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ハードボイルドが好きな理由

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:加藤凡順(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「卵茹ですぎだよ!」
 
と毎朝同じセリフを言う事になる。
何回言っても、卵が半熟になることはない。
 
「うるさい、文句があるなら食うな! 自分で作れ!」
 
と、これまた同じセリフを母から返されて終わる。
 
高校生の頃に、シングルマザーで仕事が忙しすぎる母は、それでも毎朝朝食を作ってくれて、
ありがたいことしきりなのだが、
自分は、
毎度毎度、半熟でないゆで卵に文句を言っていた。
 
子供の頃から、食べられる食べ物は、お菓子か、ラーメンか、そばか、うどんか、カレーかパンという、しかも肉抜きのみ、という偏食ぶりだった。
卵も苦手な食材の一つだった。
他にも、
マヨネーズ、肉、特に肉の脂身、魚、特に刺身、生卵、白米、梅干し、納豆、ねぎ、
大根、キャベツ、と
全部と言ったほうが早いくらいのラインナップだ。
 
それでも高校生の頃には、「半熟卵」は美味いと言う境地には達していた。
しかし、
 
あの、「固茹で卵」はだめだった。パサパサしていて、歯茎の間や、口の中にずっと止まり、
油断すると、喉にも詰まる「固茹で卵」は、自分にとって危険な食べものだった。
 
そうかといって、食べないとか。残すと言うことは許されない厳しさで育てられたので、
全ては、飲み込む! と言うことで解決していた。なので、食事中の水は手放せない。
 
高校生の頃、自分は、友達もいない、当然彼女もいない、勉強もできなければスポーツも無理という一般男子。思春期の自意識過剰と反抗心から、クールを装い無表情、無反応を演じているが、実際のところ、何かがバレたらやばいという気持ちで、ドキドキしながら、毎日の社会生活、学園生活をやり過ごしていた。
 
外から見れば、大人しく目立たない生徒という感じだったと思う。
中身はどうだったかというと、社会正義に燃えて、いつもムカムカと腹を立てていた。
シングルマザーの母親の苦労を見ては、不平等な世の中に怒りを持ち、いったい誰のせいなのかと、犯人探しに躍起となっていた。
 
テレビに映るドキュメンタリーで、不幸な人や不幸な国が描き出されると、胸が締め付けられる思いを感じていた。
 
一方で、自分が無能力で、何もできない人間なんだという、うっすらとした自覚はあった。
 
そんな17歳と6ヶ月のある日、同級生が机の上に置いていた単行本の小説に目を引かれて、とてもかっこいい表紙だったからだ、口紅とサングラスと銃弾がイラストに描かれていた。
 
ガン見して本を眺めていた自分に同級生がすぐに気づいた。
 
同級生は、気前良く、「ちょうど読み終わったところだから貸してやるよ、面白いよ」
と言って、本を差し出してくれた。
 
それは、アメリカの探偵小説だった。
大して面白くないなと思ったのが最初の感想だった。
 
次の日に、
「なかなか面白かったよ」
と言って
本を返すと、同級生は、あと何冊か持ってるから、持ってきてやるよ
と言って、翌日、3冊貸してくれた。
 
2冊目を読み終わった時には、見事にハマっていた。
 
探偵のキャラクター設定が、フェミニストで、料理付きで、マッチョな元ボクサー。
 
出てくる主要キャストが、人種のるつぼで、あらゆるマイノリティが登場する、
そう、ちょうどアメリカの人種構成を代表するような、
 
みんながみんな、わがまま過ぎて、大変だなと思った。
アメリカって大変だなと、
 
一番惹かれたポイントは、主人公の探偵が、巨悪に対して、なんの反応もしないことだ。
憎むわけでも、怒るわけでもなく、関係ないというスタンス。
悪い奴と取引したり、理解しあったり、友好関係を結んだりする。
 
「どうして?」
と問いかけられた主人公が、「自分はできることをやる。それができることだからだ、それ以外のことはできない」と言い切って答えた。
 
自分は、その主人公の在り方に、救われた想いがした。
 
できることをやる。
 
それ以外のことは、諦める。
 
できることは、絶対にやる。
 
自分の無力が恥ずかしくて、生きづらかった毎日に
光が刺してきた。
何をやっても無駄だと頭に響いていた声が消えた。
 
できることをやろうと行動するように、背中を押してもらったような気分。
 
アルバイトを始めてみた。
バイクの免許を取ってみた。
フルローンでバイクを買った。
友達ができた。
彼女ができた。
寿司を食ってみたら、食えた。
あまりにも美味くてびっくりした。
卵かけご飯も食べられるようになった。
納豆もだ。
 
そんな、行動の結果、出会いの連鎖で、
今の自分が成り立っている。
 
読んだ後に、後書きをよんで知った豆知識は、
これがハードボイルド小説だということ。
 
なるほど、「聞いたことあるなぁ」
と思った。
 
そして、
ハードボイルドが「堅ゆで卵」であることを知るのは、もっとずーっとあと、
10年後のことになる。
 
今は、毎日3個の茹で卵を食するのが習慣だ。
半熟卵だったり、固茹でだったり、
どちらも好きで、美味い。
 
固茹で卵は、相変わらず、歯茎に残り、後味がずーっと続く、
それも嫌ではなくなった。
 
おでんに卵が入っていないとしたら、とても残念な気分になる。
 
ハードボイルド小説にハマってから、30年以上経つ今頃のことである。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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