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スポーツとは学園イチのモテ男である


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:前田三佳(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「例えば自転車に乗るくらい簡単なことです!」 
講師の三浦氏がそう繰り返すたびに、私は少し傷ついた。 

昨年の秋から私はライティングゼミの講座を受講している。 
軽快でわかりやすい授業が楽しくて、それは私の新しいライフワークとなった。 
たぶん巷のカルチャーセンターなどで学ぶより遥かに実践的で、楽しい講座だ。 
しかし、である。 
これからこのゼミを受ける方のために詳細は語れないが、例えとしてたびたび繰り返される「自転車に乗るくらい簡単なこと」がこの私にはあてはまらなかった。 
そう、何を隠そう私は自転車に乗れないのだ。 

いや、正確に言うと中学生の頃は乗れていた。 
思えば中2の夏、初めてできたボーイフレンドと自転車で遠出した。 
けれど私があまりにのろく、彼といつのまにか、はぐれてしまったせつない思い出がある。 
それからウン十年、湘南の地に越してきた私は買い物用にママチャリを購入した。 
当然、乗れるものと思って。 
「見ててね」とおっかなびっくり自転車に乗った私に夫は断言した。 
「お前、もう乗るな」 
「え? なんでよ。乗ったの中学生以来だもん。大丈夫。じき慣れるよ!」 
「いや、もう乗らないでくれ。頼むから」ときた。 
夫曰く、怖くて見ていられない。絶対に事故を起こすというのだ。 
これは惚気でもなんでもなく、私の重度の運動音痴をよく知っての発言なのだ。 
それからピカピカのママチャリはカバーを被ったまま、我が家のベランダに居心地悪そうに置かれている。 

小学生の頃から、体育が苦手で成績はいつも5段階評価の「2」 
「1」 にならないのは出席だけはしていたからだ。 
いつも先生から新しい種目が紹介されるたびに、「もしかしたらこれは得意なんじゃないか」と 
淡い期待を寄せた。 
でも淡い期待はすべて虚しく泡と消えた。 

跳び箱や馬飛びではタイミングが合わず、勢いあまって向こう側の空に手をつきひっくり返る。 
走り高跳びでもタイミングが合わず、気が付けば棒を握っている。 
逆上がりなんてもちろん出来ない。 
ドッジボールやバレーボールは飛んでくるボールが怖くてたまらない。 
走るのは一番苦手で、短距離も長距離も苦しくてたまらなかった。 
「運動会なんて無ければいいのに」 
拍手喝さいを浴びる友達を羨ましく見つめるだけで、私にはどうすることもできなかった。 
勉強なら努力次第で結果が出せるが、私のような運動嫌いの運動音痴がスポーツでいい結果を残せる 
はずもない。 
中学生にもなると私は持病の喘息を理由に、体育の授業を休みがちになった。 
ホントは元気な時も「見学」である。 
そうでもしなければ、男子に私のぶざまな姿を見られてしまう……。 
自意識過剰の少女はそうして、運動ができないまま大人になった。 

そんな私が大人になり、もうかれこれ30年スポーツクラブに通っている。 
あの運動嫌いで運動音痴の私が、である。 
親が生きていたら、さぞ驚くことだろう。 
始まりはダイエット目的だった。 
子育てが一段落する頃、哀しくだぶついてしまった身体を「どげんかせにゃならん!」と一念発起したのだ。 
子どもを学校に送り出し家事を済ませた後、せっせとジムに通った。 
仕事を始めても土日にはジムへ。 
還暦を超えた今もそれは続いている。 

私にとってスポーツクラブの何が良いかと言えば、それは「評価をされないこと」 
子どもの頃から運動に対しコンプレックスを抱いていた私だが、ここでは誰の目も気にせず、評価されず、自由に身体を動かすことができる。 
例えば、心の平静も取り戻せる「ヨガ」 
多少(?)リズムに乗れなくても楽しい「ズンバ」 
音楽に合わせてバーベルを持ち上げる「ボディパンプ」 
なんとか4種目泳げるようになったからプールで50mを10本泳ぐこともある。 
そういえば前の前のジムで、ひとりバタフライの練習をしていたら、コーチが走ってきて
「あ~! よかった!! 溺れてるかと思いました……」と言われたっけ…… 
今では思い出し笑いできるほど、私は苦い思い出ばかりの運動コンプレックスから抜け出すことができた。 
それは多分あまりに出来の悪い私に呆れ内心笑いをこらえながらも、辛抱強く教えてくれたコーチたちのお陰である。 

そしてとうとう私は運動したあとの「爽快感」というヤツを知ってしまった。 
それはまるで、ラブコメのストーリーだ。 
なぜか鼻につき苦手で堪らなかった学園イチのモテ男。彼はずっと遠くにいた。 
でも本当はずっと心の奥で憧れていたんだ。 
長い時間をかけてスポーツ後の「爽快感」という彼をゲットできた私に、もうコンプレックスなんてない。 
どんなに無様だろうと笑いたければ笑えばいいさ。 
だって私と彼は切っても切れない深い関係だもの。 

おっと、こうしている場合ではない。自転車の練習をしなくちゃ。 
ただひとり、私のコンプレックスを思い出させる夫にこっそり内緒で練習をするのだ。 
自転車で風を切り、もうひとつの爽快感を味わうことが今年のささやかな目標である。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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