メディアグランプリ

餅つきでご近所づきあい


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:亀村佳都 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「よいしょ! よいしょ!」
杵を降ろすタイミングで周囲から声がかかる。
 
ペタン、ペタン。
水で濡らした手で、臼の中にある餅を折りたたむようにひっくり返す。
 
「次につきたい人いますかー?」
「はーい」
 
手を挙げて、杵を受け取る。
威勢良く、手慣れたように餅を突く、頭に手ぬぐいを巻いたお父さん。
「わ、おもーい」と渡された杵を手にして臼に近づく20代くらいの女性。
 
「やってみる?」と声をかけられ、周りの視線を一斉に集めた7歳の男の子は、お母さんに抱きつくように顔を隠した。「一緒にやろう?」と、お母さんに促されて、少年は、恥ずかしがりながらも杵を持った。少年が餅を突く間、温かい空気が彼とお母さんを包んでいた。
 
Facebookのイベント欄を見ていたら、自転車で5分くらいのところで餅つきがあるのを知った。「1月9日(土)午前10時から餅つきをします。参加無料。どなたでもご参加ください」と記された、昨年4月にオープンしたゲストハウスからのお知らせだった。
 
「明日だ。餅つき、楽しそうだな」と目を留めつつも、「近所だけれど、同じ町内会でもないしなあ。行ってみて、寂しくなったらどうしよう」とためらった。
 
翌朝、「とにかく行ってみて、いたたまれなかったら、そっと帰ってこよう。近いんだし」とゲストハウス目指して自転車をこいだ。行かずに悩むより、行って後悔することを選んでみた。
 
会場に着くと、すでに餅つきは始まっていて、20人くらいの人たちがぐるりと臼を囲んでいた。しばらく様子を見て、何度目かの「誰か、つきたい人いますかー?」との呼びかけに、私は「はい!」と、大きく手を挙げて、思い切りよく返事した。そこに誰も知っている人がいなかったから、手を挙げるだけでは気づいてもらえないかもしれないし、か細い声ではかき消えてしまいそうだったので、出した勇気と同じくらいの大きさで返事をした。
 
「はい、どうぞー」と青年から杵を受け取り、私も、餅つきの輪に加わらせてもらった。
 
久々の餅つきは、大縄跳び回しに似ていた。順番がやってきたら、縄の中に飛び込んで、ロープにひっかからないように、縄が回るタイミングを見て飛ぶ大縄跳びの、うまく続けるコツは団結力。息を合わせて縄を飛び、掛け声で持ってリズムを取る。餅つき会場でも、餅をひっくり返す人と杵で突く人の呼吸や周囲の掛け声で、餅つきリレーが続いていた。
 
ひとしきり餅をつき、次の人にバトンタッチしたら、心に少し余裕ができてきて、私は周りの人たちに声をかけ始めた。
「楽しいですね」と言えば「そうですね」と返ってきた。
「餅つきを毎年しますか」と聞くと「いえ、初めてなんです」と返事があった。
「ご近所さんですか」と二人連れの女性に聞くと、家がお向かい同士とのこと。「わあ、いいですね! そういうの、憧れなんです」と素直に伝えた。
 
やがて、米粒が消えて、つややかなお餅が出来上がった。ゲストハウスのスタッフの人たちが、併設されているカフェで、お餅をまるめて、醤油、海苔、おろし大根、桜えび、きな粉とともに振舞ってくれた。
 
それらを手にして、席を探す時、先ほどの二人連れの女性が「一緒に食べませんか」と声をかけてくれた。「ぜひ、お願いします」と言って、三人でおしゃべりをし始めた。すると、共通の知人がいたり、節分には同じ神社に出かけていることなど、ご近所ならではの話題もあり、最後には「うちで今度お茶でもしましょう」という話になった。「参加してよかったなあ」と心が明るくなった。
 
子供の頃は、祖父が音頭をとって親戚が集まって餅つきをしたし、小学校でも田植えと稲刈りを体験する一環で、餅つきをしたこともあり、「餅つきは楽しい」と頭の中にインプットされている。なので、「餅つきがある」と知ると行ってみたくなるのだけれども、中学校に上がる頃からは縁が無くなっていた。
時代とともに、いつの頃からか、保健所からノロウイルスによる食中毒に気をつけてという注意が行われるようになり、餅つきを取りやめるところも増えて来たそうだ。新型コロナウイルスもやって来たので、餅つきをする機会はさらに減るだろう。
ただでさえ、もち米を洗って、蒸す作業は手間がかかる。一部の人に事前準備の負担がのしかかり、お金もかかってしまう。もはや懐かしいからと言って気軽にやろう、と言える行事ではない。
それなので、「地域交流のために」と誰でも参加できる餅つきの機会を作ってくれたゲストハウスの方達の善意が身に沁みた。
 
お餅を食べている時に「一人では来づらかったのですが、私は独身で、子供もいなくて。両親や親戚はいるけれども、家族は減る一方なので、地域と少しでもつながれたらいいなと思って。そう思える気持ちがあるうちに、思い切って来てみたんです」と二人の女性に打ち明けた。すると、「あら、私も両親はいるけれど、一人暮らしなのよ。同じね」と返ってきた。
 
単身世帯だろうと、複数世帯だろうと、一人ひとりの人生がある。社会と関わりつつ、役に立てるところは貢献し、教えてもらったり、助けてもらったりする場面ではお世話になって生活していけたら、やがて地域の中に自分の居場所ができるのではないだろうか。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事