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中年の同窓会こそ、リモートをおすすめしたい


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記事:リサ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ここ数年は、同窓会というものを欠席してきた。
 
なんとなく出たくない、面倒くさい、そんな感覚を持つ人も多いのではないだろうか。
年に一度会うだけの関係。
懐かしいが、ただ、それだけだ。
中学、高校、大学、部活、サークル…… それぞれの砂時計は、もうとっくに、砂を落とし切っている。
一瞬、ひっくりかえしてみたって、会が終われば、また時計はとまる。
 
第一、私は、お酒があまり飲めない。
周りが酔っぱらっているのを見ると、波乗りをする仲間を、岸で見守っているような気分になる。
酔っぱらっていないせいか、大勢での会話も楽しめない。
人数が増えれば増えるほど、たいてい、会話の中身は薄まる。
美術の○○先生はヅラだったとか、○○は、××が好きだったといった、以前も聞いたような話ばかり。
何より嫌いなのは、それらに、さも驚いたように目を見開いたり、作り笑いを浮かべたりしている私。会の終わりに、「ああ、楽しかった」などと心にもないことを言ってしまう自分だ。
 
しかし、今年の一つは、断る理由を見つけられなかった。
ZOOMを使ったリモート飲み会になったのだ。
 
当日、ごぼう茶をグラスに注ぐと、ソファに足を投げ出して、時間になるのを待った。
 
参加者は、大学時代のテニスサークルの仲間8人。
午後7時に、パソコンの画面の上部に4人、下部に4人。
8つの四角いマスの中に8人の顔が、きれいに揃った。
 
居住地は、名古屋、東京3人、岐阜、静岡、北海道、シンガポールだ。
シンガポールの友人とは、二十数年ぶり、学生時代以来だった。
リモートでなければ、この先、一生顔を見ることもなかっただろう。
彼女は、少しふっくらしていたが、笑った感じは学生時代のままだった。
 
質問は、当然、シンガポールの彼女に集中した。
最初は、シンガポールの暮らしや、日本との違いなどで盛り上がったが、それ以上に驚いたのが、私が何一つ知らなかった移住の理由だった。
 
彼女は、在日韓国人だった。学生時代に呼ばれていたのは、通名だと知った。
いつかは、日本を離れたいと、当時から、アジアの国々を旅しながら、いくつか候補の国を考えていたという。
20代後半になってから台湾に。そのあと、知り合いの口利きで、シンガポールに。
今は、企業から委託をうけて、日本とのビジネスのコーディネーターを請け負っているそうだ。
 
「日本は、好きなんだけどね、でも、やっぱりいろいろ生きづらいって思ってたから」
と彼女は言った。
 
学生時代の彼女は、パンが大好きだった。パン屋の食べ歩きマップを作って、私にくれた。二人でパンを食べながら、恋バナなんかをしたこともあった。夏休みにアジアを旅行したといって、おみやげをくれたのも覚えている。
テニスで汗を流して、お腹を満たして、また翌日「おはよう」と声をかけあう。
ほがらかな彼女の、それ以上の何かを知ろうと思ったこともなかった。
 
人は、結局のところ、ほんとのところはわからないのだ。
 
誰もが、その時々に、何かしらの役割を演じている。
テニスサークルでの自分、職場での自分、上司として部下に接するときの自分や、妻として、母親としての自分、ペットと会話するときの自分…… どれも自分だが、同じ自分じゃない。
その場にふさわしい関係でいるために。
相手の期待に応えるために。
意識的にせよ、無意識にせよ、自分がちょっとずつ違うのは、たぶん、悪いことじゃない。
 
彼女は、今なら、話してもいいと思えたのだと思う。
それは、それぞれのテリトリーが完全に守られた、クリックひとつで去ることもできる、画面の中だったからかもしれない。
 
仲間たちの話は、それぞれに、感慨深いものがあった。
子供のことや、病気のこと、借金のこと、転職のこと……
面白可笑しく語りあいながらも、みな、人生を生き抜いてきたんだなと思った。
 
リモート飲み会は、コロナ禍における、応急処置的なスタイルのような位置づけだが、中年になった人たちこそ、試してみる価値があると思う。
中年はみな、同窓会での振る舞いを演じるのに慣れすぎている。ホテルやレストランでは、その役割をこなして会が終わってしまうのだ。
 
振り返ってみれば、こんなにくつろいだ気持ちで参加したのは初めてだった。
最初から最後まで好きなものだけを飲んだ。
腰痛の体に、お気に入りのソファは快適だった。
画面はそんなにはっきりしないかから、少しでも若く見えるように、入念な化粧や洋服に着替える必要もない。
住み慣れたいつもの部屋から、なんの利害関係もなかった昔の仲間とむきあっていると、思わず、ぽろっと心の内を話したくなるのだ。
 
途中、何か食べものをとりにキッチンにたった。
部屋の中に響く彼らの声が、背中越しに聞こえた。
再び、振り向けば、その場に、全員が座っているのではないかと感じた。
 
その空気は、小さな私のアパートに、テニスの練習後、みんなであつまっていたあの頃と同じだった。
早く会話にもどりたくて、そわそわしながら、つまみを用意していた19歳の自分を思い出した。
 
 
 
 
***

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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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