メディアグランプリ

「引き算」と「足し算」の塩梅


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:北川亮太(ライティング・ゼミ日曜日コース)
 
 
「食べる」という行為をただ観察する。
赤の他人がカメラの前で、黙々と「食べる」シーンをただ観察する。
考えてみれば、ごく普通な行為であるのに、これほど惹きつけられるとは思いもしなかった。
 
「食べる」というテーマは老若男女、万国共有の行為であり、雑誌やテレビを見れば、毎日のように「食べる」特集が組まれる。
料理ブーム、オーガニック食材の注目などを能動的に「食べる」ことと関わることは楽しみにもなる。また、「食べる」は旅の理由にもなり、人を動かす。
「食べる」は日常のどこかで必ず目に触れる、話題につきないコンテンツの優等生的存在だ。
 
そんな「食べる」というコンテンツがインターネットを介し、また新しい方向へと向かっている。
「ASMR」
この宇宙専門用語のようなアルファベット4文字言葉を聞いたことがあるだろうか。
 
ASMRとは、「音を純粋にリアルに楽しむこと」に焦点を当てたコンテンツである。
音楽や映画などのように芸術や娯楽として積極的にデザインされた音ではなく、
焚き火、パソコンのタイピング音、咀嚼音をなど日常で発せられる音のありのままを高感度マイクで拾いあげ、その音自体を楽しむ。音自体が主役のもの。
言葉通りに受け取ると、なんだかオタク的要素を多分に含んだものであり、一歩引いてしまうかもしれないが、馬が石畳の上を軽やかに翔ける音、電車の車輪が枕木に揺れリズミカルに発せられる音、レストランの卓上でカトラリーが触れ合う音など、記憶のどこかで、心地よいと感じた音はないであろうか。
 
ASMRはインターネットとの相性がよく、現在YouTube上に多くのチャンネルが存在しており、一定の地位を確立している。
その中でもモッパンと呼ばれる「食べる」ASMRに特化した番組が面白い。内容は基本的に無音の環境の中、固定されたアングルで、ただ「食べる」シーンを見る。構成はとてもシンプルでナレーションや解説はなく、余計なBGMなどもない。音を最大限に集中して「食べる」を楽しめる余白を意図的に作っている。
 
ある人気のチャンネルがある。
当初の内容はモッパンの基本概念に従い、普通の大学生の男子が一人カメラの前でジャンキーなインスタント麺を、大量かつ豪快に調理し、それをひとりで大胆に、音を立てて啜りあっという間に胃袋に納める。シンプルな構成だ。
音に集中した環境を楽しむ視聴者は、そのリアルな音とシュールな画像を介して単純に「食べ方はともかく、なんと美味しそうに食べるんだろう。」と食欲を刺激される。
また、音とシンプルな画像を通して、食器などの小道具の使い方、食べ方を通しての習慣や文化的な背景を比較して自分の「食べる」との違いを発見することも面白い。
 
ここで起こっていることは、
「食べる」音のコンテンツを最大化する為、余計なものを削ぎ落としていくという「引き算」の工程。
「引き算」という行為を可能な限り繰り返し、音と画像をシンプルに残す。
究極のミニマリズムの方向へ。
そしてそのミニマムの先に、視聴者が何かを主体的に感じる余白も与える。
見応えのあるコンテンツだ。
 
しかし、このミニマリズムだけでは、何となく物足りなさを感じ、いずれ飽きがくる。
これを乗り越えるために、この番組は「引き算」とは真逆の要素を加えた。
 
通常は1人で行われるASMR。
当初一人で登場していた大学生の息子に加え、お父さん、お母さんが登場。つまり「人」、「家族」の要素を加えたのだ。
登場人物を増やし、無言の中で掛け合いを生み出すという「足し算」の工程。
 
3人が一つの画面に収まり、各々が思いのままに目の前の料理に箸をつける。
画面の中の3人の咀嚼音が、リズミカルに響き渡る。
お母さんは自分のペースを守りながらも、二人に目を配り、優しく料理の取り分けのサポートし、お父さんは真面目な顔をしながら茶目っ気たっぷりに新しい食べ方を試みる。
お酒が飲めない息子は両親が仲睦まじく、ささやかに乾杯しているのを横目にばつが悪そうに、しかし豪快に肉にかじりつく。
家族の無言の掛け合いから発せられる、全体を優しく包み込んでくれるような不思議な安心感。
 
無言の中の咀嚼音に響く、家族の間の気遣い、立ち位置、そして温かい愛。
単調な音だけの世界の中に、奥行きが広がり、ストーリーが生まれ、リアリティが交錯する。
そして、音はもう一歩臨場感を増し、また新しい意味や価値をまとうのだ。
 
この空間から発せられる「音」を通しての価値は、世界中の人々から共感を得て、人気を博すようになった。
 
「引いて」、「引いて」、最後に「足す」
最後の「足し算」のエッセンスは、より音を共感できる価値にした。
「引き算」と「足し算」の絶妙な塩梅がコンテンツの方向性を左右する。
 
今日も普通に繰り返される「食べる」の日常。
今年のスタートは「食べる」音から自分を、周りを、そして世界を見つめてみようか。
 
 
 
 
***

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2021-01-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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