メディアグランプリ

小説はピーマンを食べるように楽しんでみると面白い


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大附祐貴(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私には理解できなかった。
「夜の底が白くなった」という文章の意味が。
 
文章術を学ぼうと、私は天狼院書店という本屋が主催する「ライティング・ゼミ」に参加している。
ある講義の中盤、講師の三浦さんは川端康成が書いた小説「雪国」の2文目に書かれている「夜の底が白くなった」という部分を取り上げて、興奮気味に受講者に訴えた。
 
「夜の底が白くなったんですよ、こんなに良い表現方法はないっ!」
 
話を聞いていた私は、その言葉をかみしめようと努力したが、瞬時に飲み込めなかった。
「夜に底なんてあるの? 夜の底、夜の底、うーん……」
帰宅してからも、喉にひっかかったものが取れないままであった。
 
それもそのはず、このゼミに参加するまで、小説とは無縁の生活を送っていた。
 
読むといえば評論のような文章ばかりで、小説はなんとなく苦手。高校時代は、現代文が小説の授業になると退屈で仕方なかった。
大学入試も国語の試験は評論文のみが出題される学校に合格した。それ以降たまに直木賞受賞作を読む機会はあったが、それでも新書やビジネス本と比べると圧倒的に量に差がある。
そのような人間が、講師の一言を理解しようとしてもできないのはある意味当然かもしれない。
 
そのモヤモヤを抱えたまま、講義から数日たち、2020年の大みそかを迎えた。
前日から数年に一度の大寒波が到来し、凍えるような朝だった。
 
「夜の底が白くなった」というは何なのか……。
 
別にそのモヤモヤが解消されたところで何にもなるわけではなかったが、やっぱりその真意を知りたくなって、近くの天狼院書店へ向かった。
店ではその到着を待っていたかのように、入り口近くで「雪国」が表紙を向けて一列に並んでいた。その中の1冊を手にとり、レジへと向かった。
レジでは、先日の講義でアシスタントとして登場した店員さんがカバーをかけてくれる。
「先日の講義で面白いって聞いたんで……」
「『夜の底が白くなった』ですね!」
どうやら「夜の底が白くなった」という文章は、国民誰もが知っているあの書き出しよりも、その小説を代表するフレーズになっていたらしい。
 
帰宅してからひとまずパラパラとめくってはみたが、やはり難しい。
さすがは川端康成。まさに文“豪”と言わんばかりの底力を私に押し付ける。
書かれている意味が分からない。冒頭の数ページを何回読み返しただろうか。
 
日も暮れてそろそろ年越しそばを作らねばと、いつもの癖でテレビの電源を入れた。
雪に見舞われた地域の様子がニュースで報じられている。夜間まっくらのなか、ライトに照らされた白い雪が、大地にうっすらと化粧をしているかのような映像だった。
 
真っ暗な風景に真っ白な雪が積もっている……
画面に映し出された映像を見て、ハッと呑み込むことができた。
それはまさに「夜の底が白くなった」場面にそっくりな風景ではないのか。
 
イメージがわいた。なるほどなと納得した。
 
(自分で風景を想像して楽しんでくれ……)
 
小説に対して拒否反応を起こし、逃げてきた私にそうアドバイスがあったのだろうか。
そこからというもの、小説に出てくる主人公やその他の人物とのやり取り、その場面の風景が、ぼんやりイメージ出来るようになった。
 
「想像を膨らませながら小説を読むことが、なんと面白いのでしょう……!」
読み進めていくにつれて、そう思わずにはいられなかった。
 
途中でお茶を飲もうと立ち上がったとき、ふと思った。
「なんて食わず嫌いだったのだろう……」
 
確かに、幼少期のころは嫌いな食べ物も多かった。
特にピーマン。人気漫画でも描かれるくらいの子供の苦手食材ナンバーワンのような存在で、私もあまり好きではなかった。親に頼んでそれだけはいらない……ということもあった。
 
時が変わって学生時代。食事会に出ることも多くなり、その場では有無を言わさずフルコースでいろんな食材がテーブルの上に並ぶ。
ある日、中華料理でチンジャオロースが登場した時に、あいつがやってきた。
さすがに“あいつ”だけを箸でよけるといった行儀の悪いことはできないので、しぶしぶ小皿に分け取り、覚悟を決めてパクリとかみしめた。その時の「あぁ……美味しい!」と、素直に感動したときのことは、忘れることができない。

いまそのかみしめた時の感動が、数日前の講義で理解できなかった私に到来した。
まるで、雪が解けて春が来たかのように……。
 
天狼院書店のライティング・ゼミを紹介するチラシには、こう書かれている。
「人生を変えるライティング教室」
どう変わるとかは、書かれていない。
何に変わるとかも、誰も知らない。
でも、「夜の底が白くなった」という文章を味わい、小説を楽しめた私は、多少なりとも変わったかもしれない。
 
すべてを読み終わったのは、2021年の元旦になって、すでに1時間経っていた。
「まずはなんでもやってみよう」
そう決心して、本を閉じた。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

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2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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