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メディアグランプリ

2020年に衝撃とともに“読み終えだ”たった1冊の本


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:やすだともこ(リーディング・ライティング講座)
 
 
書店店頭で本が売れた1年だったという2020年。
1ヶ月に数冊は必ず本を読了している私が、12月31日、Facebookにこう投稿した。
 
なんと読み通した本がたった1冊。
集中して活字を追うことができないという、なんとも不安定な状態の1年でした。
 
その1冊とは、凪良ゆう『流浪の月』。2020年本屋大賞受賞作である。
 
本屋大賞受賞作だけは読む、という毎年の恒例行事。「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」、想いの詰まった賞だからこそ、まず外すことがない。私にとっても、年1回は冒険せずに読める本でもある。
 
だが、2020年にかぎってコロナ禍初年度に読んだたった1冊の本になってしまった。
 
更紗は9歳のとき、当時19歳だった男子大学生「佐伯文(さえき・ふみ)」に“誘拐”された。この「家内更紗ちゃん誘拐事件」を発端に、その後の2人を描く物語である。
 
更紗と文にとっては、この事件は“誘拐”ではない。しかし、この事件を「誘拐だ」「ロリコンの犯罪だ」「9歳の女の子が穢された」と解釈した世間は、2人をほうっておいてはくれなかった。
 
その解釈がつぎつぎと2人の人生をゆさぶっていく。
 
“でも多分、事実なんてない。出来事にはそれぞれの解釈があるだけだ。”
“事実なんてどこにもない。みんな自分の好き勝手に解釈しているだけでしょう。”
 
何度も何度も1冊のなかで「事実はない、解釈があるだけ」と繰り返される。でもその声は、周りの人には届かない。世間の「解釈」が正解で、当事者である更紗と文の声はあらゆる場面で退けられていく。
 
私自身は2人の子どもの母親だ。
 
まだ1歳にもならないころだっただろうか。2人ともよくモノを下に落とした。テーブルから食器を落とす、お茶を床にぶちまける。でも本人はいたって楽しそうである。
 
親にとっては、不快以外の何者でもない。片付けても、片付けても、片付かない。思わず声を荒げても、1時間後には同じことをしている。なぜこんなにダメっていうことをするんだろう。うちの子は言うことをきけないんだろうかと途方にくれた。
 
しかし、ある脳科学者の先生に仕事で会ったとき、この話をしたら言われた。
 
「子どもはね、壮大な実験をしているの。生まれてきたこの地球上で、これを落としたら、どんなことが起こるかなって。それを繰り返して、こうしたらママが怒るとか、ものが落ちることとか、学んでいくのよ」
 
なるほど。そう解釈すれば、まだ“地球歴”の浅い子どもの行動も、かわいく見えてきた。自分のものさしだけで解釈し、「やってはいけないことをやっている子ども」という“事実”が、まったく違う「地球を楽しんでいる子ども」という事実に見えてきた。コペルニクス的転回である。
 
子育てをしていると、解釈次第で大人の常識を事実としてしまっている浅はかさに、自分でがっかりすることが多い。子どもたちが小学生なった今でもそうだ。
 
この“解釈”、「親」が間違うと虐待につながりかねない。一方で、「世間」という大きな塊が解釈すると、人を集団でめった刺しにする武器になる。コロナ禍でも明らかになった同調圧力の強い日本社会では、なおさらだ。感染しただけで村八分、転校を余儀なくされる子どもたち。感染を悪とする“解釈”が人を苦しめていく。見えないウイルスと闘っていることは世界中が同じで、自分もいつ感染するかわからないのにもかかわらず。
 
その恐ろしさを、誘拐事件を通して再現しているのが、この『流浪の月』だった。
 
日々の生活が劇的に変化するなか、本1冊も読み通せないほど集中力の途切れた日が続くなか、夢中で読んだ。一晩で読んだ。読み終わったあと呆然とした。
 
なぜ人は解釈によって生まれた固定観念から抜け出せないんだろうか。
その解釈で人を勝手に判断するんだろうか。
それが人を不幸にすることに気づかないんだろうか。
そんな解釈を自分はしてしまってないだろうか。
人を不幸にしてはいないだろうか。
子どもを不幸にしていないだろうか。
 
本を片手に空を見つめながらぼーっと丑三つ時をすごした。
 
そして、この文章を書くために、週末にもう一度、この本を開いた。
 
同じだった。夜中に一気読みした。ストーリーもわかっているのに、「なぜ勝手に人のことを解釈して、不幸に突き落とすんだろう。世間はそういうものだから仕方ないんだろうか」と半ば諦念さえ心に浮かぶ。
 
きっともう1回読んでも同じだろう。それほどに衝撃的で、のめり込んでしまう1冊である。
 
そして、もう一つ、解釈が誤った事実を生んでしまったことに気づいた。
 
実は、私は2020年、マンガも含めて37冊も読んでいたらしい(書籍は8冊しかなかったけれど)。読書記録アプリが、先日教えてくれた。今見直すと、どの本も内容をはっきり思い出せるほど面白かったものばかりだったのだが、『流浪の月』の衝撃が強すぎて、どうも読んだ本が1冊だけだったという解釈をしたらしい。
 
いやはや、解釈は恐ろしい。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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