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「日本のベニス」は本当か


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記事:田中真美子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私の地元、富山県射水市新湊地区がざわざわしはじめたのは、ちょうど今から5年ほど前のこと。
都内に勤める私が通勤で新橋駅の構内を歩いていた時にふと目に飛び込んできた見慣れた風景。
それはJR東日本の「大人の休日倶楽部」の吉永小百合のポスターの中にあった。
 
あれっ、これ内川じゃん!!
 
内川は富山県射水市新湊地区に流れる、富山新港と奈呉の浦という二つの港をつなぐ全長2km弱の小さな川の名前だ。
海と海をつなぐ川というのは、日本では珍しいのだそう。
漁船がいくつも停泊し独特の景観をつくり、また12基の個性的な橋がかかる川として近年は富山県の観光名所となっている。
中でもよく紹介されているのが、スペインの建築家、セザール・ポルテラ氏が設計した東橋(あずまばし)という橋だ。
赤い屋根がついた木造の橋で、橋の両端にはベンチがあり、そこに腰掛けて休憩することができる。
 
私の実家は東橋のすぐそばにある。この橋が新しくなって今の東橋になったのは中学生の頃だ。
部活帰りに友達と東橋のベンチに腰掛けて、とりとめなく好きな男子のことを語り合っていたのが懐かしい。
 
そんな内川が吉永小百合のポスターで全国区である。
さらに同じ頃、2015年7月にフジテレビの月9枠で放送されたドラマ「恋仲」で主演の福士蒼汰と本田翼が高校時代を過ごした場所としてロケ地になったのだ。
 
これまた地元がざわざわした。
実家を離れ、神奈川に住む私のところにも親や同級生から芸能人の目撃情報が寄せられ、大興奮している様子が伝わってきた。
何の変哲もない田舎町にとつぜんテレビに出ているトップクラスの俳優が現れ、テレビドラマ、しかもあの月9で放送されるなんて!
 
その翌年には竹野内豊主演の映画「人生の約束」の舞台となる。
東橋の前でもロケが行われ、実家が映るということでスタッフが家に来たらしい。
期待して映画を見に行ったら5秒くらいしか映らなかったが、それでも立派なスクリーンデビューだ。
 
ドラマや映画のロケ地になったことで、過疎化、高齢化が進んでいた町に活気が生まれ、観光客が徐々に増えておしゃれなカフェやバーもできはじめた。
全国で発売される旅行雑誌にも観光地として内川が紹介されるようになった。
 
その頃からだ。
誰が最初にそう呼んだのかはわからないが、内川沿いを観光地として宣伝するため、こう呼ばれはじめた。
「日本のベニス」と。
ん、日本のベニス??
 
ベニスは言わずとしれたイタリアの世界的に有名な観光都市だ。
ベニス(またはヴェニス)は英語読みで、イタリア語だとヴェネツィアと呼ぶ。
歴史ある美しい建築物の間を細く入り組んだ迷路のような水路が走り、その水路をゴンドラに乗って散策することができる。
「ヴェネツィアとその潟」として世界遺産にも登録されている。
毎年2月にはカーニバルがあり、仮面をつけて華麗な衣装に身を包み、仮装した人で溢れかえる。
そんなエキゾチックで歴史ある美しい水の都がベニスだ。
 
新婚旅行でイタリアを周遊した時にベニスのホテルに一泊し観光したが、我が故郷と似ているとは感じなかった。
案の定、ネットのクチコミを見ると「ベニスとは似ていない」「キャッチコピーが壮大すぎる」などのコメントが並んでいたのでしょんぼりした。
 
しかし、しょんぼりしている場合ではない。
我が故郷、富山県射水市新湊地区のベニスに負けていない良いところをアピールしたい。
 
まずはグルメ。
漁港のある港町なので、安く新鮮な魚をどこでも食べることができる。
ふらっと回転寿司に入っても、クオリティの高い新鮮で美味しいお寿司が出てくるので驚くことだろう。
ベニスで観光客が海の幸を食べようと思うと値が張るが、新湊ではお値段もお手軽だ。
 
そして歴史。
内川とつながる奈呉の浦はかつて景勝地として知られ、松尾芭蕉の「奥の細道」に登場する。
また万葉集でその景色が大伴家持らの歌に読まれている。
奈呉の浦にある神社、放生津八幡宮には芭蕉の句碑や家持の歌碑が存在する。
芭蕉がたどった道や家持が歌った景色を知ることができ、歴史に興味があれば訪れる価値があるだろう。
 
最後はお祭りだ。
毎年10月に曳山祭りが行われる。
昼は造花を飾った花山、夜は提灯を飾った提灯山と呼ばれる曳山(山車)が町中を練り歩く。
曳山はとても大きく、曳山を引く曳子の威勢の良い掛け声とともにかなりのスピードで動くので迫力があり、見応えがある。
夜の提灯山はオレンジ色に灯る提灯のあかりが浮かび上がり、幻想的で美しい。
 
住民もお祭り好きで陽気な気風だ。
かつて地元の高校、新湊高校が甲子園に出場した際に、下馬評を覆し強豪校を倒して準決勝まで進む快進撃を見せたことがあった。
この快進撃は「新湊旋風」と呼ばれ、応援団のド派手さとセットで記憶している甲子園ファンは多い。
 
このようにベニスとは似てないかもしれないが魅力あふれるとても良い町だ。
コロナが落ち着いたらぜひ訪れて観光して欲しい。
 
と、ここまで書いて新婚旅行の写真を見返していたら目に留まる景色があった。
 
あれっ、この景色、内川に似てる!!
 
小さな川に停泊する船の連なり、川の両側を歩く人たち。
どことなく田舎っぽいのどかな雰囲気。
そうだ、これはベニスを観光したときに行ったムラーノ島だ!
 
訂正しよう。
富山県射水市新湊地区、内川沿いの景色はベニスにある離島、ヴェネチアン・グラスの生産地として有名なムラーノ島の景色によく似ている。
 
「日本のベニス」改め「日本のベニスのムラーノ島」である。
 
本当に似ているかどうかはいつか訪れてぜひ皆さんの目で確かめて欲しい。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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