった。
当時石巻市で働いていて、津波のアナウンスが流れる中、同僚の車で逃げるつもりが忘れ物を取りに行って乗り遅れた。必死で自分の脚で高台へ向かって走って逃げた。
知り合いが未だ、行方不明。
体験した人からの言葉は現実そのもので、TVで見ているより鮮明に脳裏に訴えかける。
話を聞いたほぼ全員が笑顔で震災について話してくれた。これほどの笑顔を取り戻すのに、どれほどの時間が必要だったのだろう。どれほど向き合って来られたのだろう。
僕は多くの人から話を聞いた。次第に被災者の人の気持ちを分かった気になっていた。
でも、全然そんなことはなかった。
2015年、蝉が鳴き始めた頃。
子供が生まれたので保険の話が聞きたいと、仙台駅から電車で20分ほどの所にある多賀城市のご家庭に訪問することになった。住所から察してはいたが、到着するとそこにはプレハブが並んでいた。開け放たれた窓からは風鈴の音や話し声、TVの音が聞こえる。
訪問先のご主人は中距離トラックの運転手さんで割とイケメン。その横でころころ笑っている可愛らしい奥さん。説明と申込みで2回しかお会いしていないのだが、今でも鮮明に覚えている。
1回目の訪問で笑いの絶えないこのご家庭に好意を抱いていた。
2回目で申し込んでもらった。申込書にお子さんの身長・体重を記入する際には「こういうのはウソついちゃだめだから」と、体重計に赤ちゃんを乗せて、それからメジャーを持ってきて笑いながら身長を測るご主人。その横で「もうやめてよ、恥ずかしー」と奥さんが笑っていらっしゃる。そんな笑顔の似合う、明るいご家庭だった。
一通り申し込みが終わった後、ふと、ご主人がおっしゃった。
「もうなんにも思い出せないんだよね。町ごと流されちゃったから。思い出も全部」
僕は混乱した。そんなに思い出せないものだろうか? その疑問をグッと自分の中で押し留めればよかった。それなのに、僕は無遠慮に聞いてしまった。
「思い出もですか? 思い出は心の中に残っていらっしゃいませんか?」と。
一瞬にしてご主人の顔に影が差した。
何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうとは分かったけれど、何がいけなかったのかは分からなかった。少しの沈黙の間、ご主人の様子をうかがう。
少しの間うつむいて、でもすぐに顔を上げて、笑顔で、一つ一つ確かめるように話された。
「俺、バカだからさ。覚えられなかったんだよね。町ごとですよ。想像できますか? 家も写真も。自分が通ってた学校も。公園も。全部全部もうないんです。頭が良かったら覚えていられたんだろうけど。俺、バカだから……」
浅はかだった。
なぜ人の心が分かったように感じていたのだろう。頭を下げて謝罪の言葉を述べるしか出来なかった。
ご主人もついつい話しちゃったと笑っていらっしゃったし、奥さんも僕の様子を見て心配してくださった。
でも、バカなのは僕だった。
笑顔で迎え入れてもらって、すごく良くしてもらったのに、僕は知ったかぶりをして、気を使わせてしまった。話を聞くだけのことすら出来なかった。
話を聞いたり、メディアから情報を得たりと、人の気持ちを考えている気になっていた。けれど、実際に被災した人たちの経験なんて分かるはずもなかった。当時は遠くからテレビで見ていて、数年後たまたま仕事で東北に来て、話を聞いただけなのに。分かるはずもなかった。
このご夫婦以外にも笑顔で話してくれた人は想像もできない思いを抱えて、辛い出来事を乗り越え、笑顔で語ってくれていたのだろう。
僕は何も分かっていなかった。
そして改めて気がついた。東北の人たちは本当に暖かい人たちだったのだと。もし自分が同じ経験をしていれば笑顔で話すことは出来ただろうか。
福島で結成された音楽グループGReeeeNが届ける『キセキ』を聞きながら、そんな東北での日々を思い出していた。
もしかすると、紅白を見ていた人でも震災について考える人は少ないのかもしれない。僕も現地で話を聞いていなければ、そこまで思い入れはなかっただろう。
もうすぐ震災から10年を迎える今、考えるべきは震災を思い出すこと。知ること。
そして、万一のことが起こった時の自分の行動を見つめ直すこと。身の回りのことだけでいっぱいいっぱいになるだろう。それなら、最低限、自分のことは自分で出来るようにしておかなければいけない。
思いを届けてくれたGReeeeNに感謝しつつ、非常食の賞味期限が切れてないかでも確認しておくかな。
***
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