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結婚相手の選び方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:佐藤謙介(ライティングゼミⅡ)
 
 
私は妻と喧嘩をしたことがなかった。
 
結婚してもう15年になる。付き合い始めたときから考えると17年は一緒にいることになる。結婚前もそうだし、結婚してからも妻と喧嘩らしい喧嘩をした記憶がない。
 
知り合いにそんなことを話すと皆一様に驚きの表情を見せ、自分の家では考えられないといってくる。
毎日何かしらの言い合いをしているという人もいたが、私からするとそれでも一緒にいることのほうがよほど不思議な気がするが、少ない夫婦でも1週間に一回や月に一回は喧嘩しているというのである。
 
そして必ず聞かれるのは「どうして喧嘩しないの?」という非常にシンプルな質問だ。
この質問に対しては私の中で一つの答えがある。
それは「価値観が全く違うから」ということだ。
 
良く結婚前の男女にどんな人と結婚したいですか?という質問をすると、「価値観が合う人が良いです」という答えが必ず上位に入っている。
 
確かに同じものを見て感動したり、共通の趣味があったり、同じようなライフスタイルの人であればストレスなく一緒にいることが出来ると考えているからだろう。
 
しかし、私が結婚相手に選んだ女性は全く逆の「価値観の合わない人」だった。
これは実際には付き合う前から感じていた。そして付き合いだして一緒にいる時間が長くなればなるほど、その価値観の違いは色濃くみえるようになった。
 
好きな食べ物や好きな映画、好きな本、好きなファッションと言ったわかりやすいものから、これまでの育ってきた環境、家庭での教育方針、学校での過ごし方、好きな教科、大学での選考、アルバイトで何を重視していたか、仕事に対する考え方まで、とにかく「あ、それ一緒だ」と思うことが何一つ見つからなかった。
 
まるで私たちの価値観は、数学でいうところの2つの直線がどこまでいっても交わる点を持たない「ねじれの位置」のような関係性だった。
 
そんなに価値観が違う人と結婚すること自体がみんなには信じられないという事を言われるが、正直私も彼女と付き合うとは想像していなかった。
 
彼女は私が新卒で入社した会社の同期で、同じ部署に配属され、偶然隣の席になった。
そんな彼女と私の間には決定的な違いがあった。それは彼女がトップセールスであったことだ。
私は同じ営業として同じ部署で働いているときに、彼女に営業成績で勝ったことがない。というより彼女に営業力で勝てる人は、きっとその会社でも数えるほどしかいなかったのではないかというくらい、彼女の営業力は群を抜いていた。
 
私は隣の席で毎日のように契約を取ってくる彼女を見て、正直心のそこから悔しいと思っていた。何とか彼女に追いつきたいと思い、その秘訣を聞いたこともある。
 
ところが、ここでも価値観、というより発想の根本的なところから違いすぎて全く参考にならなかった。
 
「何でそんなに売れるの?」
「一番になりたいから」
 
「なんでそんなに売ってるのに毎日残業せずに帰れるの?」
「早く帰りたいから」
 
「お客様に大きな金額を提案しているとき、ちょっと緊張しない?」
「ぜんぜん」
 
正直まったく会話にならなかった。
ただ、それでも彼女を見ているとその特徴がぼんやりと見えてきた。
 
例えば彼女がお客様と話しているときの声色や話すスピード、声の強さが普段話しているときと微妙に違うのだ。もちろん私もお客様と話すときには話し方を変えている。しかし彼女の場合はそこに「自信」のようなものが乗っているように感じた。
 
そして私は彼女に営業しているときに何を考えているのかを聞いてみた。
すると彼女からは意外な返答があった。
 
「映画の中のカッコいいビジネスウーマンを意識しているよ」
 
彼女の言葉を借りれば、営業をしているその瞬間はその映画の中の女優に完全に自分がなりきっているというのだ。
例えばお客様との商談中であれば、頭の中の映画の主人公だったらきっとこういう話し方や振る舞いをしている。彼女だったらお客様に媚びを売ったりしない。
など、彼女の中で理想的な女性像があり、それを演じているというのだ。
 
私はその話しを聞いて驚いた。
私はむしろ逆のことを考えて営業していたからだ。
「お客様に信用してもらうためには、まずは素の自分を見せなければいけない」
これが私の中で持っていたイメージだ。
 
そのため相手に信用してもらえる人間にならなければいけないから、自分のことよりも相手のことを考えなければいけないと思っていたし、お客様に価値を提供できるように自分自身の知識も高めていかなければいけないと考えていた。
 
だから、誰か自分以外の人をイメージしてそれになり切るという発想は持ったこともなかった。そして私は、この自分とは全く価値観の違う女性を純粋に「すごい人だ」と尊敬の気持ちを持ち、そして興味を持つようになっていった。
 
ところが彼女もまた自分とは全く価値観が違う私を面白いと感じていたらしい。
私がお客様に対して出来るだけ素の自分を見せようと努力しているという話しは、彼女からすれば「よほど自分に自信がなければできない」と感じたというのだ。
 
彼女は本心では素の自分に自信がないからこそ、自分ではない理想の女性をイメージして、それになりきることで自分の素を見せなくて済むようにしていたのだ。
 
だから自分の素で勝負しようとしている私を見て「なんて自分に自信を持っている人なんだろう」と思い、彼女も私に対して尊敬の気持ちをもっていたようだ。(これはあとで彼女から聞いた)
 
そしてその後、何度か一緒に食事をするようになり、私たちは付き合うようになっていった。つまり私たちは恋愛感情でつながったというより、お互いがお互いを尊敬(リスペクト)しあうことで繋がった関係性だったのである。
 
そしてそれは結婚してからも変わることがなかった。
何もかも自分とは違う彼女を見ていると「なんでそんなことするんだろう」「なんでそんなことを考えるんだろう」と感じる一方で「でも彼女がやっていることなんだから、きっと何か意味があるんだろう」と考え、怒るというよりも「興味」のほうが勝るので、喧嘩にならないのだと私は感じていた。
 
ところがそんな彼女とここ3年ほど、口論することが増えてきた。
これまでは多少イラっとすることがあっても、それも彼女の考えだろうと、それほど気に留めることもなく聞き流せていた。
また10年以上、一緒にいればそうは言ってもお互いに何を考えているかもわかるようになり、先回りして考えることも出来るようになっていたので、相手の気に障るようなことは自然と回避することが出来ていた。
 
ところが、そんな二人の間に共通の関心ごとが3年前に突然現れたのだ。
それは「子供」だ。
 
これまで「ねじれの位置」だった二つの直線が交わる点が突如現れたのだ。
そしてこれまで自分と相手のことだけを考えていればよかった関係に、突然自分と相手のこと以上に大事な存在が現れたときに、二人の価値観の違いをぶつけ合う場所が出来てしまったのだ。
 
私は子供のころから比較的放任主義の家庭で育てられた。
父も母も私に対して過剰に干渉してくることはなく、好きなことを好きなだけやらせてくれる家庭だった。
 
例えば私は子供のころから勉強が苦手だった。小学校でも中学校でも勉強が出来ず、中学の時には学校の成績で250人中230番ぐらいの成績で、高校も家から通える普通科の高校の中では下から2番目の高校にしか入ることが出来なかった。
普通これだけ勉強が出来なかったら親として何か言いたくなりそうなものだが、私は両親から勉強しろと言われたことは一度もなかった。
 
片や彼女はと言えば、子供のころから勉強の成績は常にトップクラスだった。家でもお母さんから勉強するように躾けられ、またお兄さんも成績が良かったため、常に比較されることも多かったので、勉強ではトップを取るという事が当たり前の環境で育った。
 
また私は運動が苦手だった。
別に運動が嫌いだったわけではない。むしろ好きだし、勉強するくらいなら外で遊んでいるほうがよほど楽しかった。
しかし、私の母は私が美味しそうにご飯を食べる姿を見るのが好きだったようで、食べたいものは何でも好きなだけ食べさせてくれた。
 
今聞くと自分でも驚くのだが、私が中学生のころ6人家族で、ご飯を毎日5合炊いていたと母から聞いた。また結婚して妻を実家に連れて行ったときに、母親がデザートに苺を用意してくれたのだが、それが一人一パックと練乳一本ずつが目の前に置かれた。
 
それを見た妻は「これは何人で食べるんですか?」と聞くと母は「全部食べてもいいのよ」と笑いながら話すのを見て、さすがに私も「いやいや、それは無いでしょ」と突っ込んだが、確かに私が実家に暮らしているときは、そういう食べ方だったと思い出した。
 
こんな食生活だったので、当たり前だが私は太っていた。
というよりは学校一の肥満児で、中学校2年生の時には体重が100kgを超えて、将来は力士になって角界入りするかと、本気で学校の先生が考えていたくらい太っていたのだ。
 
その点でも妻は、小学校の時は陸上の選手で、市の大会では記録を作ったこともあるらしい。そして校内マラソン大会では常に1位を目指して大会前には毎朝自主練し、一位になれなかったときは人目をはばからず泣いていたというのだ。
 
だから私が「営業でなぜそれほど売れるのか?」と質問をしたときに間髪入れずに「一番になりたいから」と答えた理由がよくわかった。
彼女の中には何か競うものがあると一番を取ることが当たり前という前提があるのだ。
 
そして子育ては自分が受けた家庭教育がダイレクトに現れる場である。
これだけ違う環境で育った二人の教育方針が初めから合っていると考えるほうがむしろおかしかったのだ。
 
私は放任主義の家庭、妻は躾の厳しい家庭、これだけでも子供に対する教育方針が全く違うことは理解いただけると思う。
 
私は娘がやりたいというのであれば、やらせればいいと考えている。
3歳になる娘はYoutubeが大好きだ。暇さえあればYoutubeを見せろとせがんでくる。
ご飯を食べる時間でもお風呂に入る時間でも、寝る時間でも片時もスマホを離そうとしない。私もさすがに見すぎではないかと心配になることもある。また親のスマホだから過激な番組を見ているときなどは、さすがにチャンネルを変えたり、時には取り上げることがあるが、基本的には本人が見たいというのであれば見せておけばいいのではないかと考えている。
 
ところが妻はそうではない。
ご飯の時間になっても食べようとしない娘からスマホを奪い取ってご飯を食べるように言うのだ。当然娘は大泣きする。ただ、妻はそのあとご飯を食べるようにサポートするので娘も機嫌を直しご飯を食べる。
 
そしてこれは一日の中でもお風呂や寝る時間など様々なところで意見の食い違いとしてちょっとずつ二人の中にストレスとして蓄積し、何か刺激が加わったときに溜まっていたものが爆発するのだ。
 
ただ、私と妻の間で共通の価値観があった。
それは子供の人生は子供のものという価値観だ。
 
私は、子育とは「子供にあげた無地のノート」と同じだと思っている。
子供には子供の人生があり、子供の人生は親の人生ではない。
そして子供は親の所有物でもない。
 
まだ幼い子供ではあるが人格のある一人の人間なのだ。
子供がこれから自分の人生をどう歩むかは子供が自分で考えることだ。
 
もし親が子供にあげたはずのノートに「これを書きなさい」「これは書いてはダメ」と事細かに指示を出したら、きっと子供はそのノートをいらないと投げ出してしまうだろう。
それはつまり子供が自分の人生を投げ出すことと一緒だ。
 
子供にノートをあげた以上は、親はそのノートに何を書くかを感情に干渉してはいけないのだ。
 
では子供にはどう接すればいいのだろうか?
それは親が自分の人生を精一杯生きている姿を見せてあげることが一番いいのではないだろうか。
 
親が自分のノートに何を書いているのかを見せてあげることが子供に対して一番参考になるのではないかと思う。
 
私も親がやっていることをずっと見てきた。親が一生懸命働き、自分たちを育ててくれたことを見てきたので自分もそれに応えたいと考えるようになった。
 
そしてこれは妻も同じ考えでいる。まずは二人が本当にやりたいことをやり、その姿を娘に見せることが一番大事だと考えている。
 
基本的な価値観が違う二人の人生なので、きっと娘にも二人分のまったく異なる人生を見せることが出来るだろう。
 
娘がそれを見て、どんな大人になるのか?
その娘の姿を見て、妻と二人でどんな会話をするのか?
 
いまから20年後、楽しみで仕方がない。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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