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「いつも通り」の日常に恐怖は訪れる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:KATO RISA(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 
自分でも信じられないくらいの叫び声が出ていた。
 
名古屋市天白区の狭い路地。
22時をまわった頃のことだった。
 
そうだ、ナンバープレート!!
 
そう思った時にはすでに遅かった。
 
―――――
 
今から10年ほど前。大学生の頃のことだ。
バイトでラストまでのシフトを終え、21時半頃、バイト先をでた。
 
バイト先から家までは自転車で5分ほど。
いつものように自転車にのって、いつもの道を通って家にむかった。
 
飲食店やガソリンスタンドのある広い道から一本中に入った、
近道として使っていた、暗くて狭い路地で事件は起こった。
 
後ろから走ってきた原付に気づいていたのか、気づいていなかったか
あまりよく覚えていない。
 
ハッと思った時には、すぐ隣に原付がいて、
次の瞬間、自転車のカゴの中にいれていた鞄がなくなっていた。
 
ひったくりだ。
 
一瞬、頭が真っ白になった。
2、3秒して我にかえり、とっさにあがる叫び声。
 
普段、大きな声を出そうとすると声が裏返ってしまい、
バイト先では、厨房にオーダーの声が通らず、
先輩に言いなおしてもらったりしていた。
 
それが、いざとなると、
引っ張ったらひたすらに鳴り続ける防犯ブザーのように、
自分の意思とは関係なく大声が出て、それに驚いている自分がいた。
 
状況を理解しようと必死で頭をまわす。
 
ナンバープレート……
あぁ、もうみえない。
 
どんな人だったのか、どんな原付だったのかも
分からない。
 
まだ数秒前の出来事なのに、まるでその瞬間の映像だけ、
編集して削除されてしまったかのように全く思い出せない。
 
どうしよう……。
 
サイフ、携帯、家の鍵もすべて鞄の中で、
手元には何もない。
 
ひとまず、近くにあった服のセレクトショップにかけこみ、
電話を借りて110番。
 
外観にスプレーでドクロが描かれている、ちょっといかついお店。
普段も近くをよく通っていたが、一生入ることはないだろうな、
と思っていたお店だった。
 
でも、いまはそんなことも言っていられない。
 
店員さんは、困惑しながらも快く電話を貸してくれ、
交番も近かったのですぐに警察がきてくれた。
 
人生初のパトカー。
まさかこんな、日常の終わりにパトカーに乗るとは思ってもみなかった。
 
交番につくと、何枚もの書類と、細かい事情聴取がはじまった。
 
「鞄にはなにが入っていました?」
「財布と、携帯、デジカメ、家の鍵、バイトの制服と、
あ、バイト先でもらった残りもののご飯も入ってました……
あと腕時計も、あったかも、しれません……」
 
「財布にはいくら入っていましたか?小銭の枚数、お札の枚数もお願いします」
「枚数……ですか……たぶん総額は2,000円くらいしか入っていませんが、
枚数までは……すみません」
 
そこからも、クレジットカードの種類、時計の金額、ブランド名、
家の鍵はどんな種類かなど、細かな質問が果てしなく続き、
気がつけば24時をまわっていた。
 
ようやく、交番を後にしたが、
私にはまだ大きな問題があった。
 
帰る家がない。
 
一人暮らしで、家の鍵も、携帯もない。
電話番号を思い出せるのは実家くらい。
普段どれだけ携帯に頼っているかを思い知った。
 
母に電話してみるも、さすがに長野から
深夜にとんでくるわけにもいかない。
 
どうしよう……
 
しばらく考え、数回泊めてもらったことのある友達の家が頭に浮かんだ。
幸い、歩いていける範囲だった。
電話番号が分からないのでアポなしだが、ダメもとで向かい、
部屋番号も勘で、インターフォンを押した。
 
これでだめなら、人生初パトカーに続き、人生初野宿か……
 
と公園で眠る妄想を膨らませたが、なんとかそれは免れた。
 
夜中に突然インターフォンが鳴り、
 
「夜中にごめん……いま実はひったくりにあって……
携帯も鍵もお金もなくて……突然で本当にごめん……」
 
そう言われた友達もさぞ驚いたことだろう。
 
モニターのあるマンションでなければ、インターフォンに出る
ことさえなかったかもしれない。
 
結局、私の鞄は2日後に隣の市で落ちているのが見つかった。
安物だが、デジカメと腕時計がなくなっていた。
財布は、カード類はそのままで、現金だけが抜かれていたことから、
若者の突発的な犯行ではないか、と警察官が話していた。
 
私はもともと心配性なほうで、
実家に住んでいた時には、田舎なので窓を開けっぱなしで寝たり、
出かけたりすることも普通だが、私は不安でこっそり鍵をしめていた。
 
歩いている時に、交差点で信号待ちをする時は
車が突っ込んでくるかもしれないから少し交差点から距離をとって
立つようにしていた。
 
それでも、ひったくりにあうかもしれない、という想像はできていなかった。
実はちょうど事件にあう前日にTVでひったくりに注意! と促している
番組をみたばかりだったのだが、「まさか自分が」と心の中では思っていたようだ。
 
警察官によると、
後ろからバイクや自転車、車が近づいてきたら必ず振り返ることが
大事なのだそう。
「もしかしたら顔を見られたかもしれない」
と思ってその場で犯行をやめる場合もあるという。
 
そもそも、自転車のカゴになるべく荷物はいれない。
カゴにいれる場合もできればカバーをかける、
なければ雑誌をひろげておくだけでも効果的。
鞄を手に持つ時は、車道側ではないほうの腕にかけることも大切。
 
様々なアドバイスをいただいた。
 
危険は案外「まさか」と思うような日常のシーンに突然訪れる。
恐れすぎることはないが、「もしかしたら」という気持ちは
大切だと思う。
 
そして、自宅の鍵か携帯、せめてどちらかは鞄ではなくポケットに
入れておくことをおすすめする。
 
 
 
 
***

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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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