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読書家の少女に分けてもらったのは情熱だった

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:黒木里美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
年末休みの午前中。
仕事納めはしていたが、ゴミ出しのために、勤め先へと電車で向かった。
着ぶくれした人が並ぶ座席。
私は窮屈でも座りたいと、肩をすぼめシートに腰を埋めた。
ドアのあたりに立つ人がちらほらいる。
向かいのドアにはスマホを手にした母親。
その足元には、立ったまま熱心に本を読む少女がいた。
スマホとにらめっこしている大人に混じって、少女の読書の姿にはすこぶる好感が持てた。
しばらくして顔を上げた少女は、本をうんと開き母親に見せている。
いい表情だった。
駅に着く手前で少女は本を閉じ、ドアが開くと母親と共に急いで降りて行った。
少女の読んでいたものは児童書の『銭天童シリーズ』だった。
しかし、帯がずれて表紙をはっきり見ることができず巻数まではわからなかった。
私の勤める学習塾にも『銭天童シリーズ』はある。
子どもたちに大人気で、返却されたと思うと、すぐに誰かが借りていく。
短編集で読みやすく、駄菓子の特徴と、子どもの悩みや願望がよくマッチしていた。
1巻は読んでいたが、借りたい子にも悪いし、時間もないしと、読み進めてはいなかった。
10巻を超えるシリーズもの全巻読む時間を今は持ち合わせていない。
読んだところで、少女が面白いといった話が分かるとも思えない。
それでも、久しぶりに、あの少女のように夢中になって本が読みたくなった。
うらやましい。
読書への情熱を少し分けてもらったような気がした。
 
子どものころ、いつも何か夢中になれるものを追い求めていた。
熱中する、心奪われる、のめり込む。
そんな体験をひっくるめて「ハマる」という言葉の方がしっくりくる。
 
人生で、一度ハマる経験した人の、なんにでもハマることができるようになる。
いいところでもあるが、事によっては厄介とも言えなくはない。
ただ、事実として、物は違えど、ハマり方には型があるので、一度マスターしてしまえば、あとはいくらでも応用可能なのだ。
 
私がロードバイクにハマったのがいい例だ。
きっかけは、友人の誘いだった。
もちろん、その友人は「ハマる」の達人だ。
達人は、ロードバイクに乗ると、瘦せるだの、交通費が浮くだの、ましてや自転車がどのぐらい高価だったかなんて野暮な話はしない。
ただただ、ロードバイクと自分の話をする。
初めての遠出、自分で修理をした話。
驚きと楽しさ、スリル、そして失敗と努力。
おもしろい。
今度は私の番だ。
質問をしていく。
どのような質問か。
それは、「ハマる」ための質問だ。
大学時代、フラメンコにハマっていた経験が生きてくる。
まず、重要なのはお金のこと。
初期投資についての質問だ。
最低限必要な道具は、どのぐらいの予算でそろうのか。
品揃えがよくて、親切な店員さんがいる店はどこか。
さらに情報収集の方法を聞く。
Webページ、ブログ、雑誌、ワークショップ。
以前、何かにはまったことのある人は、ハマり方のルートを知っているので、質問が的確だ。
答える方も、自分がハマったルートをなぞっていくのでレスポンスが早い。
ひとしきり話した後、最後はこう締めくくる。
「乗ってみる? 」
こうして私もロードバイクを購入し、今に至る。
買ったばかりのころ、うれしくてたまらず「ひとり箱根駅伝」と題して日本橋から箱根まで100キロ以上の道のりをロードバイクで走った。
最近は遠出や、大会に出場することはなくなったが、今でも休日のサイクリングを楽しんでいる。
仕事が落ち着いたら、石垣島ロードレースに出場したいなんて夢もある。
 
しかし、今は、ガマン、ガマン。
ハマりの達人たちは、ライフスタイルに合わせて細く長くと、続けていく。
時には、まったく離れてしまうこともある。
新しい「ハマる」に出会ったからかもしれないし、時間の制約から続けることが難しい場合もある。
しかし、心配することはない。
一度ハマったことは、決して忘れることはないからだ。
確かに、スポーツや芸事なら時間が経つと、腕が鈍るなんてこともある。
でも子どもなら特に、体が成長する分、できなかったことが、しばらく離れている間にできるようになるなんてこともよくある。
子どもと違い、大人はさらに体力の低下や認知の衰えがあるが、身に着けた技や知恵を失うことはない。
自分の体や、ライフスタイルに合わせた新しいルートを開発する。
それも、生涯続くハマることの楽しさだ。
 
特に、子どもたちが何かにハマるのは大いに賛成だ。
どんなものでも、熱中してほしい。
夢中になってもらいたい。
ゲームや漫画、友達との遊びを、ほどほどにしてほしいと心配する親御さんもいる。
どんなものにハマるかは、子どもの資質や、時代・環境の影響もあるので、親御さんの思うようにとはなかなかいかない。
よくやり玉に挙げられるゲームやYouTube。
だが、これも家族や友人と一緒であれば問題ない。
コミュニケーションツールとしての役割は絶大だ。
ぜひ、一緒に楽しいでもらいたい。
 
ただ、心配しなければならないことが1つある。
それは、何にハマるかではなく、ひとりでしているということだ。
ゲームやYouTubeをやめることができない、依存症と思われる子ども多くは、ひとりで行っていることがいい。
そのものが楽しくてハマっているのか。
それとも、寂しさを紛らわせたくてやっているのか。
もし、後者であれば、依存しているものを取り上げることでは解決はしない。
寂しさに寄り添い、一緒にハマってあげることが重要なのだ。
 
子どもたちが「ハマる」に出会ったら、ぜひ、周りの友達に紹介してごらんとアドバイスしてほしい。
時には興味がないと、そっぽを向かれてしまうこともあるだろう。
人は、それぞれ面白いと思うものが違うのだと知るのもいい経験になる。
どうしたら魅力が伝わるか、考えるのもよいだろう。
その先には大切な心が育まれている。
好奇心と、それから相手の大切にしているものを、自らも大切にしたいと思う、思いやりの心。
この二つがあれば、きっといい仲間に巡り出会える。
ハマることに時間を掛けた者だけが、得ることのできる喜びだ。
 
 
 
 
***

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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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