「ごろく」は私の心の支えだった
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田中真美子(ライティング・ゼミ平日コース)
「知識が無いって、4、5回言ってる間に勉強すれば学べそう」
これは、昔同じ職場で働いていた後輩の女性社員の言葉だ。
どういうシチュエーションで発せられたのかはすっかり忘れてしまったが、この言葉だけはよく覚えている。
いや、マジその通りだなと。
知識が無いことを嘆いているヒマがあったら、その知識を得て自分のものとすべく勉強した方がいい。
何から手をつければ良いかわからなければ、知識のある人に教えを乞えばいい。
この言葉がとても私の心に響いたので、パソコンのメモ帳に書き記しておいた。
「それはマスターベーションだ! 」
これは昔の上司(男性)が、私たちのチームの仕事ぶりに対して怒りながら発した言葉だ。
「お前たちの仕事は自分たちのやりたいことばかり進めていて、自己満足だ。ちゃんとお客様が求めていることを理解し、やるべきことをやれ! 」とハッパをかけたかったのだろう。
そう言えばいいのに、女性社員もいるのになんでわざわざ性的な意味をもつ言葉に置き換えて言っちゃったんだろう…、それが面白くて笑いをこらえながら、これもこっそりメモ帳に記した。
いつの頃からか、私は仕事中に上司や同僚が発した記憶に残る発言や、面白かった出来事をメモするようになった。
仕事でそんな面白いことなんて起きないでしょ、と思われるかもしれないが、ある一時期なぜか毎日のようにちょっとした面白い出来事が起きていたのだ。
そんなある日のこと。
長年在籍した部署を離れ、全く別の部署に異動することになった私。
異動する直前に、今まで書き溜めていたメモをチームの仲間にメールで展開した。
すると、そう言えばこんなのもありましたよ、と仲間がどんどんメモを追加してくれた。
みんな色々ネタ持ってたんだ。
仲間が付け足してくれたメモを追加して、心に残った、面白い語録という意味を込めて「ごろく」というファイル名でメモ帳を保存した。
辛くなったらこれを読もう、とそのメモを携えて新たな職場へと赴いた。
最初の数ヶ月は地獄だった。
あまりにもヒマすぎたのだ。
私の勤務先は社員が1万人以上いる、大企業に分類される会社だ。
これは大企業あるあるだが、同じ会社でも部署が違えば全くカルチャーが異なる。
カルチャーが異なる世界に一人飛び込まされた私は、何から手をつければいいか分からず途方にくれていた。
しばらくは資料を読み込んで自分なりに整理したりと、周りが忙しく動き回る中ぼんやりとデスクでパソコンに向かう日々が続いた。
異動する前はあんなに毎日何かが起きていたのに、何も面白いことは起きず凪の状態が続いた。
日々アップデートしていた「ごろく」も全く更新されずに数ヶ月が過ぎていた。
そんな中、急に新たなプロダクトの開発プロジェクトが立ち上がった。
前の職場での私の経験が活かせると期待され、そのプロジェクトの開発メンバーとして参加することになった。
そこからは急展開、今までの凪が嘘のように嵐に巻き込まれた。
カルチャーが異なるメンバーに自分の考えを伝え、意思疎通するまで何度も何度も対話を繰り返す日々。
時には上司にかみついた事もあった。
徐々に、自分の中で時が動き出したような気がした。
さらには昇進のチャンスも得ることができた。
しかし、プロジェクトを進めるだけでも忙しいのに、社内の昇進試験の課題提出に向けた準備をすることになり、私はてんてこまいだった。
不慣れなことに取り組まなければならない不安から、ついに私は上司に弱音をこぼしてしまった。
「私には、昇進試験の課題を提出するために必要な知識が足りず、うまく課題をまとめられる自信がありません…」
奇しくも、冒頭の後輩の言葉を裏切るような発言だった。
彼女に聞かれたら、彼女は私に失望しただろう。
そんな私の弱音を聞いて、当時の上司はボソッと呟くように言った。
「足りないのは、知識じゃなくて覚悟じゃないの? 」
上司の言葉は私の心にグサッと刺さった。
いや、マジその通りだわ。
今更ながら私はその時気付いたのだ。
あの頃、なぜ毎日のように面白い出来事が起きて、心に残る言葉があって、「ごろく」が日々アップデートできたのか。
ようやく気付いた。
自分が目の前の仕事に真摯に向き合い、情熱を持って取り組んでいたからこそ、何気ない上司や同僚の一言が心に響き、些細な出来事をも面白い出来事として捉えられたのだ。
そして、その情熱を仲間と共有できていたからこそ、仲間が私の「ごろく」を読んでアップデートすることができたのだと。
つい弱音を吐いてしまったが、この時も真剣に取り組んでいたからこそ上司の呟きが深く自分の心に突き刺さったのだ。
そうして、私の「ごろく」はまたアップデートを再開した。
この時の上司は素晴らしい上司で、様々な心に残る言葉を残してくれた。
それを私はいちいち書き溜めていった。
「新聞を読みなさい」
という第三者が読むと全く大したことない言葉も、言われた時の状況とセットで私にとってはすごく重みのある言葉だったのでこれも書き加えた。
突然の異動から3年が経ち、古巣である元の部署に戻ることになった私。
元の部署に戻ってきて久しぶりに懐かしい面々と再開し、昔の仲間から声をかけてもらった。
「仕事で悩んだら、あの時言ってくれた言葉を思い出すようにしています」
「前にタナカさんが『自分に責任のある無しは関係なく、問題が起きてもやり遂げるのが仕事だ』って言ってたから、私もそうしようと思って頑張れます」
そう言ってもらえて、私の言った何気ない一言も、誰かの「ごろく」に記録されているんだなと嬉しい気持ちになった。
これからも自分の、誰かの「ごろく」をアップデートし続けたい。
この情熱を忘れないように、この言葉を記しておきたいと思う。
***
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