メディアグランプリ

呪いをといて、おばちゃんになるのだ


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記事:本目 さよ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「切ればいいんじゃない?」
 
目上の男性から言われた言葉に衝撃を受けた。切るのは髪ではない。お腹のことだった。
 
あれはたしか、3年前の春のことだった。そのとき私は転職をして7年が経過したあたり。ずっと欲しかった子どもができて、安定期にはいったので関係する方々に妊娠の報告をしていたときの何気ない会話の一つだった。
 
とっさに頭に浮かんだのは
「え。なんでこの流れで帝王切開の話になるのか?」
「でも、反論したら仕事の相手だし、駄目かも……」
 
ということ。混乱した頭のまま、私にできたのは
 
「帝王切開で産んだら産後の回復が遅くなりますよ~!」
と引きつった笑顔で答えることだけだった。
 
どの病院でどうやって産むのか?という話だった。
私は予定日を決めて、誘発分娩をして無痛で産むつもりだと話していた。無痛分娩を選んだのは、産後の母体の回復が早いと聞いていたからだ。
 
産後の回復を早くしたかった理由は3つ。1つは育児休業がない仕事だったこと。自営業的な働き方なので、産後8週間で仕事に復帰しなければならなかった。2つ目は36歳の初産で高齢出産、体力に自信がなかったから。最後の1つは、出産後9ヶ月でどうしても私がやらなければならないプロジェクトがあり、その準備のためになるべく早く体力は戻しておきたかった。
 
ここまでだったら、出産についてあまり良く知らない方だから仕方がない……かもしれないと忘れることができた。ちなみに、その男性には子どももお孫さんもいる。きっと幸いなことに自然分娩でご家族は出産ができたのだろう。
 
話はここからだ。
 
時は流れ、出産の時がきた。計画的に薬で陣痛を起こして、陣痛が強くなってきたら麻酔を入れるかたちの無痛分娩だったのだが、陣痛がおきても子宮口が開かない。
 
結局無痛分娩は失敗。
1日半陣痛で苦しんだ挙げ句に帝王切開というフルコースを味わったのだ。
10%の確率で帝王切開になるという10人に1人にはいってしまった。
 
くじ引きとか宝くじならあたりたいが、そんな確率あたらなくていい。
 
さらに出産2週間後には傷口が膿んで、ぴゅーと血が飛び出すというオプションまでついた。
 
「計画的な無痛分娩を選んだから、帝王切開になってしまったのだろうか?」自分で自分をずっと責めた。産後の回復をはやめるための選択が別の結果を生んだ。
 
目上の男性の言葉は、出産への妊娠のお祝いの言葉ではなく、呪いと化した。呪いですよ。呪い……ぶつぶつ……
 
妊娠出産まわりのことはとてもむずかしい。
 
きっと気軽な気持ちで、陣痛とか経験せずに切って産めば楽じゃん?くらいな発言だったのだろう。悪気はないと思いたい。あと想像力がちょっと足りなかった。ちょびっとだけ。想像したらお腹を切るのだから痛いに決まっている。
 
結果的に呪いになってしまった出産に対する言葉。
 
本当に、本当に、出産まわりのことは人それぞれで、さらに自分でコントロールが不可能で、母は傷つきやすい。
3年経ってもまだ忘れていないのだから。
 
つわり、産み方、母乳に関して触れてはいけないことも記しておきたい。これは自分自身のためだ。
 
「つわりなんて吐く人なんていないよ!」
男友達が言っていた。
でも、つわりも人によって様々。吐く人もいれば全然平気な人もいる。自分の奥さんが吐かなかったからといって、他の人がそうだとは限らない。
 
産み方は、自然分娩なのか? 帝王切開なのか? 自然分娩だとしても、会陰切開をしたのか? まあこんな細かいところまで知っている人は経験者だけかもしれないが、そこは他人は触れないでほしい。当事者が話してきたとき、そうなんだね、と肯定すればいい。
 
母乳もデリケートな話題である。完全母乳といわれる(完母かんぼと略す)赤ちゃんが飲むもの全部を母乳にするパターンや、混合といわれるミルクと母乳両方飲ませるパターン、完ミという全部ミルクのパターンなどそれぞれ選択の理由や事情がある。配慮は必要だが、これも必要以上に尋ねないこと。
 
母乳について。こちらは女性、特にママとしての大先輩から言われることが多いと聞く。「母乳? ミルク?」と初対面でも聞かれるという話がママたちからはよく出る。
 
妊娠・出産に関しては、体調の配慮はしても、なるべく不用意なことを言わないことを、自分が出産したからこそ、わかったことをきちんと記しておきたい。私だってこれから年を重ねて、この思いを忘れてしまうかもしれないから。
 
あのとき私は
「それは傷つきます」
という言葉が言えなかった。言えなかったことが、その言葉を呪いにしてしまった。悪い方に物事を実現させるための。でも、同じ思いをあとに続く妊娠出産する女性たちに味わせたくない。これからちゃんと目上の人であっても、言葉を選びながらも伝えられるようになるんだと、心に誓う。
 
あれ? それってもしかしすると、おばちゃんになることかもしれない。
ズケズケと物を言って、ガハハと笑う。でもそれが許されるのがおばちゃん。気にしないふりをしてズバッというべきことをいい、若い女性に同じ思いをさせない。だけど、自分が知らないかもしれない、ということは常に自覚していようと思う。戦略的おばちゃんだ。人を傷つけないために。
 
「おばちゃんになるのも悪くない」
 
ニヤニヤしながらこれを書いている。
 
「戦略的おばちゃんに、私はなる!」
 
3年前の心の痛みはこのために、あったのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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