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メディアグランプリ

リアクションは最高の燃料


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事: 萩野 晴(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「本当にイケメンなんですよ、もう」
 
タイムカードを押した直後からこんな話が始まる。
 
「自由人なんですけど、そこが可愛いっていうか。何をやっても許せちゃうんですよ」
 
ノロケ話を聞かされているのではない。
同僚が追っかけをしているK-POPアイドルの話だ。
 
朝から晩までカレの話。
おそらく金と時間と人生の全てをカレのために捧げていると言っても過言ではないだろう。
出演番組やイベントのチェックを欠かさず、移動中にはSNS、休憩時間にも遠征のための韓国語の勉強。
ひとたび彼らが来日すれば、ライブツアーは当然、全会場制覇。
出待ち入り待ち必須、ステージ外でのメンバー間の些細なやり取りまで見逃さない彼女は、たいして興味も示さない私に一日中語り続けても話題が尽きることがない。いや、話題なんか尽きても問題ないのだ。今、目の前にあるコロッケパンでも、来客用のスリッパでも、窓から入り込んできた蜂でも、カレと絡めて何か妄想しては楽しげに語ることができるのだろう。
 
それでも、私はどうしてもカレの名前を覚えることができなかった。一日何十回もその名を耳にしているのに、だ。
顔も覚えられない。もう何百回も写真を見せられているのに。
毎回与えられる膨大なファン垂涎の情報も話半分に聞き流して、内容も家に帰ったらすっかり忘れてしまっていた。
 
けれど、話の中身を覚えていないのになぜか、熱く語る彼女の姿だけが頭から離れない。
なぜこれほどまでの熱量を持って一日中語り続けられるのか。興味ないのに時々その熱量に押される、巻き込まれている自分に気づく。そのパワーは一体どこから来るのか。しかも、同意も共感もしない私を前に語っているだけで本人は幸せそうなのだ。
 
その後しばらくして、彼女は韓国に仕事を見つけて移住した。
 
一言で言うと、羨ましかった。よく分からないけど、私の知らない愉しみを彼女はたくさん知っている。それが彼女の毎日を幸福で満たしている上に、人生までも変えてしまっている。
毎日毎日、誰彼構わず捕まえては語っていたけど、彼女の目的は布教ではないのだ。
ただ好きで喋っていて、話している間も幸せで、それだけなのだ。
あれから数年経っても、漠然とした羨ましさは、常に心の片隅を占めていた。
 
私は、アイドルの追っかけをしたことがない。
アイドルに限らず、好きなバンドやアーティストや俳優なんかも特にいない。
だから、そのカレが今日は何を着ていたとか、どこのラーメンが好きだとかでワイワイキャッキャできる感覚は体験したことのないものだ。
「美味いラーメン屋の情報」だったら私も知りたい。だが、カレの行きつけのラーメン屋を知ったところで何が楽しいというのだ。教えてほしい、その感覚を。ぜひとも知りたい。
グループのメンバーの誰と仲がいいとか、誰と一緒に住んでるとか、だから何だというのだ。何が面白いのだ。テルミープリーズ。
 
「アイドルの追っかけ」はずっと、私の知らない魅惑の世界だった。
何が楽しいのかよく分からないけど、そこまで夢中になれることに憧れたりもした。
いっそ誰か追っかけてみればその境地に到達できるのかもしれないと思ったが、今テレビに出ている人で顔と名前が一致するのは3割程度というくらい芸能界に疎い自分には無理な話だった。
 
私も、夢中になれるものがないわけではなかった。
私の趣味は「鉄道」である。
家では時刻表を熟読、移動中は運行情報チェック、休憩時間には次の休暇の計画。
全国遠征はもちろんのこと、入り待ち出待ち、もとい入線待ちや回送見送り。
あれ?これって立派な「追っかけ」ではないのか。
やってることはたいして変わらない。
だけど、何かが違う。
 
その答えが最近になってほんの少し分かりかけてきた。
「リアクション」である。
鉄道趣味は、追っかけても追っかけても、話しかけたりプレゼント渡したり、目が合った(ような気がした)り、手を振ったら返してくれたりすることはない。
目的の場所に行き、目的のモノを見て、一人で満足して帰宅する。
 
「リアクション」があるかないか。
生身の人間と金属の塊の間にある「超えられない壁」である。
 
そういうものだと分かってしまえば多少気が楽になった。
全く同じようにはいかないけれど、ちょっと真似してみようと思ったのだ。
対象物そのものからリアクションを得ることはできないが、同様の体験をすることはできそうだ。
 
旅先で、進んでいろんな人とコミュニケーションを取ってみた。
そうすると、予想外の結果が返ってきて新たな展開が生まれることがある。
駅員さんがオススメの中華屋さんを教えてくれたり。
地元の方が、もうすぐ廃止になる駅の思い出を語ってくれたり。
車窓に顔を張り付けてる子供に手を振ってみたら、見えなくなるまでずっと振り続けてくれたり。
 
アクションを起こすと、思っていたより大きなウエーブとなって返ってくる。
これが楽しくて彼女は出待ちしていたのか。
ここからエネルギーを得ていたのか。
 
趣味は、全部自分の中で完結しても十分満足できるが、そこに「リアクション」というキュンポイントが加わると、満足度は150%にも200%にも跳ね上がる。
それが燃料となって、次の目標に繋がったり、毎日の生活に張り合いが出たりする。
あの人が教えてくれた絶景スポットを、次はこの人に教えてあげたい。私も、趣味のことを人にどんどん話せるようになった。
自分のアクションは、小さな炎。
リアクションは、燃料。
そこから生まれた熱量は自分を温かく包み、時に人の心も融かしてくれる。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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