人生酒場 ~それでもお酒に恋する男の物語~
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:笹川 俊明(ライティング・ゼミ集中コース)
私は問いたいっ!!
「なぜ人は酒をやめられないのか?」
……。
……。はいっ、ストーップ! 共感度低めなことは重々承知なのである。
正確にはこうなのだ。
「なぜ私は酒をやめられないのか?」
……。
「え? なんかつまらなそうな記事だなぁ」と思ったそこのあなた!
閉じるボタンを押すのはちょっと待ったー!!
私のポンコツなお酒失敗談ではないのだ。少し真面目にお酒の効用についてみなさんと一緒に考えてみたいのである。
もちろん、あなたの貴重な時間は奪う権利など私にあるわけがない。
あと3分読んで「あかんな」と思ったら、WEBサイトの右上にある「×」ボタンをどうぞ容赦なく、そして怒りを込めて押して欲しい。
あぁ、完全に自分でハードルを上げてしまった感が否めないが、ここでのまれるわけにはいかない。
「呑んでものまれるな」
酒の席ではないが、酒の話でも先人の教えは尊い!
さて、なんだかよくわからない感じになってきたが、これだけお酒お酒と連呼している以上、私は無類のお酒好きである。ある人からは血液の80%はアルコールでできているだろうと言われたほどだ。
約二十歳から20年あまり、お酒との付き合いも長くなった。
親と暮らした年数よりも長くなったなんてなんだか感慨深い。
お酒にもずいぶん強くなったし、呑めるお酒の種類も増えた。大学生の頃なんて、ビールの何が旨いのか全く分からなかったのに、今では「乾杯はビール」(これってもう古いの?)は外せないし、あの苦みがたまらなく好き。
不思議なものだが、歳を重ねるごとに、好みも変わってきたように思う。
そして、最近こんなことを思うことがある。
「お酒と音楽って似てない?」
なんのこっちゃかもしれないが、聞いてほしい。
先ほど、歳を重ねるごとに飲むお酒の好みが変わったと言った。
もちろん、歳をとるにつれ、味覚がかわっていくこともあるとは思う。
しかしそれだけではないはず。
経験や体験による「思い出」がお酒と強く結びついているんじゃないかと、私は思っている。
まさにそこが、音楽的って思ってしまうポイントでもある。
つまりは、思い出すのである。
甘い切ない恋。辛く悲しい別れ。新しい旅立ちのあの時。自分の成長を感じたあの日。
私たちにはいくつもの思い出があり、その思い出には感情の糸が幾重にも複雑にからまっている。
そんな経験に寄り添ってきたのが、音楽であり、お酒だと思うのだ。
40歳を過ぎたおっさんが語るのは少々気持ち悪いが、私にだって辛く苦い失恋の思い出のひとつやふたつ、いや、三つに四つ……。あれ、もっとだったか? まぁいい。とにかくそういう淡い思い出があるわけだが、その当時、恋に破れて打ちひしがれるわが身を癒してくれた曲がある。例えば、ミスチルの『抱きしめたい』なんて聴いた日には今でも涙腺が緩んでしまうほど、当時のあの、あの切なくも苦しくももやもやしつつも胸が張り裂けてしまいそうな感情が鮮明に蘇ってくる。重ねて主張したい。思い出の曲を聴くと、一気に「その時」にタイムスリップして当時の感情がリアルに蘇るのだ!
どうだろうか。みなさんも同じような経験があるのではないだろうか。
これと同じような効用をお酒は持っているのではないか? と私は思っている。
私なんてのまれてばっかりだが、のまれながらも随分お酒に助けられた。
「失恋した時。仕事で失敗してへこんだ時」
お酒は黙って受けとめてくれた。
若い時、気分を一気に変えてくれるようなお酒がその役をかってくれた。
ビールにサワーは定番だったように思う。ちなみに、カルピスサワーを卒業したのは3回目の失恋の後であることは誰も知らない。
「仕事で成果をあげた時。昇進した時。婚約した時」
お酒は喜びを二倍にも三倍にも大きくしてくれた。
少し背伸びをしたくなった私の背中を押す。そんな役もかってでてくれた。
ウイスキーとワインは大人の階段を一歩ずつ上がるためのパスポートのような存在だった。ちなみに、ハイボールは太らないという都市伝説を丸のみにして1年間で10キロ増量したことはここだけの話にしておいて欲しい。
「親父を亡くした時。会社の方針と自分の生き方の狭間で悩んだ時。人生の岐路に立ったあの時」
お酒は悲しみをぐっとのみこむ強さを教えてくれた。
日本酒と焼酎。
親父が好きだったあの味にようやく自分も舌鼓をうてるようになったことが誇らしかった。清濁あわせのむ時間を大切にできるようになったのも、ゆっくりと時間をかけて味わえるお酒のおかげだった。ちなみに、酒での失敗に対する妻からの叱責が激辛を超えた辛さであることを申し添えたい。
そういうわけで、お酒はいつの日か私にとって戦友になったわけだ。
だから、とてもじゃないが、戦友との縁を切るなんて考えられないわけである。
そんな中、人間ドックで医師から戦慄な言葉が……。
「ちゃんと考えた方がいいですね。もう若くないんですから。そんなに毎日たくさん呑み続けたら、血管が固くなっていつか破裂しちゃいますよ。ご家族との思い出をもっとたくさんつくりたいでしょ? お酒、やめましょうね」
別れはいつも突然なのだ。
部屋には今、MISIAの『逢いたくていま』が流れている。
いつかの日か、この曲に涙するのだろう……
***
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